第20話 登校準備

「明日 学校行くわ」

電話で伝えるとうっちゃんが泣いた。

うっちゃんがこんなに泣くのを見たのは

(電話だから見てないけど)初めてだった。


迎えに行く、と言ううっちゃんに

学校までは一人で大丈夫。でも教室に入るのは、きっとビビってしまうから正門で待ってて欲しいと伝えた


「多喜がアンタには絶対言うな、却ってプレッシャーになるかも知れん。とか言うから黙っててんけど……」

とうっちゃんが話し出した。


「彼女が学校に来られへんって辛い思いしてんのにバイクの免許とかふざけた事ぬかしてるからムカついて」うっちゃんは多喜くんに詰め寄った。


何で今やねんと。

多喜くんは答えた。


「だってアイツ絶対外とか出んと、家の中ばっかりでおるやろ。連れ出しても人目があったら嫌やろし。でもバイクやったら誰にも見られんと二人だけでどっか明るいキレイなとこ行って、ええ景色見たり出来るやん。

アイツ木とか草とか好きやから 

太陽浴びて好きなもん見てたら 

笑えるようになるんちゃうかと思うねん」


[俺はどっちでもエエで 彼女でも 友達でも]


私は泣いた。

声を上げて泣いた。

うっちゃんもつられて泣いた。


それは今まで布団の中で散々泣いていた時の

涙とは全然違った。

哀しいのにうれしい。辛いのに幸せで。

涙と一緒に私のこれまでの弱さが全部流れていくみたいだった。


考えなしとは私のことだ。

バイクに嫉妬して自分を憐れんで、

踏まれることを恐れて芽を出そうともしなかった。

夢に浸ってなにも見なかった。

多喜くんも、友達も、家族も。

私を照らしている周りの優しい光を。


光合成や。

これからは死ぬほど太陽を浴びる。

そして芽を出す。踏まれてもいい。

へこたれない。復活してやる。

多喜くんが褒めてくれた、強い雑草に。


「私 雑草になる!」

うっちゃんに決意表明した。

「わかった。明日教室入る時ビビってたら耳元でちゃんと言うたる。オマエは雑草だ、雑草になるんだ!って」

「虎の穴か!」


窓の外で優しい朧月がまだこちらを照らしている。

春の匂いがした。

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