第123話 先輩の、ぷんぷん
「もう、本当に、もう……!」
「す、すみません……」
柚子先輩の可愛い幸せポカポカを受け入れてから少しして。
公園のトイレに行って手を洗い、おばさんから貰ったウェッとティッシュで手を拭いた俺を待っていたのは頬を膨らませた可愛い可愛い柚子先輩の姿だった。
俺は悪くないと思うけど柚子先輩が可愛いのでなにも問題ないんだ。
「……えっと、舐めます?」
「かぁっ!? かけるくうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!?」
「すみません冗談です嘘ですごめんなさいごめんなさいっ!!」
「もう! もう! もう! もう! もう! もう! もう! もう!!」
これは俺が悪かったです、はい。
可愛い柚子先輩があまりにも可愛いから、ユズちゃんが舐めていた手とは逆の手を差し出したらすごく怒られてしまった。
「ぷ、ぷんぷんだよボクは!」
「かわっ、ぷんぷん……」
ぷんぷん可愛い。
「ボクとデートなのに、ワンちゃんとばっかり仲良くしてぇ……!」
え、怒るところそこなんですか?
可愛すぎませんか?
頭撫でてもいいですか?
「んっ!」
「えっ?」
「ば、罰として今日ずっと手を握ってくれないと許せてあげないからねっ!」
「喜んで!」
「わわぁっ!?」
怒ってても可愛い柚子先輩は天使の生まれ変わりなのかもしれない。
嬉しくて早速その小さなお手手を握ったらビクッとしてそれもまた可愛かった。
「き、急だよ急っ!」
「す、すみません……手を握っていいって言われたので、つい……」
「つ、ついでも駄目だよぉ……えへ、えへへ……」
怒ってたはずなのに口元から笑顔になっていく可愛い柚子先輩はここにいます。
頭良い筈のに将来悪徳商法とかに引っかかってしまいそうだ。
「大丈夫です! 柚子先輩は俺が守りますから!」
「えぇっ!? う、嬉しいけどなんの話っ!?」
「エスコートは任せてください! デート中、柚子先輩は誰にも見せませんから!」
「え、それは流石に無理だと思うよボク……」
無理だった。
これから水族館デートなのに柚子先輩を隠し切るのはやっぱり無理だった。
「で、でもボクもあんまり……か、翔くんを他の人には見られたくないかも……」
「え……今日の俺、そんなに頼りないですか……?」
「そ、そうじゃなくて! そ、その……カッコいいから……」
「……ぅ、ぁ、ぅっ!」
思わず抱きしめたくなって我慢できた俺を褒めてほしい。
まだ待ち合わせをしてそこから出てないのに今日の柚子先輩は可愛すぎる。初めてのデートで俺が舞い上がっていたとしても本当に可愛すぎるんだ。
「えへ、えへへへ……眼鏡も、お揃いだし……えへへへへへ……」
「ゆ、柚子先輩が……プレゼントしてくれた眼鏡ですから……」
「に、似合ってるよ!」
「ゆ、柚子先輩も素敵です!」
「か、翔くん……」
「ゆ、柚子先輩……」
『ワンワンッ!』
「駄目よユズちゃん、これ以上お兄さんたちの邪魔をしちゃ!」
「…………」
「…………」
お揃いの赤縁眼鏡で見つめ合って、隣からまたユズちゃんの鳴き声がした。
そういえばここ人の多い公園だったと思い出した時にはもう遅く、おばさんは犬のユズちゃんを抱きかかえて笑顔で俺たちに会釈をして去って行った。
俺と柚子先輩は小さな池の隣にある木造屋根の椅子の下で手を繋ぎながら静かに向き合って……。
「イ、イキマショウカ……!」
「ソ、ソウダネッ……!」
俺たちはロボットみたいにギクシャクしながら、オーバーヒートしたみたいに顔を赤くして公園を出て行く。この熱さは絶対に夏のせいじゃない。
こうして俺と柚子先輩のデートは、ついに始まったんだ。
小さくて可愛い文芸部の知的な先輩を、膝の上に乗せたら毎日座ってくるようになった ゆめいげつ @yumeigetu
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