小さき日の思い出

宮塚恵一

夕暮れに迷い込んだ路地裏で紡いだ記憶は夢か現か。

 テーブルにいつも置いてるマグカップ、宙を飛んで窓にぶつかる。


 母は言う。金がないのはあなたが悪い。父は言わない。母への怒り。


 怒号から逃げ去るように飛び出した。お家の外は今は夕暮れ。


 楽しげに笑う家族をチラと見て、涙と嫉み、共に湧き出る。


 ふと気づく。必死で走った先につく、その路地裏は見知らぬ世界。


 小窓から溢る小さな部屋明かり、思わず中をそっと覗いた。


 小窓から覗いた先に妖怪変化。一つ目、タヌキ、猫又、お化け。


 食ってやる。背の方からの笑い声。驚きぴくり、体が跳ねる。


 まだ子供、あまり脅しちゃ可哀想。そう止めたのは綺麗なおんな。


 どうしたの? こんなところに迷い込む、だけの気持ちを抱えてるかね。


 白袴、まとうおんなに手を引かれ妖怪たちに、それ仲間入り。


 どんちゃんと酒飲み踊り、歌い明かしや。妖怪たちはみな楽しそう。


 どんなにも嫌なことがあろうとも逃げた先には誰かがいるさ。


 逸れもの、嫌われ者の掃き溜めさ。それでもぼくら、こんなに楽し。


 楽しげな妖怪たちに囲まれてなんだかとても心が躍る。


 歌歌う。みなに囲まれぴょこぴょこと腕を動かし、脚を動かし。


 ──朝起きて、わたしの前に父母の顔。心配そうに覗き込んでた。


 揺れる背におぶられながら夢心地。ふわふわ浮かんで気付けば我が家。


 背も伸びて父母に会いにと故郷へ帰った夜にその広さ知る。


 いらっしゃい。ふと足止めて入ったお店。そこにて笑う覚えある白。

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小さき日の思い出 宮塚恵一 @miyaduka3rd

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