第14話 フィネスの国とモニカの想い


「しゅ・・ぺい・・」

ん?、誰かが俺を呼んでる?、あれ?、俺どうしたんだっけ?…、確か泉をみつけて、その後何か物凄く刺激的なものをみたような?


「姉さん!、いくらなんでもやりすぎだよ!、人間相手に魔法攻撃だなんて!」

この声はつい最近聞いたことがあるような?


「だって仕方ないでしょ!、この男が私のは、裸をみたんだからっ!、まだ男の人に裸なんてみせたことないのに!、生涯裸をみせる相手は、旦那様だけって決めてたのに!」

「姉さんは大げさだな~、それにしたってこれはやりすぎだと思うけど、と言っても当たり所がよかったのか、外傷は見当たらない、魔法が当たって倒れたときに頭でも打ったのかな?」

「ところでカトルはなんでこの覗き男を知ってるのよ?」

誰が覗き男だ!、そっちが勝手に裸になってたんじゃないかよ!、クッ、言い返したいのに、まだ意識を覚醒できない。


「う~ん、瞬平とはさっき知り合ったんだけど、その時に油断して魔物に殺されかけた僕を、魔物を倒して助けてくれたんだよ、凄く強かったよ!瞬平は」

「へぇ~、この男がね~、ま、私の魔法を避けられないようじゃ大したことないわね!」

「やれやれ、姉さんは…」


「あっ、もしかして向こうのほうで見つけた魔物の死骸って、こいつがやったのかな~?」

「そうかもしれないね、瞬平が僕と会う前に魔物を倒したようなこと言ってたし」

「もうっ!、こいつが魔物の頭を潰してくれたおかげで、魔核が取り出せなくなったのよ!?、ホントッ、余計なことしてくれるわね!」

「まあまあ、瞬平は魔核のことなんか知らないんだから、あんまり攻めないであげてよ」

う~、カトルはなんて優しいヤツなんだ、それに比べてこの姉とやらは!、マジでカトルのほうが女の子に思えてくる。


「さあカトル、そんな男ほっといてそろそろ引き上げましょう、どうせフィネスの人間じゃないんだし、ここで死んだって私たちには関係ないでしょ?」

「そういうわけにもいかないでしょ、僕にとっては命の恩人なわけだし、それになにより、彼は外の人間だよ?、もしかしたらヤツのことやアニタのことを知っているかもしれないよ?」

カトルの言葉に、モニカは少し考え、

「ん~、確かにその可能性もあるか…、よし!そうとなれば」

「え?なにするのさ?姉さん!」

横たわっている瞬平の胸ぐらを掴むモニカに、カトルは狼狽えながら尋ねた。


「決まってるでしょ!、気付けの魔法をくれてやるのよ!、こんなヤツ抱えてフィネスまで戻りたくないでしょ?」

そう言うとモニカは、手のひらに魔力を集中させ、意識のない瞬平の頬に平手をお見舞いしたのだった。


「ッ!、い、いってーっ!」

魔法を込められた平手打ちを食らって、即目を覚ました瞬平。

「カ、カトル?、い、いや、違うなこれは」

カトルそっくりな顔をみて、1度はカトルと思った瞬平だったが、顔から視線を下へずらすと、服の上からでもはっきりわかるふたつの豊かな膨らみがあった、そして瞬平は凍りついた。

「ま、また人の胸をみて、このヘンタイ男が!」

再び平手を構えるモニカ、そこへ割って入ったカトルが、

「だから落ち着いてよ姉さん!、そもそも瞬平が姉さんの裸をみたのだって不可抗力でしょ?」

「何?、カトルは私よりその男の肩を持つわけ?、ま、いいわ、目を覚ましたんだからフィネスに戻るわよ!」

モニカはそう言うと立ち上がり、ある方向に歩き出した。


 確かにこいつが「みようとしてみた」わけじゃないんだろうし、ここは大人しく引き下がりましょう、でも今度イヤらしいことをしたら許さないんだから!。


「姉さん待ってよ!、瞬平ごめんね、姉さんがあんなで…」

カトルは手を差し出し、瞬平はその手を取り立ち上がる。


「なに、カトルが謝ることじゃないさ、で、お前たちは家に帰るのか?、それなら俺も自分の居場所に戻るとするか」

瞬平は自分が修行をしていた場所の方角に目をやった。


「その前にひとつ聞きたいんだけど瞬平、君は今までにこれらの名前を聞いたことはないかな?、アニタとザギって名前に」

真剣な表情で尋ねるカトル。

「ん~?、アニタのほうは聞き覚えがないけど、ザギのほうは最近刹那から聞いた名前だな」

「それホント!?」

カトルとモニカが同時に声をあげ、モニカが二人のところへと戻ってくる。


「ん?、ザギってヤツになにかあるのか?」

不思議そうな顔で聞く瞬平。

「ねえ瞬平、もっと詳しい話を長老様も交えて聞きたいから、いっしょにフィネスまで来てくれないかな?」

「フィネス?、それってどこだ?」

「僕たちの故郷で、シュトラールやエソナと隣接する小さな国さ、多分外の人間にはその存在をほとんど知られていないと思うけどね」


 そこでモニカも口を開き、

「アンタ!、私の裸をみたんだから、来ないなんて言わないわよね??」

「チッ、まだそのこと根に持ってんかよ!」

でも実際、ここはカトルたちに同行するのが正解だろうな、魔物を数匹倒しただけでメヴィの”お使い”が終わりとは思えないし、行けば分かるってのは、このふたりとの出会いから始まる、てことなんだろう?メヴィ。


「裸のことはともかく、お前たちに付いていくことにするよ、俺もかなり気になることが増えてきたからな」

「ありがとう瞬平!、これでやっとアニタに…」

瞬平に抱きつくカトル。

「いや、俺にはそういう趣味はないから、抱きつくのは勘弁してくれないかカトル」

「だって嬉しくて…」

抱きついたままのカトル。


「フンッ、ヘンタイのアンタにはお似合いよ、せいぜいカトルとイチャイチャしてなさい!」

皮肉たっぷりに言うモニカ。

こうして3人は、日が暮れて暗くなった森を、西のフィネスを目指して歩き出したのだった。


「なあ、フィネスってマジスタしかいない国なのか?」

フィネスに向かっている途中、瞬平が隣を歩くカトルに尋ねた。

「うん、そうだね、厳しい決まりがあるわけじゃないけど、外部の人間を入れないようにしてあるからね。ところで瞬平はいろいろ知ってそうだけど、マジスタのことどのくらい知ってるの?」

カトルが興味深そうに質問を返した。


「俺は人伝に聞いただけなんだけど、伝説の魔女?、ん~、確かフィーネ・グラン・・・、あ!グランフォードってお前たちの名前も!?」

驚きながらカトルをみる瞬平。

「う、うん、一応彼女とは血縁関係にあるよ、でも彼女は結婚せずに人柱になったから直接の子孫ではないんだ、僕たちは彼女の弟の子孫にあたるんだよ」

「ふ~ん、なるほどね~」

納得といった感じの瞬平。

「なんでも、フィーネと彼女の仲間たちがウィンダル族を守るため、もうひとるの大陸から渡ってきたとか?」

「うん、その仲間の子孫たちがフィネスで生活しているんだよ」

「え?でもなんで、ウィンダルとの交流を避けてる感じなんだ?、彼らを守るために来たなら仲良くできるんじゃないのか?」

「ん~、昔の人はそうは考えなかったんだろうね、立場が違うとはいえ、僕たちはウィンダルを虐げていたマジスタであることに変わりはないから、友好よりも距離を取ることにしたんだろうね」

「ふ~ん、いろいろあるんだな、でも俺からすると、なんか勿体無いなと思うよ、俺が会ったウィンダルの人たちは、そんな大昔のことを根に持つような人たちじゃないから、きっと仲良くなれると思うんだけどな」

そう話しながら、瞬平の頭には、デイジーやシェルヴィ、ロナルド、シンク村の人たちの顔が浮かんでいた。


「フンッ、知ったふうなこと言わないでくれる!、私たちだって好きでこんな生活してるわけじゃない!、今だって外に出て妹を探しに…」

瞬平とカトルの少し前を歩いていたモニカが振り向きそういった、最後のほうは自分にしか聞こえないように音を下げて…。


「あ、ゴメン、気に障ったなら謝るよ、でもここで会ったのもなにかの縁、困ったことがあれば協力するから、遠慮なく言ってくれよ!」

なにかの縁、か、この出会いって、メヴィの目論見通りなんだろうな。

「フンッ、誰がヘンタイなんかに頼るものですか!」

モニカは前に向き直り、歩く速度を上げた。


「ホント姉さんは意地っ張りなんだから、ごめんね瞬平、ああ見えて根は優しい人だから、あまり嫌いにならないであげてね」

「ああわかってる、なんとなくだけどそこのところは伝わってきてるからな」

前を歩くモニカの背中を見ながら瞬平はそう答えた。


 そうしてしばらく歩いたところで先頭を歩いていたモニカが立ち止まり、

「着いたわ」

モニカの言葉で、瞬平は前方を見渡し、

「え?着いたって、まだ森しかみえないし、エソナの奥地からにしては着くのが早くないか?」

「ふぅ、ヘンタイに教えるなんて面倒だわ、カトル、説明してあげて」

「まったく姉さんは~、瞬平、今から話すことは他言無用でお願いね」

「あ、うん、約束する」

「本当なら目の前にフィネスの国が広がっているわけなんだけど、フィネスには外部との接触を断つため、人払いの魔法が昔から張られていてね、外からではエソナの一部にしかみえないんだよ」

「じゃあこの目の前の森は、全部偽者ってことか?」

「うん、そういうこと、それと、奥地からの距離のことだけど、これも魔法の力でね、エソナのところどころに空間を繋げるゲートが設置されていて、それを通るとショートカットができるわけ」

「なんかすげえ便利だな、でもそんなゲートあったか?」

「実はこれも人の目にはみえないように魔法が掛けられていてね、おまけにマジスタにしか反応しないから、部外者には使えないようになっているんだよ。瞬平は僕にくっついていたから通れたんだよ?」

「いや、くっついてはいないと思うが…」

とりあえず、マジスタの人間の近くにいれば問題なく通れるってことなんだろう。


「大体の説明は終わったわね、じゃあ開けるわよ」

モニカのその言葉に、息を呑んで見守る瞬平。

モニカは両腕を広げ、

「我はフィネスの住人なり!、約束の扉を開けよ!」

モニカのその言葉で、前方の空間が揺らぎ、縦に一筋の光の線が現れると、それは両開きのドアのように左右に開く、その先には森ではなく草原や畑、民家らしき建物がみえた。

「さあ入るわよ!、アンタは変なことするんじゃないわよ!」

モニカは瞬平を指差し、そう告げると中へと入っていった。

「さあ行こう、瞬平!」

「あ、ああ」

モニカに続き、カトルと瞬平もマジスタの国・フィネスへと入っていくのだった。


「瞬平、長老のところまではもうしばらく歩くからガマンしてね」

瞬平の隣を歩くカトルがそう言うと、

「ああわかった、でもみた感じ、ほかの国と大差ないな?」

「そうかい?、僕は他の国に行ったことがないからなんとも言えないけど」


 先頭を黙って歩くモニカは時々チラチラと後ろを歩く瞬平をみてくる、そのたび瞬平は困った顔で目を逸らした。

そんな居たたまれない様子の瞬平をみて、カトルが話を切り出す。

「そういえば瞬平はどこの国の人なんだい?、ウィンダルでもないみたいだし」

「ん~、それを説明するのはかなり難しいんだよな~、てなわけで、追々説明させてくれ」

「うんわかったよ、その時を待ってるね瞬平」

「悪いなカトル、その代わり話しやすいことならなんでも聞いてくれ!、そう言えば、そっちの姉のほうには自己紹介してなかったな、俺は来賀瞬平って言うんだ、よろしくな!」

瞬平の言葉に少しだけ後ろに顔を向け、

「わ、私はモニカ、…さっきはゴメン、いろいろと言ったり、叩いたりして…」

なにか思うところがあったのか、モニカは先ほどのことを謝罪した。

「ああ、もう気にしてないから、そっちも気にしなくていいよ」

それを聞いてモニカは顔を赤くしながら、

「でもさっきみたことは忘れてよね!、その、私の・・・をみたこと」

瞬平も顔を赤らめ、

「あ、ああ、本当にスマンかった!」

と言ってもあの光景はそう簡単には忘れられないよな~。


「その代わり!、ザギのことをしっかり教えなさいよね!」

「それは僕からもぜひお願いするよ」

モニカとカトルはなにか思い詰めた瞳で瞬平をみつめたのだった。


 こいつらにもなにか事情がありそうだな、いいヤツらみたいだし、俺になにか手伝えることがあればいいんだけどな。


 しばらく歩くと建物が建ち並ぶ”街”らしき区域に入り、そこでも一際大きな建物の前に到着した3人。

「僕は先に長老様に説明してくるから、ふたりはここで待っててね」

そう言うとカトルは建物の中へと入っていった。


「瞬平、アンタけっこう強いみたいだけど、戦い方は誰から教わったの?」

取り残されたふたり、モニカは何気なく瞬平に話しかけてきた。

「戦い方か~、武術はオヤジに小さい頃から叩き込まれてたな」

「お父さんにか…、お父さんは元気にしてるの?」

「ああ、今も現役バリバリでやってる」

「大事にしなさいよ、お父さんのこと」

「?、ああ言われるまでもないさ、たったひとりの家族だからな」

「え?それじゃお母さんは?」

「ああ、母さんは俺が物心付くころにはいなかったよ、死んだことになってるけど、本当は行方不明で、生きているのか死んでいるのかはわからない、ひょっとしたらどこかで元気に生きているかもしれないけどな」

「ゴ、ゴメン、なんか余計なこと聞いちゃったね」

「なに、モニカが謝ることじゃないさ、…ところでさっき、ザギの名前出したとき、ふたりして思い詰めた様子だったけど、なにかあれば手を貸すから、遠慮なく言ってくれよ?、さっきも言ったけど、これもなにかの縁だしな」

「あ、ありがとう瞬平」

コイツ強いみたいだし、力を借りてもいいよね?父さん、母さん。


 そこへ建物からカトルが出てきて、

「話をつけてきたよふたりとも!、?」

カトルは向かい合っているふたりをみて、

「ふぅん、へぇ~、ふたりとも打ち解けたみたいだね?、瞬平、姉さんと仲良くしてあげてね、姉さんてばせっかく美人なのに、性格がこうだから男の人が近寄ろうとしなくてさ」

「そ、そうなのか??、確かにそれは勿体無いな」

「ふたりともうるさい!!、さっさと中に入るわよ!」

モニカは照れ隠しのように大声を出して、ひとり先に中へと入っていった。


「じゃあ僕たちも行こうか瞬平」

「ああ」


 瞬平が通された部屋は広く、20人くらいは座れそうな長いテーブルが置かれており、その上座にあたる席に年老いた男性が腰掛けていた。

瞬平はカトルに促され、老人に向かって左側の席へ、その向かい側にモニカとカトルが腰掛ける。

「それじゃあ僕から紹介するね、…こちらはイーストタワーの街の長老様だよ」

紹介された老人は、瞑っていた目を開き、

「ワシは「コルト・シルベスタ」という者じゃ、カトルに少し事情を聞いたぞ、よろしく頼むぞ少年」

瞬平は軽く会釈する。

「そしてこちらが来賀瞬平、僕の命の恩人にして、ザギのことを知っている人だよ」

「瞬平です、よろしくお願いします」

コルトに向かって再び頭を下げる瞬平。

「イーストタワーというのは、この街の外からもみえていたあの塔のことですか?」

部屋の窓からみえる天に向かってそびえ建つ塔を指差す瞬平。

「うむ、確かにその通りだ、フィネスにはある役目を持った塔が、あれを含めて5本ある、中央と東西南北にな、興味があるのなら後でカトルにでも聞くといい」

その言葉にカトルをみた瞬平、カトルは笑顔で返した。


「さて少年よ、単刀直入に聞くが、君はザギのことをどこで知って、どのぐらいヤツのことを知っておる?」

その問い掛けに、瞬平は少し考えてから、

「え~とですね、俺が直接会ったわけではなくて、俺の仲間が最近そいつと会っていて、その時のことを聞いたってだけなんですよ」

「ふむ、ではその聞いた話とやらの内容を聞いてもよいかのう?」

「それくらいなら構いませんよ」

瞬平は数日前の出来事、共和国から王国に逃げてきた帝国の皇子たちが、ザギに命を狙われ、危ないところを瞬平の仲間たちが助けたこと、皇子暗殺を失敗したザギはその場から魔法を使って逃走したことを話した。


「そうか…、話からするとザギは帝国に居り、しかも反逆者のひとりということだな」

俯き目を閉じるコルト。

そこでモニカが険しい表情で立ち上がり、

「あの男!、このフィネスを裏切ったかと思えば、身を寄せていた国まで裏切って、本当にクズね!、長老!、どうか私たちに外に出る許可をください!、必ずあの男を討ってきてみせます!」

興奮気味のモニカ。

「姉さん落ち着いて、まだ話の途中だよ」

そんなモニカをカトルが宥める。

「ゴ、ゴメン、取り乱しちゃって…」

席に座りなおすモニカ。


 そこで瞬平が口を開く。

「あの、こちらからもお聞きしたいんですが、ザギってヤツはここでなにをしたんですか?、差し支えなければ教えてくれませんか?」

「そうだのう、君にばかり話を聞いて、こちらはなにも教えないのではさすがに都合がよすぎる話だな、よかろう!、ザギのことを教えよう」


 そしてコルトは話し出す、10年ほど前にフィネスで起こった事件を…。

「当時ザギは魔法や魔物の研究員でな、ここイーストタワーではなくセントラルタワーの街にある研究所に勤めておった。だがある日ヤツはなにを思ったのか、禁忌の魔法が記された書物と、魔物の研究をしていたこの子たちの両親の研究成果を奪ってフィネスから逃亡しよった。その時ヤツは何人もの同僚を殺し、この子達の両親をも手に掛けた。その時両親と一緒にいたこの子達の妹は未だ行方知れずでな、ヤツに殺されたのか、それとも連れ去られたのか、それすらもわからない有様だった」

「私たちはアニタがどこかで生きていると信じています!」

話を聞き、モニカの悲痛な表情をみて、怒りで拳を握り締める瞬平。


「なぜ10年間、ヤツを探さなかったんですか?」

「ああ不本意にもな、古くからフィネスを出てはいけない掟があってな、特に厳しい罰があるわけではないが、生まれたころからそういう意識が染み付いているせいか、そう簡単には出る気にもなれんし、誰かを出そうとも思えんのだ」

「え?でもこのふたりはエソナには行ってましたよね?」

瞬平はカトルとモニカをみて、疑問に思い尋ねてみると、

「あそこは例外なんだよ、エソナにはマジスタが作った魔物が未だに生息しているからね、マジスタのケジメとして魔物の駆除はしなくちゃいけない、今は僕と姉さんがその仕事をしているんだよ」

コルトに代わってカトルが答えた。


 さらにコルトが補足するように語りだす。

「この子たちの血筋、”グランフォード”の血は特殊でな、普通、魔法を使う時は呪文を詠唱する必要があるのだが、グランフォードはそれをせず、反射的に魔法を使うことができるんだ。しかもグランフォードは飛びぬけて魔力の器が大きい。その特殊な性質ゆえに、フィネス建国から今に至るまで、魔物の駆除はグランフォードの一族が担当しておるんだよ」


「なるほど、伝説の魔女の血筋ということですね」

何気なく口を開いた瞬平。

「ほぉ?、フィーネ様のことを知っておるのか?」

「やぁ、これも人から聞いた話なんですが、ウィンダル族をマジスタ族から守るため、もうひとつの大陸に結界を張って、海には強力な海流を発生させたとか?」

「うむ、類まれなる魔力と優しさを持ったお方だったそうだ、今も彼女はこの大陸の西にある大渦の中心で、魔力を使い続けておる」

「でも結界を張ってから1200年経ってるんですよね?、そっちの大陸が今どうなっているのかわかっているんですか?」

「いや、それはわからん、今のワシらにそれを知る術はないからのう」

「そう聞くと無性に気になってきましたよ」

目を輝かせる瞬平。


 そうだ!、この人たちにも魔族の襲来について話しておいたほうがいいだろうな。

「あの~、ザギの話とは全く関係ないんですが、伝えておきたい重大な話があるんです!」

瞬平は3人に魔族のことについて簡潔に話した。


「その話本当なのかい?瞬平」

驚く3人だが、半信半疑といった感じでカトルが聞き返す。

「信じられないのも無理はないと思うけど、備えだけはしておいてほしいんだ」

「ふむ、とりあえず他の長老たちにもその話、聞かせておくとするかのう」

コルトは頷きそう言った。


「そんなことが起こるのなら、なおさらザギ、いや、アニタを探しに行かせてよ!長老!」

再び立ち上がり懇願するモニカ。

「…、そうだのう、瞬平の来訪とザギの情報、そして魔族の話…、フィネスもなにかしらの決断を迫られているのかもしれんのう」

「じゃあ長老!?」

表情が明るくなっていくモニカ。

「ああ、まだここだけの話にしておいてもらうが、モニカにカトル、お前たちにザギの捕縛とアニタの捜索と保護を頼みたい、引き受けてくれるかの?」

「もちろんです!!」

モニカとカトルは同時に声をあげたのだった。


「そこでだ瞬平、君に彼らの案内役を頼みたいのだが、どうだろう?」

「ええ、困ったことがあれば力を貸すって約束でしたからね、俺は全然構いませんよ」

「ありがとう瞬平!」

カトルが嬉しそうに瞬平に抱きつく。

「だ、だから抱きつくなっての!」


「ねえ、姉さんも感謝の気持ちを込めて抱きついてみたら?」

突拍子もないことを言い出すカトル。

「な、なんで私がそんなこと!…、それにまだそいつのことを完全に認めたわけじゃないんだからね!?」

そんなふうに言いながらも、モニカの顔は赤らんでいたのだった。


「会ったばかりだというのに、随分仲がよいようだの?、まあそれはさておき、今日はもう遅い、明朝出発するといい。カトルや、フィネスを出るときは、わかっておるな?」

「はい、エソナを経由してですね」

「うむ、フィネスから直接王国に出ると、他の者に出国がばれてしまうからの、それと瞬平、君の容姿は目立ちすぎる、ローブを授けるゆえ、フィネスの中ではそれで正体を隠すといい」

「ありがとうございます」

頭を下げる瞬平。


「それじゃあ瞬平、今日は僕たちの家に泊まるといいよ、ね?姉さん」

嬉しそうに言うカトル。

「な、なんでコイツをうちに泊めなきゃいけないのよ!?」

「瞬平にはこれからお世話になるわけだし、せっかくできた友達だよ?、野宿なんてさせられないよ!」

「しょ、しょうがないわねぇ、ただし、今度みたら殺すわよ?」

瞬平を睨むモニカ。

「ヒ、ヒィィィ!」

怯える瞬平であった。


 こうして3人は、カトルたちの家へと向かい、明朝の出発に備え、早めに眠ることにしたのだった。

それから1時間ほどが経ったころ、なにかの気配で瞬平は目を覚まし、

「ん?、どうしたんだこんな時間に」

瞬平が窓から外をみると、月明かりの中、モニカが庭のベンチに腰掛けていた。


「明日やっとフィネスの外に出られるんだ、待っててよアニタ、お姉ちゃんが絶対迎えに行くからね!」

モニカは月を眺めながら、決意の表情で呟いた。

そこへ…。

「どうした?、緊張で眠れないのか?」

瞬平が傍らに立ち、声を掛けてきた。

「アンタか…、そんなんじゃないわよ、…10年も待ち続けてやっと、アニタを探しに行けるんだ、こんなに嬉しいことはないからね、そういう意味ではアンタと会えたことには感謝しないとね」

笑顔で答えるモニカ。

「いい顔で笑えるじゃないか?、怒ってるよりそっちの笑顔のほうが似合ってると思うけどな」

その言葉にみるみる顔が赤くなるモニカ。

「う、うるさい!、こっちみるな!」

「ふぅ、素直じゃないな、…ところで妹っていくつぐらいなんだ?、その子もお前に似てるのか?カトルみたいに」

「歳は16、私の二つ下、もちろん私に似て可愛いわよ、ちなみにカトルは17よ」

「かわいいとか自分で言うなよ、ま、否定はしないけど、というかお前、俺より年上かよ!」

「え?アンタいくつなの?」

「17、カトルと同い年だな」

「そうか、17歳か、…ねえ瞬平、明日エソナに出たら私と勝負しなさい!、アンタがどのくらい使えるか確かめさせてもらうわ」

「え?、まあ俺は構わないけど、その時はお手柔らかに頼むぜ」

瞬平の返事を聞くとモニカはベンチから立ち上がり、

「そうと決まれば私はもう寝るわ、アンタもさっさと寝なさいよ!」

「お、おう!」

モニカは家へと入り、瞬平は深呼吸をすると、

「モニカとカトルのためにも、なんとか妹を見つけ出してやりたいな、メヴィなら居場所がわかるかもしれないけど、あっちから現れないかぎり、連絡の取り様がないからな~、やれやれだな」

こうして瞬平も借りた部屋へと戻った。


 モニカはベッドの上で、

「瞬平のヤツ、私が自分のことかわいいって言ったら、否定はしないって言ってたな~、年下のクセにナマイキ!、でもなんか…嬉しい、なんだろう?この気持ち」

嬉しそうに微笑むモニカであった。


 瞬平たちがこの星に来てから9日目の朝。

瞬平たち3人は、旅立ちの準備を整えてからコルトに挨拶をし、昨日フィネスへ入ったときのようにエソナへと出たのだった。

フィネスを出てからしばらく歩いたところで、先頭のモニカが足を止め、後ろを歩くふたりのほうへと向いた。


「瞬平!、ここならいいでしょ?、昨日の約束、守ってよね!」

瞬平は頷き、

「ああ、わかってる、俺もお前たちのことを知りたいからな」

「え?え?なに?なんの話?」

カトルはモニカと瞬平を交互に見やり、何事かと慌てる。

「カトル、アンタはみてなさい、今からコイツと勝負をして、使える男か試してみるわ」

「え?え~~~っ!、本気なの!?」

「心配するなカトル、すぐに済ませる」

瞬平は真剣な表情でそう言った。

「瞬平が強いのは昨日みたから知ってるけど、姉さんはフィネスでも屈指の実力者だよ!?、止めたほうがいいよ!、昨日だって姉さんの裸に見惚れてたとはいえ、1発で気絶させられたじゃない!?」

「カトルぅ、へんなこと思い出させないで!、コイツがまた鼻血吹くでしょ!、それにアンタ、すぐ済ませるとか言ってたわね?、誰にそんなことを言っているのか、今からその体に教えてあげるわ!、覚悟しなさい!」

モニカはそう言うなり、手のひらから魔球を発生させ増大させていく、それはどんどん大きくなり、以前ザギが第三騎士団に放った魔球より一回り大きいものになった。


 瞬平はすぐさま距離を取り、二人から離れた位置で仁王立ちになる。

「いくわよっ!、うまく避けないと本当に死ぬわよ!」

モニカはそう言うと、瞬平めがけて魔球を放った。

迫る巨大な魔球、瞬平は微動だにしない。

「瞬平避けてっ!」

カトルが青い顔で叫んだ。

「え?なんで避けないの?、お願い!避けて瞬平っ!」

モニカが涙目で叫んだその時だった。

瞬平は右手を前に出し、魔球が衝突する瞬間、その右手で払った。

すると魔球は爆発もせずに弾けて消えてしまった。


「ウ、ウソ!、魔力を掻き消したの!?」

驚き、へたり込むモニカ。

口をパクパクさせ、言葉が出てこないカトル。

少し怒った顔でズンズンとふたりの元に近付いてくる瞬平。


 瞬平はふたりの前までくると、

「モニカ!、いくら俺の力を試すためだからって、あんな強力な魔法を撃ち出すなんてなに考えてんだよ!?、俺が避けたらどうなると思う!?」

「え?、あっ…」

はっと気付くモニカ。

「森や…、他の動物たちに…」

そう呟くとモニカは立ち上がり、瞬平に抱き付いた。

「コメン!瞬平っ!、本当に死んじゃうかと思ったよ~!」

泣きじゃくるモニカ、カトルも自分の涙を指で拭い、

「あ、あの姉さんが泣いてる!?、アニタがいなくなってから涙なんかみせたことない姉さんが!」

「カ、カトルうるさい!」

瞬平の胸の中で拗ねるモニカ。

そんなモニカの頭を撫でてやる瞬平。


「よしよし、で、どうだ?、俺は使える男か?モニカ」

「そんなの決まってるでしょ!、私の魔球をいとも簡単に消し去ったんだよ!?、使えないわけないじゃない!」

そう言いながら瞬平の目を見つめるモニカ。


「じゃあ決まりだな、これからもよろしく!モニカにカトル」

瞬平はモニカから体を離し、親指を立ててみせた。

「凄いよ瞬平!、さっきのはどうやったの?、姉さんの魔法を消しちゃうなんて!」

興奮しながら瞬平に駆け寄るカトル。

「ん~、特になにかしたわけじゃないんだけど、まあ言うなれば、気合いだな、修行じゃもっと強烈な攻撃くらってたからな、今じゃたいていのことは気合いでなんとかなるって感じだ」

「よくわからないけど、これからも頼りにさせてもらうよ瞬平!、君がいっしょだと本当に心強いよ、ね!姉さん?」

「う、うん、よ、よろしくね、瞬平」

顔を赤らめモジモジしながらモニカはそう言った。


 そんなモニカの揺れ動く乙女心を知ってか知らずか、瞬平は先頭に立ち、

「じゃあまずは王国のシンク村に行こうぜ、そこにはザギと直接会った仲間がいるからさ、話を聞いてみようぜ」

その後3人は、エソナを北に向かって歩き出したのだった。


 その頃、王国の南、フィネスの西に位置するムジェンダの北の国境では…。

「ふぅ、スタイセンのヤロウ、帝国の乗っ取りに失敗しやがって…、これで金も領土もパーかよ!、せっかく協力してやったのによ、これじゃあタダ働きじゃねえか、かと言ってムジェンダだけで王国に牙を剥いたところで勝てるわけもねえし、ここは一旦引くか」

この男、ムジカ・シュナイトフは4年前、デイジーの父であるハリソンを殺し、その勢いで当時のムジェンダの国王で独裁者でもあった男を暗殺。現在、ムジェンダを支配する盗賊団の首領である。

そして間もなく彼は、予想もしていなかった大きな力を手に入れることになる、そのことを彼自身知る由もなかったのだった。

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