終章

 水色さんの能力を目的とした事件は、こうして終止符が打たれた。

 警察の方々が到着する寸前に、白野先生を拘束していた氷は瞬時に水に戻り、川へ吸い込まれていった。水色さんの能力が強力だった故に白野先生に目をつけられてしまったわけだが、その強力さがあったからこそ脅威を退けることができた。

 その結果——青山を含む全員が事なきを得て——

 水色さんの能力は、誰にもバレておらず——

 事件から数日が経った今日も、水色さんの能力検証に励むことが出来る。

「ねえ九郎」

 検証場所である倉庫に向かいながら喜美が話しかけてくる。

「どういう心境の変化なの?」

「何がだ」

「だってさ、『慎重に堅実に真面目に頑張ろうや』がモットーの九郎が、こんな提案してくれるなんて」

「一度たりともそんな口調になったことはない!」

「あれ、そうなの? じゃあ、あの時のこと覚えてないんだー」

「あの時ってどの時のことだ、僕が知らない過去が何かあるのか!」

「えへへー、そうだなー、教えたら素直にお姉様を諦めてくれる?」

「ずっと秘密にしておいてもらって良いぞ」

「頑な! あーもう、絶対教えない!」

 そうこう言い合いながら、僕と喜美は倉庫にたどり着く。

 そこには既に水色さんと青山が居て、準備を進めてくれているはずだ。

 そう、準備——

 水色さんの未来を輝かせるための、準備だ。

 倉庫の中には、綺麗な虹が、何重にも折り重なっている。

 天井付近にも、倉庫の壁際にも、至るところにある。

 通常ではあり得ない光景は、他でもない、水色さんが作り出している。

 水色さんは、自身の能力によって作り出した水のドレスに身を包んで、倉庫の中央に立っている。

「ぐっふぅ」

 後から倉庫に入った喜美は勝手に致命傷を受けていた。わかる。僕も初見だったら同じ反応をしていたと思う。

 見るもの全てを観入らせる姿は、これまでの能力検証に使った雑多なものが全て片付けられているからこそ見れるものだった。

「青山、倉庫の片付けありがとう」

「お安い御用だよ」

 野球部のエースは、事件の前と変わらない笑顔を見せてくれる。

 その様子を今日も見ることができて安心する。

 そうして視線を再び水色さんに戻す。

「九郎君、提案してくれてありがとう。嬉しいよ」

「ぐっふぅうぅ」

 その言葉だけで、この先の未来も生きていたいと思わせる価値があった。

 喜美以上に致命傷を受けながらも、しっかりと足に力を入れて水色さんの前に立つ。

「これまで通り、能力バレに気をつけながら——水色さんの魅力を全面に押し出していきます」

 ——今日は、能力検証と兼ねて水色さんのPR活動も行う。

 水色さんの認知度が高まった今、MVを作成し、動画サイトにアップすべきだと提案した。

 本来ならば能力を使わない方が良いだろう。

 でも——「能力を含めて、水色さんの魅力ですから」

 水色さんと喜美が、ニンマリと僕を見つめてくる。

 気恥ずかしかったが、「はじめますよ」とだけ言い切ることができた。

 僕の言葉を受けて、喜美がカメラを撮影ポイントに設置し始める。

 水色さんは、歌う準備に入っていた。

 誰かが入ってこないように、青山は外で待機してくれている。

 倉庫には、僕と、二人の女性しかいない。

 ——未来はこの先も続いている。

 水色さんの能力は間違いなく最強で、この先も何かがあるかもしれない。

 それでも未来が続くなら、幸せも続くはずだ。

 大好きな二人の女性に向けて——全力で笑いながら、こう紡いだ。

「では今日も、水色さんの能力、徹底解剖していきましょう!」




                                   了

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最強水系能力者の水色さんと恋する幼馴染 常世田健人 @urikado

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