第6話

 微睡み《まどろみ》をかき消す耳障りなスマホのアラーム。


 いつもなら寝ぼけながらアラームを止めてるけど、昨日は SNS で千夏を見つけて、友だち申請を送ってからソワソワしたまま横になった。それから、色々なことが頭の中をぐるぐるぐるぐる巡ってあまり眠れなかった。

 目を瞑っているだけで、ずっと起きていたような気もする。


 こないだ駅前で見かけたこと、中学時代のこと、疎遠になったきっかけのこと、今何してるのかとか、中学を卒業してから今までのこと色々聞きたい。

 それとあたし自身の高校時代のことも思い出していた。楽しかった思い出もあるけど、苦しかったり悲しかったり悩んだり、そんな記憶のほうが多い気がする。


 それに、高校時代があったから千夏に謝りたいんだ。それを改めて思い出した。


 (あー、ダルっ、眠っ……)


 まだ週の序盤。年度末ということもあって、最近はすごく仕事が忙しい。それを考えると億劫だし、体力的にも精神的にも少し疲れてきた。


 休みの度に通っていたお気に入りのカフェがなくなっていたから、また落ち着けるところを探さないとな。一人でゆっくりできる時間があたしの心の栄養になっている。それを楽しみにして今週を生きる糧にしよう。


 いくつかのアプリの通知が溜まっている。殆どがいつも無視しているニュースアプリの通知に、広告の通知。

 こないだから賑わせている芸能人の不倫のニュースと、アイドルの熱愛報道。みんなこう言うの好きだよね、飽きないのかな。

 夏物のセールも始まったみたい。えっ?夏物?もうそんな時期か。こっちはまだ肌寒い日があるっていうのに。今年は可愛いスカートほしいな。

 ファミレスのクーポン。カレー祭りだって。うーん、あたし辛いの得意じゃないしな。あ、でもこのイチゴのパフェはすごく気になる。

 ガソリンの割引クーポン。そうだ、そろそろガソリン入れないといけなかったんだった。


 (あっ)


 SNS の通知も来てる。千夏に送った友だち申請が承認されたみたい。


 えっ、どうしよう。こんなに早く承認されるなんて思ってなかった。この後メッセージ送っといたほうがいいよね。なんて送ろう……。眠くて頭が回んないよ……。なんて送ったらいいかわかんない。


 ひとまず、仕事行く準備しないと。メッセージは昼休みにでも送ろう。


 ***


 やっぱり今日も忙しかった。あっという間にお昼。頭の片隅にはメッセージのことがあったけど、次から次に仕事が入ってくるから、どんなことを書くかなかなか考えられなかった。


 さて、千夏になんて送ろう。


 色々なことを聞きたいし、どんなふうに書き出したらいいか悩んだけど、やっぱりシンプルに「久しぶり!元気してる?」かな。なんか、あれこれダラダラと書くのはあたしらしくない。これくらいさっぱりしていたほうがあたしらしいよ。


 友だち申請を送ったときは送信ボタンをタップする勇気がなかなか出なかったけど、その時よりもだいぶ気を楽にして送信できた。ずっと千夏との繋がりが途絶えていたけど、今は見えない細い糸でほんの少し、繋がってる気がする。


 もし、また会えたら、仲良かった頃みたいに話ができるのかな。


 あの頃は不思議だった。繋がりが実際に見えるわけじゃないけど、見えるような気がした。千夏がどんなことを考えているか分かったし、あたしが考えていることは分かってくれていた。


 だからこそ、、千夏が苦しんでいるのをただ眺めていた自分が許せなかった。


 昼休みの間はメッセージの返事は来なかった。


 自分のロッカーに放り投げるようにしてスマホをしまい。仕事に戻ったあたしは、メッセージの行方を頭の片隅に追いやった。午後も目まぐるしく時間が過ぎ去っていく。メッセージの行方が気にならないわけじゃない。片隅に追いやったはずのそれが、頭の真ん中に陣取りだすと、席を立つ度にスマホをチェックした。


 何か他のことを考えながら別のことができるほど、あたしは器用じゃない。メッセージのことが頭を支配しだすと、それを隅に追いやり仕事のことを考える。それを午後の間、何度繰り返したかわからない。


 今日、すっっごく疲れたのはきっとそのせいだ……。


 ***


 自宅に着いたのは20時を過ぎていた。

 簡単に夕飯を済ませ、お風呂に入るとウトウトする。昨日はソワソワして眠れなかったから、今日は早めに寝よう。


 ふとスマホを見ると、SNS の通知が来ていた。

 誰かのくだらない投稿の通知じゃない。千夏からのメッセージだ。 


 絵文字やスタンプがなく、素っ気無い感じだけど、なんだか千夏らしい。いつも少し自信なさげに、悪く言えばボソボソと、良く言えば静かに喋っていた。ガサツなあたしの喋り方とは全く正反対だった。メッセージには『元気だよ』とあるけど、なんだかそんな感じがしない。あたしの思い過ごしなのかも知れないけど。


 だけど、「そんなことないでしょ?」って返すのも変だよね。普通……。


 メッセージには続きがあった。東京の会社に就職して、何年か向こうに住んでいて、こっちに返ってきたのは去年の8月らしい。IT 系の仕事?よくわかんないけど、エンジニアの仕事をしていたみたい。千夏が IT って、ちょっと意外だな。


 こっちに帰ってきて、もう半年以上経ってたんだ。全然知らなかった。お母さんも知らなかったみたいだし、誰にも連絡してなかったのかも。


(明後日、暇かな)


 次の土曜日、カフェを探しに行こうと思ってた。前に見たいちごのパフェがすごいお店。桜が咲くにはまだ早いけど、それを食べに行くのも良いかも。

 あたしはメッセージで簡単に近況を添えて、千夏を誘うと、その返事は予想外に早く返ってきた。

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いつか花咲くきみへ 晶中ゆき @yuki_akinaka

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