海の旗

尾八原ジュージ

海の旗

 弟はよく海水浴の思い出を話した。浮き輪を借りてスイカ割りをして――と楽しそうだが、僕にも両親にも一切そんな記憶はない。でも「家族みんなで行った」と譲らなかった。

「その海水浴場、砂浜に旗が何本も立ってんの。白地に黒で、太った吊り目のおじさんの顔が描いてあってさ」

「何それ変なの。やっぱ夢じゃん?」

 そう言うと弟はムキになった。

「じゃあ大人になったら、一緒にその浜を探す旅しようぜ」

 と約束をしていたが、弟は十四歳の冬に交通事故で亡くなった。加害者は太った吊り目の中年男で、家族と海に向かう途中だったという。

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海の旗 尾八原ジュージ @zi-yon

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