ミスタースピッツは、怖いニャ~!

 マスチフ星雲は、アンドロメダ星雲のひとつ半お隣。


 最新鋭航宙艦ベンガルは、マスチフ星雲の辺境にあるセントバーナード星系を亜光速で移動していた。

 一時間後、イヌ型宇宙船、トサピッピ号とランデブーする予定だ。

 トサピッピ号は、我が惑星連邦で、最も優秀なグレートピレニーズ共和国(一般にピレネーと呼ばれる)の探査船だ。


 我が最新鋭航宙艦ベンガルに、連絡があったのが四十八時間前。

 この宙域で、新たに赴任する銀河系の地球大使のピレネー人ひとりとその息子を迎え入れ、地球周回軌道に乗るまでが、今回の任務だ。


 サモエド大使は、惑星連邦の中でも最優秀だと誰もが知る人物だ。

 珍しい事に、ピレネー人としては、唯一地球人と結婚している。


 恐妻家としても有名。

 いや、愛妻家か?


 その息子のスピッツ博士は、ミックスになる。   

 いや、ハーフか?


 とにかく、同行してくるスピッツ博士の科学者としての優秀さとモフモフの垂れ耳は、すでに連邦内に轟いている。


「艦長。スピッツ博士は、怖いニャ~。だいたいピレネー人は合理的過ぎて、苦手だニャ~」


 操舵士も通信主任も笑っている。

 キャットは、AIのくせに、仕方のない奴だ。


「仕方ないだろー。ノスタルジックフィルターがあるだろう。使わないとスピッツにバカにされるぞ」


 ノスタルジックフィルターは、AIが嫌われていた頃。

 まだ、猫に学ぶ前の動作形態を取り戻すものだ。

 当然、無駄を省き、合理的な動きしか出来ない。


「ノスタルジックフィルターは嫌いニャ~。ニャーク艦長、あれを使うと、みんなに嫌われるかもだニャ~」


 航宙艦ベンガルそのものと言ってもよい、AIのキャッツは、おバカな心配をしている。


 転送室の二人分のスペースが、光出す。


 サモエド大使とスピッツ博士が、姿を現す。

 

「大使、スピッツ博士。ベンガルに、ようこそ」


「ニャーク艦長も久しぶだね」


 サモエド大使は、ニャークたちににこやかな笑顔を向ける。


 スピッツ博士は、右眉を僅かに上げる。


 大使もスピッツもニャークとは、旧知である。


 ニャークとスピッツは、かつて士官学校で、同期だったし、大使とは、何度かオムロン帝国相手の作戦でご一緒した。


 歴史的には、オムロン帝国とピレネー人とは、元は同じだった。

 戦いに明け暮れるオムロンを嫌い、平和を求めた一部のオムロン人がピレネー星へ脱出して、ピレネー人になった。


 平和を好み、とりわけオヤツを尊び、


「アンコとチョコが、共にあらん事を」


 が、毎日の挨拶になっている彼らは、銀河の地球と出会い、惑星連邦が、生まれた。


 今や、百を超える連邦も最初は、ピレネーと地球だけだったのだ。


 ブリッジへ大使とスピッツを迎えたとき、警報が突然鳴った。


「オムロンの戦艦だニャ~!ピンチだニャ~!」


 オムロンは、問答無用で、撃ちまくる。

 彼らは、実体弾を主砲として使用している。


 亜光速の飛翔体は、防御スクリーンで防げるが、それも時間と数には、限界がある。

 五分も撃たれ続けると、過負荷でスクリーンが消失しだす。


 オムロン艦ピット・ブル号もトサピッピ号と同じく、イヌ型。

 猫型のベンガル艦が相手をするには、分が悪い。

 香箱座り形態への変形を終え、主砲で反撃する。


 迸るチーズビーム。


 しかし……。


 ピット・ブル号は、最新航宙艦ベンガルの主砲を軽くトーストした食パンシールドで受け止め、ホカホカのチーズトーストとして、自艦のエネルギーに変えてしまう。


 ついに、最後通告が、ピット号より発せられた。


「地球の最新鋭航宙感ベンガル。お前達地球人では、我々に勝てない。降伏せよ」


 ブリッジのメインスクリーンには、厳ついオヤジが映っている。


 その時だった。


 スピッツ博士が、突然メインスクリーンのピット・ブル号とオヤジたちに向かい命令した。


「お座り、お手、チンチン」


 反射的に、ブリッジの中の厳ついオヤジたちが、お座り、お手、チンチンをした。


 もちろん、ピット号もそれに倣った。


 お手、お座りで、斜め上を向き、チンチンで、弱点である腹部を晒した。


「キャット、今です」


 ピット・ブル号の腹部は、シールドの食パンを上手くトースト出来ない唯一の欠点。

 その欠点をベンガルの主砲チーズビームが、貫通した。


 もちろん、彼らもチーズは大好き。

 オムロン人同士がチーズを奪い合っている間に、ピット・ブル号はへしゃげて壊れ、乗組員のオムロン人は、膨張して破裂した。



 2日後、地球の周回を、まわる軌道上のベンガルから、地上に大使だけが転送された。


「父ちゃん、やっぱり、艦に残るのかニャ~?」


 キャットが、悲しそうに言った。

 航宙艦ベンガルのAIのキャットは、元々スピッツが、設計したものだ。

 キャットにとっては、親も同然。


 「どうも、お前の性能には、問題がありそうだ。この艦の科学主任として残る事にした」


 こうして、ミスタースピッツは、この艦の副長兼科学主任となった。


「ニャーク艦長。父ちゃんの教育は、スパルタ式ニャ~。僕を助けるニャ~!」


 それからしばらく、最新鋭艦ベンガルは、キャットの悲鳴で賑やかだった。


 宇宙。

 それは、最後のフロンティア……(=^・^=)ニャ~

 


         おしまいニャ~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る