【下】

 ギールが死んだ。

人工森の中でよく今まで生きた。

死にたくなくて、頑張ったんだよね。

最期まで僕は彼の手を握って、ずっと側にいるとささやき続けた。


 「やっと死んだか」

上司達が土足で踏み入ってくる。

「で、【ティアーズジュエル】は?」

その瞬間、僕の中で何かが壊れた。

いや……ずっと眠っていた何かがゆっくりと目を覚ました。

「こんな世界なんか」


ギールのいない

人間しかいない世界なんて


「滅びてしまえ」




 「俺は確かに死んだはずだが……」

ギールは困惑の顔をしている。

「おいアーガ、何をやった?」

豊かな森、美しい川、緑の平原、青い海。遠くの山々は雪を抱いて、雲をまとっている――人間が滅ぼしたはずの【かつての世界】。

ハイエルフは森に住み、鉱山にドワーフは住み、魔族は平原に住み、人魚は海を泳いでいる。

人工の森に、地下室に、水槽に放り込まれ、あるいは絶滅させられた種族たち。

「願ったんです」

僕はまぶしい太陽に照らされて楽しくなった。

魔力抑制剤による躁状態じゃない。

心臓の底から湧き出る、無限の力。

今ならば人間がどうして魔族を徹底的に潰したか理解できる。

恐れたのだ。

世界さえも一変させる、この力を。

「僕たちの世界を」


僕はギールに抱きついた。

戸惑った顔が爽やかな緑風に撫でられて、微笑んだ。

「懐かしい世界に……俺達は戻れたんだな」


ああ!

生きている!

生きてくれている!




「行きましょう、あまりにも待たせたらみんな怒りますよ」

僕の背中を涙の宝石がぼろぼろと流れて落ちていく。

「会えるんだな」

「ええ、急がないと。僕は出会い頭に『遅い!』なんて一喝されたくないです」

「走るぞ!」


僕たちは真っ直ぐに走り出す。草の根や石に何度か躓いて転んで、わらってお互い手を貸して起き上がらせて、また走る。

みんなが待っているのだ。

もう、そこにいるのだ!

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涙の宝石 2626 @evi2016

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