第51話
「そもそも、どうやってそんなやつを追い払うことが出来たわけ? どんなこと言ったって引き下がらないどころか詰め寄ってくるでしょ」
「相手の立場を把握した上で、徹底的に俺とのやり取りで弱みになるところを嫌な気持ちにさせない程度に突き続ける。以上」
「……ごめん、言ってることが異常に難しすぎてよくわかんないんだけど」
妹は少し理解しようと体の動きを止めて考えたようだが、すぐに苦笑いして考えることを諦めた。
「そもそも、その相手は俺のいつもつるんでる友人と同じ部活のやつで仲が良いからな。そいつのことを心配だからって言って責めた。そうすりゃあ、そいつのところに早く行かないと嫌な女みたいに見えそうでバツが悪くなるだろ?」
「うっわ、陰湿かつ頭回り過ぎてエグすぎでしょ……。どうやったらそんなに性格悪い立ち振舞い思いつくわけ? それもその状況になって、瞬間的にでしょ?」
「いや、こればかりはそう言われても何も言えねぇー……。俺も自分で嫌になったし」
「ま、麗羽姉ちゃんとの関係を静かに守りたいってことを考慮すれば、本当に最強なんだけどね。やっぱり兄さんは色んな意味で規格外ってこと。私なんて足元にも及ばないや」
「こんなことで張り合うのやめてもらって良い? お前は普通に賢くて良い女を目指してもらって」
こんな陰湿な方向に頭の働く女になど、間違っても妹にはなって欲しくない。
「それに、これはある程度頭の回す相手にしか刺さらない。もっと直感的に動いたり、欲望に従順だと対応出来ないけどな」
「へぇ。ってことは、兄さん的にそいつは結構頭が働くって思ってんだ」
「まぁ『凄まじい過去の経験値を使ってるだけ』って言い方が正しいかな。経験値が豊富過ぎて色んな選択肢を知ってるし使えるから、頭使ってるように見えるっていう方が正しいかも」
「めちゃくちゃ辛辣な評価するね……。兄さんにどう思われてるか、不安になってきた」
「いや、お前のことは自慢の妹ってしか思ってないが。そもそも、俺と麗羽の間に入ってきて茶々入れてくるんだ。その上、麗羽に敵対心剥き出しで煽り散らかしてくるし。多少なりとも敵視はしてるつもり。家の中で敵のことをを多少あれこれ言うぐらいはね?」
「……やっぱり、うちの兄さんを敵に回すとやばいね。何か久々に"暗黒騎士"の片鱗を見てるかもしれない」
何故か妹のテンションが上がっている。
「取り敢えず、お前的に俺がいい感じに輝いてたら"暗黒騎士"になると思ってて良い?」
「うーん、そうかも。割と麗羽姉ちゃんのためならエグい考えや行動を迷わずする辺りが、良いなって思うわけだし」
「妹よ、お兄ちゃんはお前が悪い男に惚れそうで心配しか出来ないぞ……」
「それに、兄さんは"ノーマル騎士"の時は引っ込んでて麗羽姉ちゃんのこと守ってんのかよくわかんないし!」
「うぐっ!」
「っていうか、逆に守られてますよね?」
「それ以上言うな、瀕死になりそうだ……」
「まぁ普段は麗羽姉ちゃんが兄さんを守って、大事な時は兄さんが麗羽姉ちゃんをってことか。そう考えると、やっぱり二人って良いね」
妹はそんな風に良いように言ってくれているが、悟からすれば、そこまで良い形なっているとは思えなかった。
「……でも、もう隠しながらは限界があるんじゃない? 相手だって懲りずに攻めてくるでしょ」
「ああ、その通りだと思う」
「それに……。兄さんのことを褒めまくってからこんな事言うのも何だけど……。経験値を使うだけでも、その量が膨大で相手基礎レベルそのものが高くなってたら、耐えたり避けたりするにも限界があると思えちゃうのは間違ってるかな……?」
「いや、合ってる。そこに気がつけるとは素晴らしいな、我が妹よ」
割とキモいノリで絡んだつもりだが、そこにいつものツッコミを入れることもなく、真剣に話を続けた。
「……そろそろ、二人の関係を公にすること本気で考えてみない?」
「それな……」
「そして、それを実行するのはもちろん兄さんだからね?」
「えっ、俺からなの!? あいつからじゃなくて!?」
「当たり前じゃん! 大事な時は兄さんから動くスタンスでしょーが! それに……麗羽姉ちゃんにいいサプライズになるでしょ。本当に喜ぶと思うよ」
「それは……分かってるつもりだけど……」
「ほら、"暗黒騎士"になっちゃえ。そうすりゃ恥ずかしい気持ちも、後ろめたい気持ちも無くなるでしょ」
「なっちゃえって、ゲームみたいに気軽にジョブチェンジ出来ると思うんじゃねーよ!」
「期待してるぜ? 我が自慢の最強の兄よ」
「くっそ……」
悟の心の中に小さなトゲのように刺さっていた何かを、妹に全て代弁されてしまったような気がした。
モテ始めた俺、とある女子に染められたのが理由です。 エパンテリアス @morbol
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