あの夜のライト

約田卓也

あの夜のライト

戦争はなかったけれど幸せと呼べただろうかあの頃ぼくら


戦隊の名乗りで覚えた色の名を赤だ青だとなおされた春

 

先生と呼ばせてピアノ弾く教師サルらに芸を教えるように

 

賑やかに給食食べる光景を独裁者ごとく教師は眺む

 

学校に行かないくせにと言うくせに外で遊べと脅された時代


登校を勧める為に今朝も来し良き師を演ずる女優の顔で

 

玄関で時おり教師の見せる笑み車のキーをじゃらじゃらさせて

 

二学期は学校行くと元気に言う良き師になりたい女のために

 

平等を信ずる大人に行かされた小学校は刑務所だった

 

この地球ほしの小学校の教室に座っている僕は宇宙人ごとく

 

刑務所は学校ではなく社会だと悟れど遅し小学五年

 

『スティーヴン•キングのような小説家』強迫的に夢を作った

 

『十匹の猫の悪霊』十歳の誤字と脱字の原稿用紙

  

爆弾の時限スイッチ押すように二十歳までには作家になろう

 

担任の名前の入ったプリントを破り捨てたり卒業前夜

 

窓ガラス割ることもなく卒業す怒りはもっと大事なときに

 

「怖い話してあげようか」と家に来た親でも教師でもない大人

 

人の世に生きてく為の小説をほめてくれたり四月の夜よ

 

二十歳離れた友と語らえば不安も光るドライブの夜道


まだ暗い夢の途中を照らすのはあの夜の友の車のライト

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あの夜のライト 約田卓也 @takuya137954

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