第19話 登校拒否

始業式からすでに10日が過ぎた。私はまだ学校に行っていない。でも光合成はするようになった。太陽を浴びてチカラを蓄える

でもどうしてもあと一歩が踏み出せなかった。


夕方、担任の先生がやってきてこれ以上休むと留年するかもしれないと言った。

母は「本人の意思に任せてますので」と私を見た。


「留年したらごめんな」

先生が帰った後母に言った。

「あとちょっとの勇気が出ぇへんねん」

「最近はちゃんと起きてるし ちょっとは笑うようになったやんか 大したもんや」

母はおおらかに笑った。なのに……


その夜、庭で突然大きな音がした。

家族が慌てて縁側に集まる。

母だった。

母が庭の植木鉢を地面にたたきつけて大声で泣いていた。

「私のせいや ごめんな 私のせいや……」

母はそういいながら陶芸家の失敗作みたいに植木鉢を割り続ける。


私は裸足で庭に飛び降りた。

「違う私が悪い。私が悪いねん。ごめんなさい」

泣きながら母にしがみついた。


「笑うから、これからは笑うから。学校も行く!明日から行くから!」


母は私を見つめた。

「大丈夫なんか?」

いやアンタが大丈夫か?!と思ったが力いっぱいうなずいた。

「大丈夫!」

「そうか……良かった……」


母は体中についた土を払いながら

「お風呂入ってくるわ ごめんやけどこれ片づけといて」

そう言って家族があっけにとられる中さっさと家に入っていった。


「狂言?」兄が聞いた。

「脅迫」姉が答えた。

「とにかく力技や」父がつぶやいた。


母とでは雑草としての年季が違う。

背中を押される、というより蹴り飛ばされた。武士に二言はない。言った以上、あと一歩踏み出すしかなかった。

朧月の優しい光が庭での一部始終を照らしている。


月に願った。

明日多喜くんみたいなピカピカの笑顔でみんなに行ってきますと言えますように

母のホンマもんの笑顔を見れますように

強くなれますように


うっちゃんに報告しなければ。

私は電話へと急いだ。

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