皆既食

七海幾紀

皆既食

「んー」と伸び 眠れた後の気だるさを 思い出させてくれたのは君


  軒先に見慣れた影 「特別」は決めないはずが足早になる



信仰に目覚めて一挙一動に入れあげていく 恋愛の使徒


  仮宿はあくまでも仮 帰るべき里があるから旅立てるもの



引きとめる権利がないと知ってても行かせたくない 深夜のコール


  知らんふり 気ままでいたい 誰しもに恋の才能があるわけじゃない



聞いてなよ 君の無自覚な長所なら キリがないほど俺が言うから


  溺れない主義を曲げても その先を知ってみたい 初恋パワー



真っ青な唇に手を近づけて 確かな息と憂いを握る


  信仰を与えるだけで 捨て方は教えなかった残酷な使徒



ぬくもりがみないように 降り落ちる髪も撫でないブリキの木こり


  冷えきった胸に頬寄せ ふと増えた脈に 烈火の痕跡を知る



「順番が狂わなければ」と悔やむも 狂わなければ知らずにいた火


  順番が狂わなければ むことも織ることもない繭玉のまま



えかけの名もなき花のすぐそばで 枯れて肥やしになれるものなら 


  花も葉も差し出さないで 嵐でも二輪で耐えて 上を向きたい



魂を悪魔に売って買ったのは 君と数える地獄の季節


  軽蔑もとがもわけよう しんとしたその胸の宮 僕にください



頼りなく 契るふたりの証人は 月に食まれたまばゆいだけ


  足もとも不確かな暗い天国を歩いていこう 同じ夢見て

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皆既食 七海幾紀 @20230709

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