第21話 初登校
運命の日は晴れていた。
太陽も輝いている。
ピカピカの笑顔で行ってきますを言うはずが、こんな時に限っての寝坊で母にヤイヤイ言われながら家を飛び出した。
玄関の外まで出て来た母は、私の姿が見えなくなるまで見送っていた。
永光池を少しゆっくり歩く。
春の光が水面をキラキラと輝かせている。
世界がこんなにも明るいのも、
キレイなのも忘れていた。
春がこんなにも美しく優しいのも。
決戦に備えて思い切り光合成した。
チカラが湧いてくる。
多喜くんの言った通り。
学校が近づくとやっぱり緊張と不安で息が
苦しくなった。
正門のど真ん中でうっちゃんが手を振っている。登校してくる生徒たちの邪魔になるのをモノともしないうっちゃんに自然と笑みがこぼれた。
「来たな」
少年漫画の決闘シーンみたいな台詞でうっちゃんが迎えてくれた。
教室に行く前に職員室に寄って担任に挨拶する。
「恥ずかしながら戻って参りました」
先生はうれしそうに私の席を教えてくれた。
いよいようっちゃんと一緒に教室の前に立つ。
「深呼吸や」
うっちゃんに言われるまま深呼吸した。
教室に入る。
真っ直ぐ顔を上げられなかった。
下を向いたまま自分の席を探す。
うっちゃんが手を引いて連れて行ってくれた。
席について恐る恐る顔を上げる。
すぐ目の前に多喜くんの顔があった。
びっくりし過ぎてそのまま固まる。
多喜くんは更に顔を近づけて私をじっくり
観察してから言った。
「なんや 顔パンパンに腫れる病気や思てたのに全然普通やん」
なぜか残念そうだ。
「顔パンパンに腫れる病気って?」
謎は残ったが、いつも通りの多喜くんだった。
チャイムがなってうっちゃんが
「また休み時間にくるから」
と言って教室を飛び出す。
ギリギリまで一緒にいてくれた。
先生が来て教卓の前で言った。
「これでやっと全員そろったことやし、席替えしよか」
私のせいでずっと出席番号順に座っていたようだ。
まだ多喜くん以外誰ともしゃべっていない。
友達も今のところ多喜くんしかいない。
私は祈る思いでくじを引き番号の席を探した。
窓際の一番後ろ。
ナイスなポジションだ。
くじ引きの神様は近頃ずっと私の味方。
ここなら光合成にも最適やし。
目を閉じて光を浴びていると、私の前の席に
誰か座った。
目を開けると多喜くんだった。
神様。えこひいきし過ぎちゃいますか。
ホンマに夢かも知れないと私は多喜くんを見た。
「何やねん 仕組んでへんぞ」
拗ねたような顔で多喜くんが言う。
「とかなんとか言っちゃって」
と返すと、多喜くんが笑った。
それはあの暗くて、鬱陶しくて、辛気臭い布団の中で、何度も何度も夢に見た
見たくて見たくて何度も泣いた
恋しくて恋しくてたまらなかった
大好きな大好きな多喜くんのピカピカの笑顔だった。
授業が始まって多喜くんが前を向く。
多喜くんの背中。
もうむしゃぶりつき放題は終了したが、
見放題は継続中だ。
彼女でも 友達でも
多喜くんは変わらない
やっぱり大好きな笑顔で
大好きな四角い背中
まだ2年生だ
時間はある
チャンスもある
私は雑草
へこたれない
これからもイベントは満載だ
しかも同じクラス
やっと同じクラスになれたことを心から感謝出来る
それが何よりうれしかった
多喜くんには申し訳ないが、また私の
スキスキ攻撃に付き合ってもらうしかない
私はなめまわすように多喜くんの背中を見つめた。
気配を感じたのか多喜くんが振り向く。
「どうや 笑ろてるか」
私は返事のかわりにホンマもんの笑顔を見せた。
四角いあなた 大和成生 @yamatonaruo
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