第237話 オークション3
「お次はこれ。先程の自白薬の対抗薬。その名も解毒薬!! まあそのまんま解毒の薬です。ただ普通と違うのはどんな毒も治せるってことです。っていうか毒じゃなくてもさっきの自白薬なんかもそうですが、いわゆる状態異常と呼べる状態なら全部無効化します。コブラに噛まれてもタランチュラに噛まれても、さそりに刺されてもこれを飲んでいれば……痛いだけです。ええ、毒は無効化するけど噛まれたりした痛みはなくせないんで」
その言葉にくすくすという笑いがこぼれる。
「あくまで毒とか薬とかの類を無効化するだけなので、ウィルスとかそういったものに効果はないのでご注意ください。まあ使い道としては先程の自白薬を使うタイミングをしっていた場合に先に飲んで効いてるふりをして相手を騙すとかかな。これはあんまり人気ないと思うんで2000くらいで」
『10万!!』
『50万!!』
「なんでええええ!?」
結局これも300万程になった。毒というのは非常に研究されている分野である。なぜなら……金になるからである。解毒とはいえこのとんでも効果の薬を研究すれば、新たなになにかが発明されるかもしれない。それを考えれば研究費からしたら安い買い物であった。
「君等、浮気ばれるのそんなに怖いの? 心当たりがありすぎるの? こんな値段で売れるなんて俺もびっくりだよ。で、次は今度一般販売……といっても限定された人にしか売らないんだけど、それのプレミアム版で効果がめっちゃ高いやつ。じゃーん!! びーはーだーやーくー!! 簡単に言うと肌がめっちゃキレイになる薬」
武藤のその言葉に会場の所々から悲鳴のような声があがった。主に女性の声である。
「それじゃバイトさんどーぞー」
そう言われて舞台袖から出てきたのは30代くらいの女性であった。
「実はずっとケアをしないで貰っていたうちのスタッフの娘さんです。しみ、そばかすにホクロとニキビという完璧な布陣だったので、そのまま維持してもらってます。試しに濡れたタオルで拭いてみます」
そういって女性の顔をタオルでゴシゴシを拭く。そして手に持ったカメラでドアップにするが、もちろんしみ、やそばかすが消えることはない。
「はい、これで化粧じゃないことがわかりました。それでこの薬。これを少量手にとって塗ります」
そして女性の顔に広げるように塗りたくる。
「では御覧ください」
「!?」
カメラでアップにするとそこにはシミ、そばかす、ニキビどころか、ホクロすら消えた肌があった。
「自分で触って確認してみてください」
そういって女性に鏡を渡す。
「嘘!! なに……これ……」
まるで化粧品のCMモデルのような、一切シミなどない肌に女性は絶句していた。
「こんな…こんな……あああ……」
女性はあまりのことに驚いて思わず涙を零してしまう。小さい頃からずっとそばかすをからかわれてきた。ホクロを馬鹿にされてきた。それがいきなりなくなったのである。情報が脳の許容量を超えた為、感情が爆発してしまったのだ。
「なんで泣いちゃうの!?」
武藤は1人混乱していたが、会場の女性は、このバイト女性の気持ちを理解していた。
「えーっとなんか気まずいけど、こんな薬です。ちなみに冷蔵冷凍も必要なく使用期限はありません。一般販売する方は3ヶ月くらいで元に戻りますが、これは新しく同じ場所にシミとかができない限り、治した場所が戻ることはありません。えっと5000くらいから……」
「10万!!」
「なんでええええ!?」
むしろ当然である。セレブな女性達はその美しさを保つのに並々ならぬ努力を日々怠らないのである。ほんの少しの油断がシミを作り、ニキビを作るのだ。万が一そうなった場合にこの薬があれば瞬時にケアできるのだ。つかわなくていい。ただ持っているだけで安心度が違うのである。
結局100万で売れた。化粧品1本1億5000万円である。ちなみに本来の効果ならもっとやばかっただろう。なにせ本来は肌年齢すらも若返っていたからだ。そちらは若返り薬に持っていきたいという剛三の妻、芳江の意見を聞いた形である。
それでもこの値段で売れたのは、手間暇と手術等で治した場合の後遺症等のことを考えた為である。今の時代、美容整形でも薬でもシミそばかすをどうにかするくらいは容易なのである。だが、それなりに手間暇と金がかかる為、それが薬を塗るだけで瞬時に完璧に治るのならその手間賃等を抜いても妥当な金額だと判断されたのだ。
「えーと次は本日最後となります。本当はもっとたくさんあったんですが、こんなやばいの出すんじゃねえと怒られて禁止されました。快感薬とか同調の指輪とかですね。どんなのかって言うとまあものすっごく感度が良くなる薬です。男性だと一瞬なので使っても意味ないですけど、女性が使うとどんな不感症でも娼婦どころじゃないくらいに乱れます」
その言葉に会場がシーンとなり、固唾をのんで晴明の説明の続きを待つ。
「そして同調の指輪。これとのコンボがやばいです。同調の指輪は2つの指輪をはめた人の間隔を同調させるという効果があります。つまり女性が快楽薬を飲んでその男女2人が同調の指輪をはめると……大変なことになります」
「男って気持ちいいの一瞬じゃないですか? でも女性って長いんですよ。しかもそれが続く。それを男性が食らうとどうなるかわかります? ええ、出っぱなしになります。枯れ果てるまで。2回戦とかないです。全部連続で出尽くして力尽きます。っていうか下手な人が使ったら男女ともに気絶して病院送りです。命の危険すらあります。しかも快楽度が半端じゃないから依存症になりかねないくらいにはやばいです。なんで知ってるか? 自分で使ってないのをおすすめしませんよ。ええ、死にかけました。とっさに指輪を外さなきゃ死んでたかもしれませんね」
あの晴明が死にかけた。それだけでその薬と指輪のヤバさがわかる。
「男性の使用はおすすめしません。マジで頭おかしくなります。でも複数の女性を囲っている方はおすすめです。女性全員に指輪をはめれば1人を気持ちよくするだけで全員気持ちよくなりますから。しかも薬は気持ちよくする相手1人分でいいので効率がいいです」
実際武藤はやったことがある。だが、武藤の恋人達は快楽よりも武藤の精子を求めているため、1度使った後、使用を禁止されていた。もちろん武藤は薬なんぞを使わずとも気絶させられるので、恋人達からしたら指輪は手抜きと同じなのだ。その為、これはあっという間にお蔵入りしたアイテムである。
「でもねえ……こんなやばい薬悪用されたらどうすんだと怒られました。同調の指輪だけだと微妙かなあって思って今回はだしてません。要望が多かったら次回……あるかどうかはわかりませんが、指輪だけは出したいと思います」
ちなみにオークション終了後、死ぬほど要望があった。
「では最後の商品です。女性の皆さんお待ちかね。若返り薬です!!」
「!?」
おおーという声が会場から発せられた。そして会場中がソワソワとした空気を出し始める。会場に来た女性陣の目的はこの薬だからだ。なぜ公開していないのに知っているのかと言えば、一般販売に化粧品が多数入っており、その中に一時的に肌が若返る薬が入っている。その為、関連の上位互換もあるのではないかと推測されていたのだ。
まさに殺してでもうばいとるを実現しかねない殺気の籠もった視線に武藤はドン引きしていた。
(こわっ!! なんでオークションで殺気が漏れてるの!?)
まだ紹介すらしていないのに女性陣は必死である。約束された美がそこにあるのだ。
「え、えーとこの薬はですね。その名の通り飲むと若返ります」
会場の騒然とした声が更に増した。
「後日、一般販売する薬は、肌年齢だけが約3ヶ月程若返る薬です。ですがこの薬は違います。正真正銘、体の年齢が10歳程若返ります。ただし、ついた脂肪が消えるとか、衰えた筋肉が蘇るわけではありません。今の状態で細胞が若返るだけです。だから太ってる人は太ったままだし、筋肉が衰えた人もそのままです。でも脳細胞も若返りますから、物覚えが悪くなった人は記憶力が戻ったって思うかもしれません。薬の効果は重複するので、2本飲んだら20歳若返ります。年齢以上に飲んでしまうと、肉体はそのままで中身が赤ちゃん状態になってしまいますので、はちみつ食べたら死亡とか、免疫がほとんどなくなってたりしますのでおすすめしません。そして一般品と一番の違いは……効果持続時間がないことです」
会場中がなにを言っているんだ? という感じで晴明の説明の続きを待つ。
「つまり、1本飲んだら、現在と同じ状態の肉体に戻るまでに10年かかるということです」
「!?」
それはつまり肉体の時間が完全に10年戻るということである。一般品の場合、定期購入しなければ肌を継続できないが、これなら1回飲めばいいだけなのだ。
(あるえ!? なんか殺気が増した!?)
なにが何でも手に入れるという熱気が会場中から漂ってきた。これには女性だけでなく男性陣も入っている。地位も金も名誉も手に入れた先は、いつの時代も求めるのは不老不死である。時間だけはどうやっても手に入れることができないのだ。それが1本で10年分も叶うのである。まさにこれ以上無いくらいの夢のアイテムであった。
「え、えーと一応注意事項として、蓋を開けたら5分以内に飲まないと効果がなくなるので、研究に回したい人はおすすめしません。後、中身を飲まれて入れ替えられたり、薬そのものをすり替えられたり、下手したら帰る途中で奪われたりとかする危険性もあるので、手渡した瞬間に飲むことをおすすめします」
会場がシーンとなる。もちろんそのことは想定していたからだ。故に大量の護衛を連れてきているのである。
「こちらですがなんと今回限り……5本用意致しました!!」
ちょっと武藤のテンションがあがり声が高くなる。たまに武藤が貝沼たちと一緒のときにやっていた鉄板ネタ、ムトネットタカタ(先代)のモノマネ癖が出てしまったのである。
だが会場はそんなことを気にもとめず、ピューピューという指笛の音が響き渡り、会場中からは大喝采である。
「例えば30歳の人が2本飲んだら肉体年齢10歳です。骨なんかも若返りますが、短くなったりはしませんので、身長や体重が変わるわけではありません。成長期に2度目はありませんので、そのまま自然に歳をとっていく形になります。まあ今のまま見た目が非常に若くなる感じですね。もっと簡単に言うと寿命が20年伸びます。そしてこの薬ですが……次回の入荷予定は今のところ不明です。今回が最後になる可能性もあります」
その言葉に会場中から悲鳴があがり、目に見えて殺気が増した。ちなみに武藤は普通に後数百本は余裕で若返り薬のストックを持っている。ただ煽っているだけであった。
自分がアイスソードを持っているガラハドだということに武藤は気がついていない。ただこのガラハドはオブシダンソードを持ったサルーインより強かったりする。
「こちらですが参加番号1つに付き2本までとさせていただきます。2本落とした方は残りの入札には参加できませんのでご了承ください。何せ制限入れないと全部落としちゃう人とか出てきそうなんで」
5本買われたら50歳若返るのである。全てを賭して買いに来る可能性もあるのだ。
「なぜ2本かといえば、自分と奥さんそれぞれの分が欲しいでしょ? どっちかだけだともめそうだから一応……ね?」
武藤の言葉に会場から殺伐とした空気が若干薄れた。
「それでは1本目、行ってみましょう。なにせ人類の夢の薬ですからね。思い切って……100万から行ってみましょう!!」
『1000万!!』
「いっえええええええ!?」
開幕15億ブッパである。
『2000万!!』
『3000万!!』
(あわわわ)
入札はどんどん桁が上がっていった。
『5億5000でました!! 5億5000ありませんか? では12番の方、5億5000万で落札となります。おめでとうございます!!』
会場からは白熱した勝負に拍手が巻き起こり、落とした人物が手を上げて答えていた。
(こんなのが1本5億円!?)
実際は5億5000万ドル。約830億円である。その後も……。
『6億!! 6億でました!!』
『7億!! 7億で落札です!!』
『8億!! 8億で落札おめでとうございます!!』
どんどん値が上がり続けていった。ちなみに8億ドルは約1200億円である。
『さあ、残すところ最後の1本となりました。これは1億から始めさせていただきます』
最後の入札が始まるとどんどん値段があがっていく。
『9億、9億5000!! 9億7000!! さあありませんか?』
『じゅ、10億!! 10億でました!! ほかはありませんか? 10億です!! 21番の方、10億で落札です!! おめでとうございます!!』
ビリオネア。世界に700人しかいないとされる10億ドル以上稼いだ者。そんな者達の中でもトップ層が集まっているこの会場で、武藤は自身がビリオネアの仲間入りをしていた。
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