山中!
前を走る、
恐らく、山へと向かっている、と思われる。
なるほど。
「峠……、か……」
平地の一般道じゃ、テクニカルな運転の要素は、皆無。
そりゃ、まあ、
確かに、
段々と信号が減り、道幅が狭くなり、登り坂が増えて来る。
道路の両側も。
住宅、店舗などの建造物の合間に田畑や林が増えて来て、やがてそのバランスが入れ替わる。
「ここから三十ね……」
制限速度も、四十から三十へ。
エンジンブレーキを少し効かせて三十キロまで減速。
信号は、ほぼ無くなった。
道幅も狭いけど、路面の状態も変わってくる。
ここまではわりと普通のアスファルトだったけど。
とたんに悪路。
「舗装されてない訳じゃないのに……」
特に、カーブの内側に堆積している。
右周りの時はさほど気にならないけど、左周りの時、
ここのところ、天気も良かったから、その土は乾燥していて、なおさら。
傾斜もさらにきつくなって、操作が忙しくなる。
二速落として減速しつつカーブへ侵入。
そのままアクセルをキープして曲がりながら、カーブを抜ける瞬間にアクセルを踏み込んで加速してまたギアを上げる。
「やばっ」
前を行く
直線で加速して速度を上げれば追い付けは、する。
「でも……」
「制限速度を順守」
最高速度は三十キロ。
「アウト・イン・アウトで道幅いっぱいまで使えれば……」
「ううん、それも、だめね」
センターラインが無いから、出来ると言えば出来る。
しかし。
「キープ・レフト……」
対向車線側へ膨らんで、もし、対向車が来たら?
正面衝突したくはない。
直線での追い上げが出来ない以上。
カーブでどこまで速度を落とさずにキープできるか?
ただし、無理はできない。
路面の事もあって、慎重にならざるを得ない。
下手に砂利や土を踏んだら?
ずるっ!
横滑りして、対向車線側へはみ出してしまう危険。
もしくは、ハンドル操作を誤って、崖側のガードレールへずどん。
「うう、怖い、怖い」
幸いな事に。
前を行く
次にどちらに曲がるのか、事前に察知できる。
「そっか……わたしの方が鏡の中の幻影、なのかな……?」
右へ、左へ。
山を登り続けると、だんだんとカーブがキツくなって直線も短くなる。
やがて。
頂上と思われる水平な直線を超えた先。
「下りっ!」
登りより、遥かに慎重な操作が要求される。
登りはほぼエンジンブレーキだけで
下りは、ブレーキも併用しないとすぐに
かと言って。
ブレーキに頼り過ぎると、ブレーキが過熱して、ブレーキ自体が使い物にならなくなってしまう。
エンジンブレーキもあまり使い過ぎるとあちこち悪くなりそうで怖い……
「ううっ、手と足がもう一本づつ欲しいっ!」
アクセル、ブレーキ、クラッチ、三つのペダルを踏み分け。
左手はほぼクラッチレバー。右手でハンドルを操作。
カーブが大きいから、ハンドルも大きく回す必要があるんだけど、右手一本だと、力不足。
しかも。
「しくじったなぁ……
素手だと、汗でハンドルが滑る!
直線で手の汗を拭きつつ、どうにか。
そういえば、さっき料金所で見た前の子の手。
「指抜きの
登りはなんとか追従できていたけど、逆に下り坂でどんどん離されて行く。
コーナー一つ分、離れてしまうと、テールが見えなくなって、コッチがさらに不利になる。
「ああ……」
「見えなくなった……」
先行する
もはや、追い付く事は困難。
「でも!」
慎重に。
今、自分にできる
ヘッドライトに次々と浮かび上がるコーナー。
右。
左。
右。
左。
「よし」
登りの逆で、コーナーが少しづつ緩やかになってくる。
道幅も少し広くなってきた。
もう少しで、峠を、山を越える!
少し緩やかな、右カーブを曲がる。
突然。
視界が広がる。
それまで、道路の左右にあった林が無くなった。
右カーブの左側。
広い、畑?
その畑の先、左に曲がるカーブが見える。
ああ、次は左か……
「え?」
「あ?」
「うそっ!」
「やだっ!!」
一体、何が起きたのか?
わたしの身体が。
わたしのクルマが。
ヒュー……
空を飛んでいた。
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