第238話 オークション後
『ヘイッセーメー!! めっちゃ面白かったぜ!! 絶対またやってくれよ!!』
『若返り薬まだあるよな? なっ?? あるっていってくれよ!! なんだよ10億ってふざけんな!! あんなの落とせるわけねえだろ!!』
オークションが終わると、各自が集まってロビーのような場所で会談をしていた。ロビーには世界共通のコーヒーショップが開いており、全ての物を無料で提供している。お店を貸切にしても先程のオークションの手数料すらも賄えないようなレベルなので、特に売上は気にされていないのだ。
「あんたら大丈夫か? あんなに金使っちまって……奥さんに怒られない?」
『HAHAHA!! 金なんていくらでも稼げるからな』
『そうそう。金はいくらでも稼げるけどな。時間だけはどうしても買えないんだ。お前以外からは』
ここにいる者達は正真正銘その気になればいくらでも稼げる者達である。時間さえあればいくらでも稼げるのだが、その残された時間が少ないのだ。若くしてここにいる者もいるが、老いには勝てない。それに逆らえる薬なんて神の薬以外の何物でもないのである。
『もっとやばいのあるんだろ? 教えろよ?』
「今日だしたやつ……やばいと思う?」
『あれがやばくなかったらなにがやばいってレベルだな』
「出してないやつはさ。今日出したやつがかわいいってレベル」
『オーマイガッ!!』
例えば進化薬。飲むと飲んだものの可能性を加味して人以外に変わる薬。ちなみに人が飲むと大体ゴブリン等の魔物に変わる。武藤が飲むと超越種で結局人外になってしまう。異世界で長い歴史の中で魔物以外に変われた者は数人だけという禁忌の薬。
魔食い。金属の筒に入っている特殊なスライムの魔物。人の心臓に寄生する。魔力があればそれを吸い、無ければ対象の栄養を吸い取って生きる。対象が弱ると近くに他の寄生対象がいる場合、容赦なく殺して次の寄生先に移るとんでもないやつである。だがこいつは魔力を蓄えることが可能な為、異世界では男性がわざと寄生させて、魔法を使うというアタマのおかしいやつも一定数存在していた。結局魔力補給に魔石が必要なため、全く意味のない行動なのだが。地球だとサナダムシに似ており、寄生されればいくら食べても太らないという女性にとっては夢のような体質になれる。ただし病気などで食べられない時間が続くと殺される。
変身薬。変身したい対象のいち部を摂取することで対象に変身することができる。一部は髪の毛でも血の1滴でもいい。そのままだと解除されない為、変身相手が2人存在することになるといういわゆるドッペルゲンガー現象となる。記憶だけは本人のままの為、相手の人生を乗っ取ることが可能であるが、変身対象が死ぬと効果が消えるので殺すことはできない。
ご想像の通り異世界で王家の乗っ取りに使用されたことがある。その時、国が滅びる寸前までいったが、解除薬で効果が消えることがわかり、その国はなんとか滅びずにすんだ。
ちなみに人間以外にも変身できる為、猫になったり、犬になったりも可能。故に変身対象に変身後、その対象を動物に変えれば安心して背乗り可能である。ただし犬等寿命が短い動物にするとすぐに死なれてしまう為、鳥や亀等の寿命が長い動物に変える必要がある。
支配の首輪。異世界もの御用達の首輪だが、隷属効果はない。言うことを聞かせることができるわけではないが、首輪と対になる円盤のような物を持ったものの命令によって、痛みを与えることができる。だが実際は痛みだけでなく、快楽から感情変化まで色々とできるやばいアイテム。異世界では痛みしか知られていない。武藤がたまたま盗賊相手の尋問に使った際に、落ち着けといったらあまりに急に落ち着いた為に気がついた。そのため、これをつけられた者は感情を完全に操られる故に精神がぐちゃぐちゃになり精神崩壊する事が多い。ちなみにこの首輪は武藤以外はつけたら外せない。
召喚石。起動後に殺した相手を取り込み、そのコピーを召喚できるようになる宝石。故に起動後、一瞬で殺すとハリボテにしかならない。相手の強さを存分に引き出して上で殺すことで、本来の相手そのものに近いものを召喚することが可能。召喚した相手に自我はなく、召喚者の命令に淡々と従うだけである。その気になれば簡単に成り代わりが可能となる。
ちなみに武藤はダンジョンにいた各種ドラゴンを召喚できる石を持っている。一番弱いドラゴンで、地球上の兵器では核以外では勝つのが難しい強さ。
「興奮薬とかはいいと思ったんだけどなあ」
興奮薬。その名の通り飲むと興奮する薬。武藤は大した事ない薬だと思っていたが、媚薬どころではない効果があるため、猪瀬に危険と判断された。魔力がある相手には効果がない為、異世界では専ら男性用として用いられていた。いわゆるバイアグラである。だが地球では女性にも使える為、知らぬ間に飲まされると大変なことになる。同調の指輪や快楽薬と同時に使用するともっと大変なことになる。
ちなみに毛生え薬、脱毛薬、性転換薬等は一般販売される予定である。もちろん性転換薬は性同一性障害等で猪瀬に認められたものにだけの販売である。
『興奮薬もそそられるが、君には是非、次回も若返り薬を用意してもらいたいね』
『!? ま、まさかあなたは……エルマール氏!? そ、その姿は……』
晴明に声をかけてきた男はエルマール・オブリ。とある国のコングロマリットの会長兼CEOを務める男である。隣の男が驚いたのはその姿であった。
『はははっ若いってのはいいね。当時は気づかなかったが、こんなに体が動くとは思わなかったよ』
御年75歳……のはずであったが、どう見てもそんな歳には見えなかった。それもそのはずでこの男、先程のオークションで若返り薬の最初の2本を容赦なく落としたのである。物品の引き渡しは既に済んでおり、エルマールは20歳若返った状態であった。来るときについていた杖の姿はどこにもなく、歩くのにも苦労していた男が、背筋を伸ばし、一人で悠々と歩いているのである。
あまりに現実離れした出来事であるが、これ以上無いくらいに周りに理解されるとともに実証されたこととなった。若返りは真実であると。
『エル・マール氏、その……体調はどうなんです?』
『はははっ見てくれよジェイソン君』
そういってエルマールはその場で何度も跳躍する。
『こんなにっ!! 自分の足でっ!! 自由にっ!! 動ける!! 動け……るんだ……』
次第にジャンプがなくなっていき、最後は顔に手を当て顔を伏せた。肩が震えているのは涙を堪えているのであろうと周りからはすぐにわかった。最近のエルマールは、寝たまま過ごす時間が多かったのである。満足に動くこともできず、家に引きこもっていた男が、自由に動けるようになった。その喜びは如何ほどのものであろうか。そのことを知っているものは涙し、そして同時に羨んだ。この男、全く躊躇することなく最初に2本落としたことで、結果的に最後の1本分の値段に近い額で2本手に入れたのである。その判断力、決断力の早さはさすがに世界に名だたる企業のトップだけのことはあった。
『ああっすまない。歳をとると涙もろくてね』
そういってジェイソンと呼ばれた男にハンカチを渡されて、エルマールは涙を拭った。
『会社の者を連れてきていてよかったよ。こんな姿じゃ会っても誰だって言われてしまうからね』
その言葉に周りも笑い出す。
『息子とそう変わらない歳になってしまった。さてなんて言い訳しようか』
ホールは爆笑の渦に包まれた。
『それは確かに問題ですね。私だってこの場に居なければあなたにあっても本人だって信じなかったでしょう』
『おいおいひどいなジェイソンくん。長い付き合いじゃないか』
『確かに10年以上お付き合いがありますが、エルマール氏は私より10も年上だったんですよ? それが今じゃ私より歳下になってるじゃないですか。どう信じろと?』
ジェイソンは先程のオークションで最初の2度を様子見した結果、結局若返り薬を落とせなかったのである。
『はっはっは、確かにジェイソン氏の言うこともわかりますな』
『おや、アントニス君。久しぶりだね』
そういって彼らに声をかけてきたのはアントニス・マスカ。とある実業家で、世界の最大手企業をいくつも持つ大富豪でもある。
『若返り薬なんてとんでもないものがあるなら先に言って欲しいよ。でも僕はこれを手に入れられたから大満足さ』
そういって彼が見せたのは左腕にハマっている腕輪であった。
『それはまさか!? 君が落としたのか!?』
『ああ、見ててくれよ』
そういってアントニスはその場でしゃがんで、思いっきりジャンプした。
『!?』
吹き抜けとなっているホールの天井はおよそ3階分は空いている空間となっている。およそ人が行くことがないであろうその空間までアントニスは飛び上がった。
『ひゃっはああああああ!! すげえええええ!! 俺は今鳥になってる!!』
空に浮き上がり、ゆっくりと落ちてくるその姿を見て、周りの人達が驚愕の表情でそれを凝視していた。
特に男はいい歳しているにもかかわらず、誰もが完全に少年の目に戻っていた。
『あ、アントニス君!! そ、その腕輪貸してもらえないだろうか?』
『ええ、いいですよ』
『ずるいですよエルマール氏!! 次!! 次は私に!!』
重力軽減の腕輪は大人気であった。少年とおじさんの違いは遊ぶ玩具の値段だけなのである。
気がつけばホールは大の大人がぴょんぴょんと空中に飛び回る謎の空間となっていたのであった。
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カクヨムコンに応募しようかと思いますので、応募作品考える間次回更新未定です。
現代魔法使いの爛れた日常 コアティー @coaty1942
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