恋愛短歌集~君想ふ~(二)

圭琴子

『風吹かば 君訪(おとづ)るや 縁に出て 音をききつけ 千々に乱るる』『比ぶべく 幸(さち)もなきほど 逢瀬にて 奥二重こそ 微笑みの君』

(一)

 うらうらと

 光のどけき

 園(その)で見ゆ

 桜花(さくらばな)散る

 東風(こち)の隧道(ずいどう)


『うららかな、のどかな光の降り注ぐ公園で見ましたね。春の風が吹く、桜吹雪のとんねるを』


(二)

 林辺(はやしべ)の

 麓(ろく)で契りし

 君の名を

 呼べば消え失す

 夢のあとさき


『林のそばの、山の麓(ふもと)で契った貴方の名前を、呼ぶと儚く消えてしまう。逢瀬の前には憧れていられたものを、経験し終わってしまえば何とも虚しく切なくなり、もう前(さき)の自分には帰れないものです』


(三)

 風吹かば

 君訪(おとづ)るや

 縁に出て

 音をききつけ

 千々に乱るる


『風が吹くと、貴方が来たのかと濡れ縁に出て、物音に耳を澄まして動揺しては、様々な思いが入り乱れてしまいます』


(四)

 比ぶべく

 幸(さち)もなきほど

 逢瀬にて

 奥二重こそ

 微笑みの君


『逢瀬で、貴方の奥二重で微笑まれるのは、比べるようなものがないほど幸せな事です』


(五)

 ぬばたまの

 髪梳くたびに

 思ほゆる

 げにいといとし

 指(および)の当たり


『黒髪を梳く折に、自然と感じられます。本当に愛おしい、貴方の指の感触が』


(六)

 手拭(たのご)ひに

 誓ひし針の

 愛(めぐ)しごと

 己(おの)が代はりに

 あはれてしがな


『はんかちに、切ないほど愛しい想いを、針で縫って約束しました。私の代わりに、愛して欲しいものです』


(七)

 憂(う)し覚え

 面影のごと

 幼生(をさなお)ひ

 たちかへりかの

 人に会はばや


『辛い記憶が、幻のように思える、幼い頃の生い立ちです。もう一度、あのひとに会いたいものです』


(八)

 春霞(はるがすみ)

 立てるやいづこ

 恋ひごとし

 我らの行く末

 おぼつかなけれ


『春霞が立ちこめているのは、何処なのだろう。まるで、この恋のようだ。私たちの将来は、ぼんやりとしている』


(九)

 夜(よ)もすがら

 みづのかんばせ

 思ひつつ

 いつしか寝(ぬ)れば

 夢でみえけり


『一晩中、貴方の生き生きとして美しい表情を思いながら、いつの間にか眠ると、夢の中で私は貴方の妻になるのです』


(十)

 わりなかる

 己(おの)が身なれど

 妻恋ひす

 今宵晴れなり

 あながちに逢ふ


『分別のない私ではありますが、貴方を恋い慕っております。今夜晴れがましく、一途に結婚します』

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恋愛短歌集~君想ふ~(二) 圭琴子 @nijiiro365

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