動けない私

祐川 千

2023/07/29 私と執筆


 私は怠け者である。

 出かけるのは嫌いではないけれど、怠い。身の回りのことも、必要に迫られないとやらない。人との会話は好きだが、消費する気力が半端でないからあまりしない。可能ならば、誰とも顔を合わせたくない。


 こんな精神なので、趣味の文筆も一向に深まらない。他人との交わりを避けるならば内省が深まってもいいものだが、私の場合、これまでの半生で、人と深く交流しなくて済むよう生半可に鍛えてしまったメンタルの強さ──別名、無神経さとも言う──ゆえに深まってくれない。さらに、長いこと椅子に座っていると、小説世界への興味より、腰あたりの鈍痛が勝ってしまう。三島由紀夫はある人との書簡のやり取りで「腹筋と文芸には繋がりがある」と言ったけれど、あれは本当の気がする。腹筋がしっかりしていないと椅子に座って思考する力を発揮できないからだ。つまり私は、肉体の方も怠けきっているのである。


 たまに怠ける己を叱咤して、美術館などに行って勉強しようと展示を見れば、自分の瑣末さが思われて嫌になる。

 自分が書くものに何の意味や意義があるのか。すぐにそんなことを考えて、書くのが怠くなってしまう。


 何かを深めようとするといつもそうだ。

 生きる意味なし、意義もなし。

 そのフレーズが頭に繰り返し浮かんでしまって、気力が遠ざかる。

 私がやらなくても誰かがもっとうまくやる。そう考えて、何事も執着する前にやめる癖がついた。


 だが物語への執着だけは、何度消してもなかなか消えてくれなくて困っている。

 腰痛で挫折するような程度のものなのだからやめればいいと思うのだけれど、これがなかなか消えてくれない。これを放っておいたら、死ぬ間際に後悔すると思うのだ。


 幸いにして、まだ人生は続きそうである。だからこの執着を少しずつでも消化しようと思って、日々過ごしている。



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