2023/07/30 私と物語今昔


 自分で物語を始めたのがいつだったのか、覚えていない。


 物心ついた頃には始めていたと思う。眠れない夜、頭の中でお気に入りの世界を作り、生物を集めて様子を見る。その様を眺めているうちに眠りにつく。寝る前に絵本を読み聞かせてもらっていた影響も大きかったのだと思う。私の安らかな眠りには、物語が必要だった。


 初めて文章らしいものを書いたのは、小学校に上がってからだ。それから中学校、高校と物語を作る癖は続いた。だが、書いたものを顔見知りに見せることはしなかった。


 物語というのは、私が世界から摘み取ったパーツで作るものである。それを他人に見せて、否定されるのが怖かった。否定されることがあれば、自信のない私はその相手を憎み、拒み、関係を続けていけなくなる。だから、親しい相手ほど書いたものを見せることができなかった。要は、臆病で神経質だったのだろう。


 また、物語がなかなか完結しなかったというのも、見せなかった理由の一つかもしれない。


 私は物語を完成させるのが苦手だ。延々と続いていく脳内世界の、どこを切り取って物語に仕立てたらいいか、分からないのである。それに、広大な世界のパーツの模造品でできた紛い物でも、未知の領域が生じることを、私は知っていた。その部分が物語の奥行きを深めると思うと、無闇に文章に起こすのが躊躇われた。


 歳を重ねるにつれ、広がり過ぎた世界はより起承転結のある物語として切り取るのが難しくなった。

 だが、それでも切り取ってみたいと思っている。できれば上手な切り取りがなされて、独りよがりでない物語になることを願っている。

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