14そして・・・話

「どういうことだ。なぜ、なぜ僕のお義母さんとなる人が。」

赤く染まった顔を拭いこちらを見てくる女性。

「やっとたどり着きましたね、王子。」

チラリと許嫁を見て話を続ける。

「私がなんでこんなことをしたかわかりますか?」

いや、わかるはずない。


なぜ許嫁の母親が? なぜ殺した? 僕と何の関係が?


人魚がもし普通にいたら、と考えていたことがあった。

もし、隣の国にいたら・・・


「気がついた?そう、この女、君の許嫁の母親で隣の国の王妃は人魚なの。私の記憶を見たらわかると思うけど、あの時私を助け、この力を授けたのはこの女、魔女なの。」

「でも、どうして殺すの?」

「私は溺れているところを人魚に救われ、その後交流を持つようになったの。その後何回か交流し、最後に、不老不死と人を生き返らせる能力をもらったの。そして今に至る。」

話を続けた。

「でも、この能力には欠点がある。

1つは若返るために、若い人の血を浴びなければいけないこと。

2つ目は特殊なナイフで刺されれば、死ぬこと。

それだけなの。本来は人間が持ってはいけない能力をもらったの。

私は、人を生き返らせないようにする、と彼女と約束したの。彼女は人魚の掟を破って。でも、私は守らなかった。」

「いつの頃ですか?」

「さあ、もう200年はたつね。

最初の頃は私も約束を守ったのよ。でも、だんだん多くの人を救うようになった。

そしてある時、それが人魚にバレたの。

怒り狂った人魚たちは、私に力を与えた彼女にまず罰を与えた。

人間の体にして、でも声は出ないようにし、歩くとものすごい苦痛がするように。

そして、私を殺すように命じたの。」

海を見下ろす女性。

「彼女は、私が生き返らせた人々を殺していったの。まるで魔女のように・・。

彼女は人間を好意的に思っていたのに。

ただ、数年前にある王と結婚し、口は聞けるようになり、少し優しくなった。

でも、使命は忘れていなかった。私をいつも追いかけ回した。」

「そうか。だから許嫁を見て。」

「あまりにも似てたから・・。」


俺の仮説は正しくなかった。

でも、この世界に転生者はいないのか。


「なんで。なんで。私がこんな目に。」

そうつぶやき、立ち上がる許嫁。

「ど、どうしたの。」

次の瞬間、落ちていたナイフを拾い勢いよく女性に突っ込んでいく。

胸のあたりをよく狙い、刺そうとする。

女性は抵抗することなく、そのナイフを受け入れる。

 

      ブスッッッッ!


鈍く嫌な音が聞こえる。

女性の胸からは大量の血が出て、返り血は、許嫁の金髪を赤くする。


「どうして、どうして。」

「ごめん・・なさい・・ね。私・・のわがま・・・まのせいで。ごめんね・・・ごめんね・・・。わ・たし・・・がやくそく・・をまもって・・いれば・・。」


許嫁を優しく抱きしめ、何度も頭を撫でる。


「ご・・めん・・ね。」

「どうして!どうして!」


許嫁のナイフを握る力が増していく。


「・・・きみ・・だけは・・しっかり・・いき・・・て・・・ね・・」


よろけ、そう言い残し、海へと落ちていった。


どうして、ここで終わる!

俺はまだ何もやっていないというのに。

試練は、試練は何だと言うんだ!!!!!



そこで意識は途切れた。




「はっ!」

目が覚めると小さな小屋のベッドの上にいた。

外はまだ暗く、何も見えず、小さな蝋燭だけが灯っている。

体はところどころ痛く、体はシワだらけ。

次の瞬間、頭に記憶が流れ込んでくる。

今まで見てきたのは、夢だということ。

自分が住んでいる国に伝わる物語なのだと。


自分が ハンス・クリスチャン・アンデルセン であるということ。


いや、実際にはアンデルセンに転生したのだと。


ど、どういうことだ?

・・・まさか、そういうことか。

天を睨み、机に向かい合う。

ペンを持ち、紙を広げ、物語を書いた。


    『人魚姫』


一般の人が読んで楽しめるように、脚色をして。

真実は隠し、未来につなげるために。

自分が知っている物語を。

人魚、王子、魔女、妖精を登場させて。


「終わった。」


外を見ると日は昇り始めていた。

意識がどんどんなくなっていく。


俺の使命は物語を脚色して、本来の、現代人が知っている童話にすること。

今まで経験したあの事件だったりは、全て夢。アンデルセンが王子になった夢だ。

なんで見たのか、なんで童話の世界に転生しなかったのか、よくわからない。

ただ、まさか自分が偽りの物語を書くことになるとは。


腹が立ち、最後にこう書き残した。



     A ligge     A lie


デンマーク語、そして英語で、  「嘘」  と。




ー どうだった?なかなか難関だったでしょ。 ー


 王子になりそうになるし、かと思えばそれが夢だったし・・・。ややこしい。


ー ははは。今回は君でも分からなかったでしょ! ー


 ややこしすぎだよ!俺が書いたやつを俺が読んで、俺が書いて・・・

 結局、誰が最初に書いたんだよ!


ー それは言わないお約束でね〜。 ー


 ちっ!


ー まあまあ。そう怒らず。次も頑張ってね! ー


 次も・・・。はあ〜わかりましたよ。


ー じゃあ次も頑張ってね! ー


平凡な男の旅はまだまだ続く。


                            終




いちおう話は終わりました。が、また続きを書くかもしれません。

今まで読んでいただきありだとうございます。




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