エピローグ
周りの声が耳に入り、目が覚めると、俺は座布団の上で寝ていて一枚の掛け布団がかけられていた。
起き上がって周りを見ると、ここが見覚えのある部屋、自分の家の居間で、ばあちゃんと警官と石井の三人が食台の周りに座って、話していることに気が付いた。
警官は俺に気づくと、
「起きたか、良平。調子は良さそうだな?」
と冗談交じりに言った。俺は
「どう見たら良く見えるんだ」
と呆れながら返した。
警官は浜田啓二という男で、長年この田舎町の警官を勤めていることもあって距離感が近く、いろいろと相談に乗りやすいため、町民から人気がある。浜田は町民のほとんどと面識があり、俺もその中の一人だったが、最近は素行が悪そうな見た目をしているからか、目をつけられていた。
「お前があんな夜更けに山から女の子を担いで出てきたのを見たときはたまげたぜ。とうとう一線を越えちまったかってな」
と浜田はガハハと笑った。
俺はくだらないことしか言わない浜田を無視して、石井に今の状況を聞くと、仁士山の入り口にいた警官は浜田で、石井は俺と入れ替わるように意識を取り戻し、浜田が俺を疑っていることに気づくと、事情を説明して嫌疑を晴らしたそうだった。
しかし、石井自身が夜更けまで俺を連れまわしたことを浜田が問題視し、俺のばあちゃんへの謝罪と石井への事情聴取を兼ねて、ばあちゃんの家まで連れて来られたらしい。
結果として、ばあちゃんは石井を咎めることはなく、俺自身が石井に付いていく判断をしたのなら言うことは何もない、とのことだった。それを聞いて、俺はばあちゃんに信頼されているのか放っておかれているのかわからず、少し複雑な気持ちになった。
さて、その一方で、浜田のほうも石井を検挙することはなかった。というのも、石井が十八歳の少女ということが判明し、この場は穏便に済ませようという浜田の計らいだった。
俺は何よりも石井が未成年ということに衝撃が走ったが、ともかく大ごとにならなかったことに少し安堵した。
浜田は俺にも事情を聞いてきたが、俺は核心部分は避けて、電話ボックスを探していたと伝えた。
それに納得し事情を聞き終えた浜田は、ばあちゃんから出されたお茶を一気に飲み干し、石井を送り届けて帰ろうとした。
しかし、石井は節約のために野宿していると告白し、警察で保護することになりかけたが、ばあちゃんの提案で、石井をここでしばらく預かることになった。
俺は猛烈に反対したが、この子がもし暴漢に襲われでもしたらどうするのか、とばあちゃんに言われ、反論ができなかった。ここで石井を見捨てるのは、ばあちゃん自身が自分に嘘をつく、ということなのだろう。
浜田は、ばあちゃんの提案を容認し、面白くなってきたな、とニヤつきながら俺に言い残し、去っていった。
その後、ばあちゃんと石井が浜田を玄関まで見送って居間まで戻ってくると、ばあちゃんが石井に
「睦美、あんたは風呂に入ってきなさい。女がいつまでも顔に泥をつけたままにしておくんじゃないよ」
石井は自分の頬を腕で拭うと、驚いた様子で風呂場に急いだ。
居間でばあちゃんと二人きりになると、俺はばあちゃんに本当のことを伝えた。
噂通りに電話ボックスが現れたこと、青白い手のこと、青白い手の中から出てきた女のこと、そして母さんと父さんらしき人物のことを。
ばあちゃんは、母さんと父さんの話をしたときに、驚いた様子で居間を後にした
俺はなんとなく、ばあちゃんの後を追うと、ばあちゃんは居間の隣の仏間に入り、仏壇の前で手を合わせていた。
仏壇には母さんと父さんの写真が置かれていた。
しばらくすると、ばあちゃんは顔を上げて、仏壇の写真を見ながら、
「一郎は白い袈裟を着ていたと言ったね。それはこの世に未練があって、あの世に行けず、彷徨っているんだ。一郎はこの世にとどまろうとしているんだ。しおりさんと一緒のところにいけばいいのにねえ…」
と言った。
一郎は俺の父さんの名前で、しおりは俺の母さんの名前だった。ばあちゃんは写真の父さんに語りかけているようにも見えた。
ばあちゃんが消沈している姿を見たのは父さんと母さんが亡くなって以来で、俺は何も言えなくなった。
今はそっとしておこうと、居間に戻って座布団の上に寝転がると、ボーっと天井を見つめ、父さんの未練とは何なのかを考えた。
しかし、今の俺には何もわかるわけもなく、疲れが押し寄せ、再び深い眠りに落ちたのだった。
ヤンキーと七奇譚 @jori2
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