第13話 タツに会う

卓也たくやは、由里ゆりが言っていた罠について調べていた。


猫を捕獲する為の罠があるのか?


ネットで探したら、すぐに見つかった。捕獲器の様な大きな罠、それ以外にも、紐が首に絞まる簡易の罠の方法も載っていた。しかも、自作出来そうである。プリントアウトし、由里ゆり達の元へ、戻った。


由里ゆりとキンジには、調べた事を話し、他の猫にも伝言してもらう。また、印刷した写真も猫達に見せ、どういう罠なのか、説明した。信雄のぶお文太ぶんたに関しては、いまいち、理解出来ていない様子だったが、とりあえず、餌に飛び付いたら、捕まるという事を分かってくれればいいと思う。


早速、信雄のぶおが出発するらしく、俺はついて行く事にした。文太ぶんたは、キンジと一緒に部下達へ罠の事や、捜索する場所について指示するとの事で別行動をとる。 由里ゆりには、屋代川に行く旨を伝え、信雄と共に向かった。


屋代川は、中学校近くにある。昔、中学生がふざけて川に飛び込み、死亡するという事故があった。その事故以来、転落防止の柵が出来、人も近寄らなくなった為、葦が伸び、川辺一面に草むらが広がっていた。

その柵だが、数年前から、一箇所、倒れている所がある。誰が倒したか分からないが、そこから、人間も通れる様な状態になっていた。信雄のぶおが、川の方に入っていったので、自分もついていく。川辺は、葦が生え、足元が分かりずらいので、注意して歩く。


あっ・・・信雄のぶおを見失った。草むらの中に入ると、猫の姿なんて、全く分からないな。


信雄のぶおの名前を呼ぶと、前方の方から、鳴き声が聞こえた。


その方向へ注意しながら、進んで行くと、信雄のぶおは居た。その場所は、冷蔵庫や自転車など、ゴミが散乱していた。不法投棄の様だな。そして、その粗大ゴミの上に、数匹の猫がおり、信雄のぶおをじっと見ている様子だった。


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ヴィトーは、屋代川の川辺に住み着いた猫と向かい合っていた。


屋代川グループの猫達は、なにも言わず、俺を見ている。

しばらく待つと、奥から、一匹の大柄な猫が、姿を表した。


「ヴィトー、久しぶりだな。」


このグループのボス、タツが姿を表した。


こいつは、カルメラの兄であり、会うのは、彼女が死んだ日以来だ。周りの奴らは、殺気だった目で俺を見ている。


それはそうだろう。カルメラを守れなかったんだから。


だが、そんな俺に対して、タツは何も言わない。部下達も、親分が言わないので、必死に感情を抑えている。こいつは、実力を然る事ながら、部下達も統率出来る、一目置ける猫だ。


タツの過去については、カルメラから聞いていた。

タツとカルメラは、昔、人間に飼われていた。人間の夫婦、その子供と幸せに暮らしていたのだが、その家の子供が死んでから、家庭が壊れた。男の方は家から居なくなり、女は二匹に暴力を振る様になったのだ。


タツは妹をかばい、暴力を受け続けた。

必死に耐える日々だった。


だが、人間からの暴力は、日に日に酷くなっていった。ついには、カルメラにも攻撃し始めた為、二匹は人間の元から去った。


そこから、タツとカルメラは、住みかを転々とし、定住できる地を求めた。


時には、他の猫の縄張りへ足を踏み入れ、戦いになる事もあったそうだが、その都度、タツは、相手を圧倒した。そんなタツの元へ、色々な猫達が集まりはじめ、次第に大所帯になった。そして、タツのグループは、この屋代川の川辺にたどり着いた。


この川辺だが、俺の縄張りの範囲だった為、タツは俺に挨拶へ来た。てっきりボスの座を争うのかと思ったが、こいつは挑んでこなかった。ただ、屋代川の川辺を安住の地にしたい、それだけだった。こいつは、腕っぷしも相当だが、自分から戦う事はしない。俺は、そんなタツを気に入り、縄張りをくれてやった。

その後、俺の居る中学校へやってきたカルメラと恋仲になり、タツには、妹を貰うと話した。


タツは祝福してくれた。

本当に嬉しそうだった。


そんな妹思いのタツに、カルメラの死を伝えるのは辛かった。

だが、こいつは一言「そうか」と言うだけで、俺を責めようとはしなかった。


俺は、こいつの前で、誓った。

「お前の妹を殺した奴には、報いを受けさせる」と。


タツと会うのは、誓ったあの日以来だ。

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野良猫は思う、人間の愚かさを。 佐藤 学 @umemoto09

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