第18話 Prince of the sea ③
今の王が生まれるずっと前の話……
プリンセスがとある貴族に嫁いで行った。
家柄も人柄も申し分ないと、太鼓判を押されていたはずの夫だったが、人の心ってのは突然変わるものらしい。
その衝撃的なニュースに、当時の国民は腰を抜かしただろう。
何しろプリンセスの夫がBARのマダムと不倫の末に心中だからな。
一般家庭なら当たり前の、実家に帰って傷を癒すのもできない環境の中、さらなる不幸がこのプリンセスを襲う。
強盗に襲われるって事件が発生したんだ。
まぁ、あの時代だからセキュリティなんてザルみたいなもんだっただろうが、それでも世間的には衝撃だったろうよ。
結果的に王宮の一角に家を建て、元プリンセスをそこに住まわせて守るという特例措置が取られたのだが、さすがに誰からも反対の声は出なかった。
つまり、王家としてはこれに近い状況を作れと言うわけだ。
『ふむ……』
そう言って俺は、幼い顔で眠る女のブルネイの髪をすくった。
数週間後……
ターゲットが職場から出てきたのを見計らって輝く様なブロンドの女がヤツの横を通り過ぎる。
それを合図に路地から飛び出した俺は、自分の肩を女の肩にぶつける。
よろけた女は、そのままヤツの腕の中に転がり込む。俺は『チッ!』っと舌打ちを鳴らし足早にその場を後にする。
ヤツの腕の中で女は長いまつ毛をパチクリした後、頬を染めて『SO…SO…Sorry…』それだけでいい。
『Are you injured?(お怪我はありませんか?)』と紳士的に聞いてくる姿は、まさにヤッピーと呼ぶにふさわしい。
男の問いかけに頷いた後、女は両手を広げて『It's not my day』と笑顔を向けた。
その瞬間、男の目が光ったのを女は見過ごさなかった。
日本人に警戒心を持つこの男のことだから『ついてない』って言う時にunluckyなんて言葉を使っちゃいけない。
多少なりともアジアの顔立ちをしている女を信用させるには、ネイティブ・アメリカンが使う言葉が有効だ。
あの夜、ネイティブな言葉に慣れ親しんだ彼女との逢瀬は、偶然じゃなく必然だったのかもしれないな。
2人の会話は、彼女がバッグに忍ばせたスマホを通じて、少し離れた場所から見ている俺に伝わる。
『ついてないって?何かあったの?』
そう尋ねる男に『株でちょっとだけ損したし、友達からはドタキャンされたし…しかもケガしそうになるし。でもあなたのおかげでケガせずに済んだわ…損って言っても5万ドルぐらいだから大したことないしね』そこまで一気に言うとぺろっと舌を出した。
5万ドルを大した事ないと言う女を、値踏みしている男の手を取り女は言った。
『友だちと行くつもりでリザーブしたレストランをキャンセルするのもなんだから、良かったら先程のお礼に、ご馳走させてくださらない?』
そう言って立ち上がった女は、さっきまで自分を支えていた男の前に手を差し出した。
『じゃあエスコートしてちょうだい』と……
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