きゅうりとなす

パ・ラー・アブラハティ

揺らめくカゲロウ

 太陽が燦々と照るうだるような日。ニュースでは最高気温を更新すると、エアコンが効いて涼しそうなスタジオからアナウンサーが言っている。


 こんなにも暑い日だが、今日は一年に一回に会う約束をしている少女と遊ぶ。僕と少女は離れた場所に住んでいて簡単には会えない。だから、年に一回会おうという約束をしている。外はとても暑いが僕にとってはそんなの関係の無いことだ。


 彼女と約束した場所はここから五分もしないところにある公園だ。そして、僕と彼女が初めて出会った場所でもある。ニュースを見ながら時計を気にし、約束の時間のちょっと前になり僕は家を出る。


「母さん、行ってきます」


 僕は時間ぴったしに着く。公園内に彼女の姿を探す。キィキィと鉄の鎖が擦れる音がして視線を音の方へやると、彼女はブランコを漕いでいた。


「相変わらず好きだね、ブランコ」


「風になれて気持ちいいよー。最高だから乗りなよ」


 黒い髪を風に揺らして、君は白い歯を見せながらはにかむ。


「会う度にいつも乗るかって聞いてくるよね」


「君はいつも乗らないって冷たくあしらうよね。たまには乗ってくれてもいいじゃん」


「ただでさえ風みたいな存在なのに、これ以上は風を感じたくないんだよ」


「同族嫌悪?」


「同族ではないだろ」


 僕は横に空いていたブランコに座って彼女と他愛もない話をする。


「知ってる?今日最高気温なんだってさ」


「らしいね、僕たちには関係ないけど」


「ここら辺は便利だよねえ、私たち」


「暑いとか寒いとか感じないもんね。裸で出ても捕まらないし」


「それは人道に反してない?」


「人の場合なら反してるだろうね」


「人じゃなくてもそんなことしたら地獄行きだよ」


「それはそうかも」


 僕たちは太陽が煌々と照りつけるなか、汗ひとつかかずに涼しい顔で談笑を続ける。公園の前を通り過ぎるサラリーマンは額の汗を拭い、腕まくりをしどうにかこうにか暑さを逃がしていた。


 どれほど暑いかは分からないけど、カゲロウが天へ昇っているから無茶苦茶暑いのだろう。感じれないその事実に少しだけ胸は寂しくなる。


「それにしてもどうしようか。せっかく集まったし、どこか行きたいよねえ」


「どこにも行かなくていいよ。去年はコンビニに行ってえらい目にあったじゃないか」


「あれは大変だったねえ。コンビニに入ったのはいいけど出れなくなってそのまま二十分ぐらいコンビニの中だったもんね」


 彼女は面白おかしく去年の話を思い出しているように言う。


 去年、僕たちはどこかへ行きたいという話になり彼女が「コンビニに涼みに行こう!」と言ったのが事の始まりだった。


 もちろん僕は「温度なんて感じないから行く必要が無いじゃないか」と一度は否定的な色を出したが、彼女はそんなことはお構い無しに強引にコンビニに行って、たまたま人が中へ入ったタイミングで僕たちも中に入ったんだ。


 それが運の尽きだった。入った人が出たタイミングで一緒に出れば良かったものの、彼女は久しぶりに来るコンビニに目の色を輝かせ色々な商品を物色し始めた。そのせいでタイミングを逃し、二十分もコンビニの中に閉じ込められることになったんだ。


「どこかへ行こうってのは山とかそういうところを想像していたのに、まさかコンビニに行くとは思わなかったよ」


「だって、ずっと行ってなかっただもん。たまには行きたいじゃん」


「気持ちは分かるけど」


「でもさ、なんだかんだ楽しかったよね」


「まあ、正直に言うと楽しかった」


「だよね……って、もう二時か。一時間近くこの公園で話し込んでいたんだね」


 彼女は公園にある時計に目をやってそう言う。もう、そんなに経っていたのかと僕は思う。まだ日はそこまで暮れてはいないが、僕たちには限られた時間がある。


「もう解散して、各々の家であとの時間は過ごそうか」


「そうだね。お母さんたちのことまだ見てたいし」


「それじゃあ、また一年後」


「うん、また一年後」


 僕たちの家族は僕たちが見えない。だから、虚しさが募るがこうして元気に過ごしている姿を見れるだけでいい。


 あぁ、また一年後か。みんなに会えるのは。

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きゅうりとなす パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482

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