チュール航法オトクヨウパック

 最新鋭航宙艦ベンガル。

 光の速度を超えるスピードで、宇宙を駆け巡る。

 惑星連邦の航宙艦で、最も速く。

 その最高速度は、チュール7。


 このチュール航法が、発明されるまでは亜光速エンジンを使用。

 乗組員は、コールドスリープで、移動した。


 しかし、この方法では、遠くまで行く事には、無理がある。

 コールドスリープ中、風邪によく似た症状の病気になるからだ。


 病名、コリタ。


 医者によると、身体の冷やし過ぎらしい。

 コールドスリープだから……(^_^;)


 それでも人の未知への興味は、尽きない。

 積極的に、太陽系の外へ出かけていった。


 太陽系の外から帰った者は、しかし、全員

新たな病気に感染した。

 

 病名、新型コリタ。


 約三年間。

 コールドスリープが、制限された。

 ゼロコリタ政策。


 その間。


 自称天才物理学者、イナバ博士。

 チュール航法を発明する。

 本物の天才だった。



 (気づきませんでした)

 (作者より)m(_ _)m



 ゼロコリタ政策……

 今回は、

 成功……(・(ェ)・)


 飛躍的に、進歩した宇宙航法。


 多くの探査船が、深宇宙を目指し飛び立つ。


 しかし、イナバ博士、謎の行動に出る。

 辺境の惑星パックで、

 長い、長い、コールドスリープをネコと共に。


 そして、今。


 約束の時、迫る。

 

「百年後に、起こしに来てね」


 おやすみ前のイナバ博士とのお約束。


 目覚めの時。

 きっと博士は、新型コリタ病。

 しかし、人類は克服済み。


 特効薬を持って、宇宙を駆ける航宙艦。


 惑星連邦、目覚めた博士を迎える約束を果たす。


 最速航宙艦ベンガル。

 チュール航法の進歩の報告と、博士の治療を目的に、惑星パックへ向かった。


 周回軌道上のベンガルから、惑星パック上に、ニャーク達の時代から見ても、高性能な地上着陸可能型の白銀に輝く航宙艦が観測された。


 地上に転送されたのは、艦長、副長、医師のマッコリ。


 博士のコールドスリープカプセル、広くて快適。

 カプセルの中、

 ネコと共に眠るイナバ博士。

 

 長き時を超え。

 ここに復活。


 目覚めてすぐに、ネコを抱きしめ泣く。

 会いたかったと泣く。


(いや、一緒に寝てたよね)

(猫、迷惑そう)

(作者より)(^_^;)


 新型コリタの特効薬を使用後、十時間の安静が必要。

 その間、ミスタースピッツ、博士の着陸可能型航宙艦を調査。

 右の眉ピクピク。

 驚くスピッツ。


「博士、この航宙艦のエンジンは、どうなっているのですか?表示では、ベンガルよりも遥かに速く飛べますが、事実なのですか?」


「もちろんだ。ベンガルは、チュール7と言ってたな。あれから百年は経ったか。コールドスリープに入る前、新しいエンジンを設計したのだ。寝ている間にロボットに作らせた」


 博士が、オヤスミ中の長い時間を使い、作った新しいエンジンは、とんでもないものだった。

 そのエンジンが、与える航法をマグニチュール航法という。


 今までのチュール航法は、光の千倍のスピードを基準として、チュール7は七千倍だったが、マグニチュール航法は、指数だ。


 チュール1の273剰をチャオチュール1さらに2剰をチャオチュール2………。


(計算は、苦手です)

(作者より)m(_ _)m


 表示では、チャオチュール7まで可能となっている。


「しかし、博士。これは使えません」


 ミスタースピッツが、言い出した。


「船体が、耐えられないか?」


 イナバ博士。


 スピッツの計算では、この時代の最新鋭艦ベンガルでもギリギリ耐えられるか?


「もう少し未来の航宙艦は、進んでいると思ったが……。大した事、無かった」


 カチンと来たスピッツ。

 時間を貰い、博士の宇宙船とベンガルをミックスすると言い出した。


♪しばしも休まず鎚うつ響き

 宇宙の片隅、スピッツ副長♪


 トンカチを見えないスピードで振り、あっという間に五寸釘を打ち込み、ノコギリを全開で動かす。


 遂に、合体艦。

 シルバーベンガル誕生。

 エンジンもマグニチュールエンジンとチュールエンジンのミックス。

 名付けて、チュールオトクヨウパックエンジン。


 マグニチュール航法に入ると、全てを置き去りにする。

 宇宙で一番速い。


 早速、試運転。


 スピッツ副長は、ちょっとドジ。

 忘れん坊さん。

 船体の外に、トンカチを忘れる。

 五寸釘入れを忘れる


 マグニチュール航法、順調。

 恒星間。

 1時間かからず。


 ブレーキ。

 通常空間に現れるシルバーベンガル。


 艦外に置き忘れられたトンカチ。

 同時に止まれず。

 五寸釘。

 同時に止まれず。

 慣性の……。


 準光速トンカチ射出。

 準光速五寸釘射出。


 その頃、

 マロンゴン艦隊。


 対チーズバリアー開発。

 惑星連邦に攻め込もうとしていた。


 その時、

 ほぼ光の速度の、


 トンカチが、マロンゴン旗艦を直撃。

 五寸釘が、次々にマロンゴン艦を貫通。

 爆発。

 全滅。


 憐れ。


 これぞ、宇宙版、丑の刻参り。

 五寸釘だけに……。


 (ごめんなさい)

 (作者より) (^_^;)クルシー



 それから、十年の間に、マロンゴンの軍事体制崩壊。

 さらに、十年。

 マロンゴン、惑星連邦に組み込まれる。


 恒久平和のモンブラン調印。

 

 そんな遠い未来は、ともかく……m(_ _)m。


 ここは、ベンガルの医務室。


 マッコリ船医が、熱心に診断している。


 心配そうなイナバ博士。

 右眉を上げているスピッツ。

 目が点になるニャ~ク艦長。


 医療用解析機は、イナバ博士の愛猫が、クローンと解析している。

 しかも、寿命が近づいている。

 マッコリ船医が、博士に訊ねる。


「博士、もしかしたら、遺伝情報が感染したのですか?」


 頷くイナバ博士。

 新型コリタ。

 遺伝子を傷つける怖い病です。


「オリジナルの遺伝子ではなく、クローンの遺伝情報から猫を生み出していたのですね」


「オリジナルもクローンも可愛さに、違いないからね。全て、このチロルである事に変わりはない」


 その猫は、チロルという名前だ。


「オリジナルの遺伝子保存は?」


 スピッツが訊く。


「残ってはいるが、部分的に感染した」


 博士は肩を落とした。


「キャット」

「はい、父ちゃん」


 最近スピッツに鍛えられているキャットはすぐにこたえる。


「チロルの保存中の遺伝子80%は情報として健在。

 使用可。

 現在のチロルからの遺伝子抽出を行い、復元しても90%の復元率が限度。


 遺伝子相違の規模から、生まれてくる猫は、違う猫と区別可能。残念ながら、連続してきた博士のチロルのクローンは、途切れます。


 しかしながら、猫に変わりなく、命に変わりなく、博士の心の温もりの元には、変わりないと考えられます」

 

「キャットありがとう。もちろん別の猫も可愛いと思う。しかし、私はチロルを愛しているのだよ」


「ひとつだけ方法があります」


 ミスタースピッツは、提案した。


 その内容は、新エンジン、オトクヨウパックのダッシュ力を使い、シルバーベンガルをタイムマシンに転用しようという案だ。

 過去のチロルの遺伝子を採取するのだ。


 超新星の右をかすめるようにマグニチュールエンジン全開のチャオチュール7で飛ぶと、超新星の重力の影響で、過去に引き込まれる。

 因みに左をかすめると未来へ引き込まれる。


(何と都合の良い!)

(もちろん、作者は理由を知らない)m(_ _)m


 適度な大きさの超新星まで、3日。

 残念ながら、博士と共に時を超えたチロルの寿命は、持ちこたえそうにない。


 チロルが、永遠の安らぎをその爪で引き寄せた頃、シルバーベンガルは、目的の星をチャオチュール7でかすめとんだ。


 過去の地球……。


 まだ若きイナバ博士を周回軌道上から、カメラで捉えたシルバーベンガルのブリッジは、地上に転送するチャンスを伺った。


 何と言ってもイナバ博士だ。

 歴史上の功績が、大き過ぎる。

 場合によっては、簡単に大きく歴史が、変わる。



 そっと地上に、転送されたニャーク、スピッツ、イナバ博士は、まだ若きイナバ博士の様子を伺った。

 過去のその時間は、若きイナバ博士が、ちょうどチロルに出会う日だった。

 

 しかし、好奇心の塊、副長。

 過去の地球に舞い上がり、

 ミスタースピッツ、あっちへウロウロ。こっちへウロウロ。

 若き日のイナバ博士を見失う。

 ついでに、ニャーク船長とイナバ博士とはぐれる。


 アセアセ(^_^;)のスピッツ。


 ふたりを見つけようと、出鱈目に歩き回ると、ある公園のきの茂みから、ニャ~とひと声。


 ゴソゴソ(⁠ꏿ⁠﹏⁠ꏿ⁠;⁠)のスピッツ。


 仔猫を発見。

 その手に抱き、ふらりと公園から出たところでニャーク船長たちと再会。


 その手に抱かれる仔猫を見て、イナバ博士は言った。


「チロル」


 

 チロルは、捨てられていた猫だ。

 ダンボールの箱の中で、生まれたての小さなふたつの命は、泣いていた。



 その日、若き日の博士は、生まれて初めての失恋を経験していた。


 学生時代からの恋人。

 研究での実績も評価も自分で思った程でない現実に、博士の迷いが、時に研究に没頭させ、時に違う可能性を探る荒れた日々。


 恋人との将来と自身の夢との間に、心揺れる日々。


 そんな思いを口にする事を出来ない博士。

 自分を振り返って貰えないと感じる、そんな日々に耐えられなくなった恋人。


 ふたりの道は、別々の方向へ……。

 世間には、よくある別れが、ふたりにも訪れ、博士の恋の時間を終わらせた。


 失恋の博士。

 失った心の温もりの半分を求めて、街を彷徨う。


 公園の出口で、イナバ博士と若き日の彼とが、出会ってしまった。


 老人のイナバ博士は、あの頃の泣きたい気持ちを思い出し、自らの手の中に眠るチロルを若き日の自分に、そっと渡す。


「お前は、もう独りではない。研究は、報われる。集中するのだ」


 不思議そうに、未来の博士を見つめる、若きイナバ青年。

 その時、起きたチロル。

 ニャ〜とひと声。

 キトンブルー。

 まだ青い目のチロルを名残惜しそうに、撫でるとイナバ博士は、その場を去った。


 若き日のイナバ博士は、いつまでもその場に立ち続け、ゆっくりとではあるが、取り戻した心の温もりを感じていた。


 5分後の転送ルーム。


 そして、現在の宇宙……。


 医務室に移動した4人と小さな命。

 ニャーク船長とスピッツ、そしてマッコリ船医に、イナバ博士は話した。


「クローンのチロルは、絶えず大人の姿をしていた。私がそう再生した。しかし、チロルにも、もちろん子供の頃はあった。さっき久々に思い出したよ」


 博士は、チロルの写真を見ながら、


「地球には、チロルの遺伝子を引き継いだ仔猫がいるはずとは、思っていた」


 博士は、スピッツから、チロルではない、新たな仔猫の存在を教えられていた。

 ダンボールに捨てられていた仔猫は、チロルだけではなかった。


 今、博士の腕の中、チロルの濃い茶色の毛並みによく似た仔猫が眠っている。

 長い時間を一瞬に飛び越えて来たその仔猫の寝顔を嬉しそうに見る博士。


「この子の名前は、チョコに決まった」


 その時、突然艦内に、ノイズが……。


「羨ましいニヤ~。僕も父ちゃんの腕に抱かれたいニャ~」


 涙もろいAIのキャット。

 ノイズは、キャットの泣き声。



 それから、しばらくの間。

 ミスタースピッツの行くところ、行くところ、艦内は、ノイズでうるさかった。


        (=^・^=) オシマイニャ~








 


 


 



 


 

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猫エネルギー @ramia294

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