ある夜、月明かりの下で

香坂 壱霧

🌕 🌝 🌃 ⭐

 二人は、線路沿いを歩いていた。

 時折足を止めては、お互い見つめ合う。そのたびに月子は照れくさくなるのを誤魔化すように、勇輝の左腕に顔をうずめた。

 


「浮気するならバレないようにしなよ」

「それって浮気してもいいってこと? 心が広すぎだろ」

「莫迦だなあ。あたしはあなたが何をしてるかお見通しだってことを言ってんの」

「はいはい。俺は莫迦ですよ。それと俺は、月ちゃんみたいに寛大になれません」

「あたしは、浮気しない。だから、束縛しないでよ」

「なんだそれ。俺は月ちゃんの今までの彼氏みたいに自由を奪ったりしないからな?」

「知ってる。だから好きになったんじゃん?」

「酔ってる? 月ちゃんがそんなこと言うって珍しい。でも嬉しいからもう一度言って」

「言いません。私の言葉は一度きりです」

「言わせてみせようホトトギス」

「ほら、やっぱり浮気者じゃん。秀吉みたいなこと言ってさ。淀君みたいな子、あとから見つけてきたら許さないからね」

「月ちゃん、かわいいね。妬いてる?」

「やっぱりいるんでしょ? 全部縁切ったって言うのは、嘘なんだ?」

「それはホントだって。月ちゃん一人いたら、他の子いらないってホントに思ったんだから」

「浮気グセって、なおらないって言うじゃん。でも、信じてる。あたしに嘘は通用しないって、まだ理解しきれてないみたいだけど」


 月子の言葉に、有輝は足を止めた。月子が口を少し膨らませ、すねた顔をしているのを見る。

「月ちゃん、かわいいね」

「そんなのでごまかしてもだめだからね」

「照れてる。月ちゃんは、ストレートな言葉を言うと照れるから、そこがかわいいよね。言われなれてないって前に聞いたけど、そんなはずないよ。こんなにかわいいのに」

「言われたことないから、もうやめてよね。言い慣れてるゆきくんがずるいんだから」


 月子は足を早めて、有輝との距離を作る。有輝は笑みを浮かべたあと、月子を追いかけた。

 早足の月子の左手を取り引き寄せ抱きしめる。


「浮気したら殴って詰って、月ちゃんの好きなようにして。……しないけどね」




〈了〉

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ある夜、月明かりの下で 香坂 壱霧 @kohsaka_ichimu

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