第19話 Prince of the sea ④
美味い飯、美味い酒、いい女と来たら男が考えるこたァただ1つ。
肩にしなだれる様にもたれ掛かる髪の匂いに酔いしれながら女とタクシーに乗り込んだ。
『Xホテルへ』
それだけ言うと彼女ははにかんだ様に俯いて少し笑顔を見せた。
自分の立場を考えたらリスキーじゃないかと思わない訳じゃなかった。でもコッチだって抜かりは無いさ。
彼女の容姿からアジア系だと分かった時からさりげなく探りは入れている。
だがそれらは杞憂に終わった。
彼女は直前に迫ったこの国の大統領選挙でさえ、それによる株価の動きと、ファースト・レディ候補のファッションからトレンドチェックにしか興味が無いらしい……
朝。
コーヒーと上質なバターの香りで目を覚ます。
『あら、起きた?』
ホテルのバスローブだけをまとった女が太陽のような笑顔を向ける。
そういえば…
太陽だの月だのって単純な比喩にすら文句言われた事があったな…それにしても……
自然に口元が緩んでしまう。
久しぶりの女性からのオーラル…
それだけじゃなく男を喜ばせる事で自分が高みを登り詰めるタイプなのか?
『普段は夜伽してるみたいだからなぁ…』
元々やんごとなき家だから性に関してはタブーだったんだろうが、何も知らない姫を口説き落とすのは意外と簡単だった。まぁ最初はそれも可愛かったんではあるけど……
それが楽しかったのも最初の数ヶ月だった。
一般的な家事もまともに出来ない。与えられる事、かしづかれる事が当たり前で生きてきた姫君との生活にかなり嫌気はさしていた。
正直、何度か投げ出したいと思っていた。
それでも意地になってしまった姫に引っ張られるようにここまで来た。
このまま安定と引き換えに不自由な生活と
、覚めた女との暮らしを運命と諦めかけていた矢先に自分にも運が向いてきた。
昨夜、ピロートークとはいえ彼女の口から新規契約の話が出た。
元々裕福な家庭で育ったらしい彼女だが、その環境に頼ることなく自身の商才を活かして株やFXなどで財をなしたという。
それらを元に不動産投資に歩を進めようとしていると言った。
経済大国アメリカと言えど、最近では中国人の不動産に対する関心も高い事から、彼らとの取引に関する弁護士を探していると……
彼女がオーダーしてくれた甘めのカフェオレを口にする。
『はい』
そう言って手渡された経済紙。
ルームサービスと一緒に届けてくれるように頼んでいたらしい。
新聞を広げながらトロトロのスクランブルエッグを口に運ぶ。
その時、後ろから首に腕を回しバッグハグしながら唇の端についたスクランブルエッグをペロッと舐めた後、イタズラっ子の様な笑顔でウインクを投げた。
手早く身支度を済ませると、『じゃあ2、3日後には仕事の連絡するね』と手を振り颯爽と部屋を後にする。
今どきのyuppetteらしく洗練された姿と自由奔放な姿、そのチャーミングな姿にたまらなく魅力を感じる。
全てが契約のこの国では、結婚すらも入籍前に離婚時の財産分与まで決めると言う。
そのせいか、それなりの資産家はフリーのまま恋愛だけを楽しむスタイルも増えていると言う。まさに彼女もその1人だ。
妻からは王族の一員としての名誉と箔を、彼女からはビジネスと楽しみを…そう考えただけでついつい顔がほころんでしまう。
3日後の早朝
仕事専用のスマホに、勤務先からの電話がなった。
女衒-ZEGEN- 恭梨 光 @mikecyantaichi
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