第236話 オークション2

「なんか値段がとんでもないことになってて、ビビってるんだけど、本当に大丈夫? 後で奥さんに怒られない? こんな高い玩具買って!! とか言われても責任とれないからね?」


 武藤の軽快なトークで会場からは度々笑いがこぼれる。

 

「それじゃ次行きましょう。これはそんなに値段は上がらないと思います。水抜きの紙!! 紙っていってるけど金属っぽいんだよねこれ」


 そういって武藤が取り出したのはハンカチくらいの大きさの薄い金属のような紙のような、そんな物であった。

 

「これは水だけを通す紙です。まあ紙ってことにしといてください。わかりやすいので見てもらいましょう」


 そういってアシスタントが台といくつかのコップ、そしてペットボトルを数本持ってきた。そして武藤はコップの上に紙を乗せその上からペットボトルの液体を流していく。

 

「!?」


 会場中が騒然としたのは、コップに注がれたのが透明の水だったからだ。上から流したのがコーラだったのにもかかわらず……だ。

 

「上に残ってるこの塩っぽいやつとか結晶になってるのが水以外の物ってこと。じゃあ次のやついってみるぞ」


 そういって紙の上の物を台に落とすと、今度は透明なボトルを上からかける。すると同じように白い結晶が紙の上に残った。

 

「ちなみにこれ、海水だから」


「!?」


 会場中がざわめいた。大規模な装置を使わず、紙1枚で水に溶けた塩を分解したのである。浸透圧もなにもあったものではない。物理法則を完全に無視したアイテムである。

 

「海に持っていくと万が一遭難したときに便利だね。これも1万でいっか」


 そんな軽い感じだったが、結局300万で売れることとなった。研究機関に回してなにか分かれば4億など子どものお小遣い程度にしか思えない程の利益を生むのだ。



「それじゃ次いくよー。これも地味だけど俺のお気に入りなんだよね。じゃーん!!」


 そういって取り出したのは角が丸みを帯びたグレーのサイコロのような物であった。一般的なコップにいれる氷くらいのサイズだが、至ってなにも変わったところは見えないものである。

 

「じゃあ、持ってきてー」


 武藤がそういうとアシスタントが再び台を持ってきた。そして上には投目なコップが2つと更に乗せられた氷、そしてポットと何やら機械が乗っていた。

 

「じゃあこっちのコップにはこのチタンっぽい金属、もう1つには氷をいれます。そして沸騰したお湯をそれぞれに注ぎます」


 もちろん氷は音と煙を立ててどんどん溶けていくが、金属の方は特になにも変化がない。しばらくすると武藤は金属を取り出してその場に置く。

 

「これは温度計です。表面の温度を測るやつですね。それでこの金属を見ると……マイナス20度ですね」


「!?」


「つまりこの金属は周りの温度に左右されず、常にマイナス20度のままなんです」



 会場が騒然となった。


「暑いときに冷たい飲み物が飲みたいときに便利です。これも1万にしときましょうか」


 オークションは先程の紙より白熱し、気がつけば1000万で落札されていた。

 

(1000万!? こんなの氷でいいじゃん!!)


 武藤からしたらただの便利な氷である。だが温度が変わらないとんでも物質である。原理さえわかれば核融合炉すら作れる可能性があるのだ。それが実現すればその者は歴史に名を残すのは間違いないのである。それに比べればここにいる者達にとって15億なんぞ端金である。

 

(いいのかなこれ……)


 ちなみにこの金属であるが、異世界の迷宮で出てくるもので、主に酒場で酒を冷やす為に使われていた。異世界ではそれ以外に使い道がなかったのである。

 

「なんかみんなの目が血走ってて怖いんだけど……」


 先程のオークションだが、本当はもっと上がる可能性があった。だが、これ以後どんなものが出てくるかわからない為、みんな一旦そこで引いたのである。

 

「お次はこれ。これならそこまで上がらないでしょ。とあるところで呪いの像って言われてたやつ」


 そういって武藤が取り出したのは象のようにも見えるが鼻が3本あるサッカーボールくらいの大きさの像であった。

 

「まあ、呪いなんてないんだけどね。これの効果はこの像の鼻にふれると像の色が変わります」


 そういうと武藤は像に振れる。すると青い像が紫へと変化した。

 

「この効果は24時間に1回、1時間ほどですが、この色が変わってる間にこの像の近くで飲食をすると、摂取カロリーが100分の1になります。正確には糖質と脂質が減る感じですね」


「!?」


 会場中の女性陣が席を立ち上がった。

 

「なんで呪いの像って言われてたかって言うと、貧困層の村にあったんだよねこれ」


 つまり元々栄養不足の場所でさらに栄養を得られない効果が発揮されていた為、餓死者が続出したということである。

 

「ちなみに起動して59分後に食べてもその時点で食べ終わっていれば、像の効果がきれても吸収されないからご安心を」


 食べても体内には残っているのである。本来なら消化される瞬間に像を起動させるのだろうが、この像はあくまで現在の肉体に接種された食べ物の栄養素を奪うので、食べた時点でもうカロリーはなくなっているのだ。食べずに像の前に置いていてもカロリーが減らないのがこの像の謎なところである。

 

「結構かっこいいと思うのでインテリアにどうでしょう。これも1万で」


 気がつけば400万で落札されていた。

 

(かっこいいけどそこまで欲しいか?)


 これはオークションに来ていた女性陣が原因である。夫に何としても手に入れろと発破をかけたのだ。なにせ1日1回とはいえ、スタイルを気にせずに好きに飲食できるのだ。全女性垂涎の的であった。

 

 

「次は薬シリーズいきましょーまずはこれ!! じーはーくーざーいー」


 青い猫型ロボット口調であったが、この会場にいるような者は全くそれの意味がわからなかった。

 

「ちなみにこれを飲むと催眠状態になって何でも答えてくれます。無味無臭で飲んでも酩酊状態にはならないのではっきりと受け答え可能です。しかも嘘は付けませんし、本人は薬が効いている間のやりとりを覚えていません。ただしあくまで会話だけですから、無理やりレイプなんかしたら普通にバレます。ただ答えにくいことを答えてくれるってだけで後は普通のままなので、飲まされてるかすら気づきにくいです。浮気を疑っている旦那さんや奥さんに内緒で飲ませても後からバレないので、持っているということを相手に知られているだけでイニシアチブがとれます。ちなみに効果は30分です。副作用なんかはありません。全部で3本あるので1本づつ行きましょう。駆け引きしてください。それじゃ5000くらいからはじめましょう」


『10万!!』


「なんでええええ!?」


 開幕から飛ばしてくるやつがいた。これはその気になれば国家機密すら容易に聞き出すことが可能なとんでもアイテムである。しかもバレない。犯罪臭しかしないとんでもアイテムなのだが、武藤からしたら浮気防止くらいにしか思っていなかった。武藤は飲んでも効果がないし、魔法で同じような現象を起こせるからゴミみたいなアイテムだからだ。

 

 だがその効果をすぐさまとんでもないものだと理解した者達は、なにが何でも手に入れようとした。晴明が起こす奇跡を目の当たりにしている客たちである。その晴明が出品してきたこれまでのアイテムから、これは本物だと確信しているのだ。

 

(そんなに浮気の疑いが多いのかな?) 


 一番物騒な世界にいた武藤が逆に一番平和な思考であった。

 

『800万!! 1本目800万で15番の方、落札です!! おめでとうございます!!』


(800万!? こんな小瓶1本に!?)


 ちなみに武藤は知らないが日本円だと12億である。

 

『1本目からとんでもない値段が出ました。2本目はそれを加味して100万からスタートします』


『200万!! 300万!!』


 気がつけば2本目は1000万で落札されていた。最後まで競っていた相手は900万まで出していたことから、3本目は最低でもそこまではいくということである。

 

 結果、その予想通りに最後の3本目は1500万で落札された。およそ23億円である。ちなみに落札したのは現在こんなところにいていい人物ではなかった。おそらく現在一番きちゃいけない人である。武藤がそれを知るのはもう少し先の話しである。

 

「ちょっと1本目からとんでもない金額になったんだけど、そんなに浮気の疑いあるの? 君達伴侶のこと疑い過ぎじゃない?」


 その言葉に会場中が爆笑する。もちろん会場の人間は晴明が本気でそんなことを言っていると思っていない。こんなとんでもない薬を浮気の疑いなんぞで使うわけがないのだ。故に晴明の言葉を小粋なジョークだと思っている。

 

 武藤が本気で言っているのをわかっているのはこの場では剛三だけであった。

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