第18話 始業式

今日は始業式。2年生が始まる日。


始業式の何日か前にカツラが用意された。

私は恐る恐るカツラをかぶって鏡を覗いた。

ウォーズマンがいた。

絶望してカツラを取る。

今度はラーメンマンが現れた。

鏡を見るのが心底嫌になった。


結局始業式には行かなかった。

16歳の女の子にキン肉マンはキツい。


そしてまた布団の中で夢を見る日々を

繰り返している。


「ようそんなに寝られんな!コケ生えるわ」

取り入れた洗濯物を山のように抱えた母が

部屋に入って来た。

「また泣いてんの?目ぇ溶けるで 暇やねんから洗濯物畳んどいて」


母は学校へ行けとは言わなかった。

腫れ物に触るように私を扱う家族の中で、ただ一人私の部屋にズカズカと入ってきて、今までと何ら変わらず布団を引っ剥がしたり、

用事を言いつけたり、変な歌を歌って私を

笑かしたりした。


「泣いても笑っても一緒な時は笑うねん

最初は本気で笑えんでも そのうちホンマもんの笑顔になる 泣いとったらずーっとそのまんまや」

母は言う。


「笑ろてるか」

多喜くんも言う。


泣いても笑ってもか……


確かに私はもういい加減うんざりしていた。

自分にだ。


そもそもいくら悲劇のヒロインぶったところで、ビジュアルはラーメンマンだ。コミカル過ぎる。そしていくら若いといえど体力には限界がある。寝るのにも体力がいるのだ。


正直飽き飽きしていた。

こそこそするのも 

うじうじするのも 

めそめそするのも 

そんな自分にも


もう一度カツラをつけてみた。

鏡の前で試行錯誤を繰り返す。

ウォーズマンから座敷童ぐらいになった。

よし!女の子や 座敷童がホンマに女の子なんかは知らんけど

段々カツラををつけた自分の顔にも見慣れてくる。

もしかして いけるか?!


「うっちゃんから電話やでー」

母の声に自分が何時間も鏡の前にいたのに

初めて気がついた。


その日うっちゃんが電話で教えてくれた。

担任が1年生の時と同じ先生になったこと

うっちゃんとは違うクラスになったこと

多喜くんと私が同じクラスになったこと


うれしいはずの同じクラス。


けれどそれが少し芽を出した私の雑草魂を

しなしなと萎えさせた。


勇気が チカラが出なかった。

太陽が全然足りていなかった。

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