第5話 想い

「こ、恋人!?」


 好きだという告白の時点ですでに慌てていた少女は、さらに驚きの発言が飛び出してきて跳ね上がった。


「えぇ、恋人よ」


「そ、それって……あの……一緒にご飯食べたりお風呂入ったりするんですか?」


「そうねぇ。夜は一緒に寝るし、なんならその先も……」


 妖しく舌なめずりをする怪異に、少女は怯む。


「もし私が断ったら……」


「そこまでよ」


「そこまで?」


「もうあなたには、関わらない。好きにやらせてもらうわ」


「それは……」


 陰陽師にフラれた怪異は、悪事を働き始めるだろうか。

 先ほどの話しぶりからするに、そう思えた。

 それならば、無理にでも恋人になった方が世のため人のためになるのでは。


「よぉく考えるのよ。これはあなたの選択なんだから」


「私の……」


 選ぶのは、少女自身だ。


「ちょっと……考えさせてください」


 少女は立ち上がり、背中を向ける。


「えぇ……待つわ」


――――――――――


「私、決めました」


 涼しい風が吹き始めた夕暮れ。

 少女は再び戻ってきた。

 その顔には決意が満ちている。


「聞かせてちょうだい」


「その前に、あなたへ感謝の言葉をいいですか?」


「かん……しゃ?」


 いつもなにかを見透かしている怪異が、虚を突かれた顔になる。

 その隙に、少女はゆっくりと言葉を紡いでいく。


「私は両親を亡くしてから、今までなにごとも一人でやってきました」


「辛いこともあったけれど、その度に自分を励まして頑張ってきました」


「でも……でも、あなたの……で……」


「あなたが優しくしてくれたから、人の温もりを思い出させてくれたから、私はさらに強くなれた」


「だから、これからも……私と一緒にいてください」


 少女は静かに頭を下げた。

 涙は頬を伝い、布団に小さな染みを作っていく。


「……」


「……」


 二人の時間が止まる。

 口を開いたのは、怪異の方。


「……もちろん、よ」


 聞き慣れない声が聴こえた。

 顔を上げた少女の目には、同じく目に涙を貯めた怪異の姿が映った。


「おかしいわねぇ。あなたを困らせるつもりで尋ねたのに、そんなにまじめに答えられたら……泣けてきちゃったわ……」


 その様子を見て、少女は楽しそうに笑う。


「あはは、あなたが泣くなんて思わなかったです」


「なによ、私だって泣くときくらいあるわよ」


 言いながら、涙を拭う。


「というか……。いつになったら、あたしの名前を呼んでくれるのよ?」


 ハッとする少女。

 こんなに仲がよくなったのに、名前のことはすっかり忘れていたようだ。


「それは私もです」


 この二人、恋人同士なのに名前も知らないのである。


「自己紹介……しましょう?」


「ふふ、いいわよ。私の名前は……」


――――――――――


 夜の都に蔓延る物の怪。

 いくら祓えど尽きることなし。

 されどここには彼女達がいる。


「さぁ、ここまでよ!」


「さっさと祓われなさぁい!」


「「破っ!!!」」


 その頃、都には二人組の陰陽師がいた。

 一人はかわいらしくもたくましい少女。

 もう一人は、頭に帽子をかぶった大人な女性。

 二人は息を合わせ、それはそれは見事に物の怪を退治したという。


(おしまい)

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祓いたいです陰陽師ちゃん! 〜気になるあの子は都の怪異!?〜 砂漠の使徒 @461kuma

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