正体!
車で走っていて、身体にかかる重力加速は。
前か後ろか。
アクセル、ブレーキ。
右か左か。
ハンドル操作。
以上。
いや。
上下の重力加速も、全く無い訳ではない。
坂道や路面の凹凸を通過する時、稀に感じる事が、ある。
だけど、今。
普通には、あり得ない向きの重力。
あー、飛んでる……。
おそらく、時間にすれば、一瞬、なんだろうけど。
頭の中が真っ白になって、身体に感じる重力で『飛んでる』って認識してる。
「あー……月が綺麗だなぁ……」
視界に入った月を見て、無意味にそんな風に感じてしまう。
ヴゥーーーーーーー!!
エンジンの唸りに意識を取り戻す。
パニックになって、硬直して、しかもブレーキとアクセルを踏み間違えてる。
思いっきりアクセル踏み込んでるよ。
直後。
ドン!
強い衝撃と同時に、ブレーキを思いっきり踏み込む。
頭がちょこっと天井にぶつかったけど、まだ大丈夫!
わたしの車は、横転することなく、水平に着地したっぽい。
直前まで踏み込んでいたアクセルのせいで、止まらず、まだ前に進もうとしている。
「止まってぇええええ!」
サスペンションが悲鳴を上げそうな上下の揺れ。
身体も上下に揺れる。
致命傷にはなってない、はず!
とにかく、思いっきりブレーキだけを踏む。
二速か三速か。
ギアも入りっぱなしだから、エンジンブレーキも効いてるはず。
ガクン!
一瞬、前のめりの重力がかかる。
エンジンが止まって、ギアがロックしたか?
クラッチを踏み込むと。
ズズズズズズ……
その後は緩やかに前進。
「………………」
そして、完全に停止。
エンジンも切れて、辺りが静かになる。
でも。
カン……カン……カン……
停止したエンジンのつぶやきが聞こえる。
わたし自身の鼓動も、ドクドクと聞こえる。
顔を上げて前方を見ると、ヘッドライトが照らし出しているのは。
道路と、その向こうにある、林。
その手前、足元。
ここは、畑? 荒れ地?
「はぁああああああ……よかったぁあああああ!!」
ハンドルに突っ伏して、叫ぶ。
どうやら、カーブをオーバランして、道路から脇の空き地に転落したっぽい。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
直前の峠道の
そこに、この衝撃。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
とりあえず、生きてるっぽい感覚。
ドキドキはしているけど、特に痛みは、無い。
手足も、ちゃんと動かせるっぽい。
「はっ!」
「車は!」
自分の身体の無事がわかったら、車の事が心配になった。
衝突や横転はしなかった、とは言え。
強い衝撃。
バタン
ドアを開けて外に飛び出す。
ずっ
靴が、土に少し埋もれる感覚。
地面はやはり土で、作物ではなく、雑草がぽつぽつと生えている模様。
「懐中電灯……」
リアに回り込んで、後部ドアを開けて懐中電灯を取り出す。
スイッチを入れて、車を照らして外傷が無いか確認。
「ほっ……」
「どこもぶつけてなさそう……」
足回り。
タイヤを蹴ってみる。
ん。パンクもしてなさそう。
シャーシの方は……車屋さんで診てもらわないと解らないだろうなぁ。
「どんな風に飛んだんだろう?」
振り返って、飛び出した道路の段差を見てみると。
高さは、五十から六十センチぐらいかな。一メートルもないね。
アクセルを踏み込んだのが、結果的に良かったかな。
ブレーキを踏んでたら、あの段差で前のめりになって止まったか?
下手をすると、前転して、半回転。
逆さまに転がってたかも?
スピードが出てたんで段差を飛び越える事ができた、って感じかなぁ。
運がいいやら、悪いやら。
いずれにしても……
「やっちゃった、な……」
はうぅ……。
落胆しつつ、ふと、足元を見る。
「!」
「え、何、コレ!?」
拾い上げた、ソレは。
赤い、プラスチックの破片。
「テールランプカバー!?」
あわてて、自分の車のテールランプを確認。
「……割れてないよね」
しかも、よく見ると、形状が違っている。
「他の車の……残骸?」
足元周辺を懐中電灯で照らしてみると。
「うわっ!」
素で驚いたわよ。
ゴロゴロ。
転がってる、転がってる。
いろんな車、バイクのパーツ!
散乱してる。
「そういう場所かぁ!!」
バイクで走ってた時も時々見かけたけど。
たまにあるのよね、こういう、『事故多発地帯』
「はぁ……」
「やっちゃうべくして、やっちゃった、かぁ……」
顔を上げると、まんまるお月様。
ブォーーー
「!」
ぼーっとしてたら、
現れたのは、
ああ。
わたしが、追いかけて来ないから、戻って来たんだね。
丁度、わたしの車の前の道路に停車。
うう。恥ずかしい……。
エンジンも停めて、ライトも切って、
……わたしの幻影。
……鏡の中のわたし。
……一体、どんなヒト?
月明りが、逆光になって、暗くて、顔まではよく見えない。
「ん?」
この体形、ものすんっごく、見覚えが、あるような……
失礼、とは思いつつ、懐中電灯の光を向ける。
まぶしそうに目を細めたその
その
「お
「……」
…………。
この後。
でっかい大目玉と、お説教を、しこたま食らったのは。
言うまでもないのよぉぉぉぉっ。
バード・ガール~鳥撮り少女【外伝】
『鏡の中のわたし?』
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鏡の中のわたし? なるるん @nrrn
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