第3話 進展

 あの日以降、シャークとの交友は着々と深めていった。いや、むしろ深めたどころか彼は冬雪に懐いた。


 訓練の時も、一緒に軽くおしゃべりする時も彼は威嚇などは一切せずにただ命令をしっかりと聞いて行動するだけだった。


 初めて彼と会った後、翔太と勇翔、そしてリュウやヨウにどうだったと言われ、経緯を言うとリュウやロウはとても驚いた。


「マジか! あいつ他の人には結構威嚇していたのに、なんでだ? なんかしたのか??」とヨウ

「本当だよ。本来だったらまた付かなくなるんだろうなぁとは思っていたけど、これは何かが来るな」


 リュウは神妙な顔をしながら言った。


「それは普通に雨だと思って欲しいね」


 勇翔はリュウの発言に静かに突っ込んだ。


「まぁ、この2人人外が言うのであればそれほど珍しいことなんだろうな」


 翔太は2人のことを眺めながら持っていたコーヒーを飲んだ。


 和雄もその話を聞いた時、新菜と同じような驚きの顔をしていた。


 それだけ不思議なんだなと思いながら冬雪はシャークの口を歯磨きした。鋭い歯がズラリと並んでいて少しだけドキッとした。


「舌も長いね。やっぱりこれも人外になってから?」

 

 冬雪はそう言うと頷いた。


「へぇ、やっぱり人外になると体に変化が起こるんだね」


 そんなこと思いながら歯磨きを終え、シャークは口の中に入っている歯磨き粉を左にある流しに吐き出すと、再び水槽の中に入った。


「それじゃあ、特訓をしましょうか」


 冬雪はそう言ってレギュレーターを口に含め、シャークと一緒に水の中に入った。


 水の中は毎日綺麗にしているため、昔家族と旅行で行った沖縄の海でも入っているような感じだった。そして中心辺りまで行くと大きい丸い扉がある。そこから特訓部屋に行けるようになっていた。

 

 特訓が休みの日は別の部屋で遊べるようになっていた。そこにはただ水の中でも遊べるような道具は水の中の壁の中心あたりに四角い箱が置かれている。


 扉を開けてもらうように言い、扉が自動的に開かれた。


 入ると、外の世界と同じような構図になっている水槽。石の山積みと水草、そして数匹の魚が泳いでいる。これで偽造の化け物が次々と出ていき、それをお互いに倒す特訓だった。


 シャークに乗っていいかを言うと、すぐに自分の背中に冬雪を乗せた。そして、持っている銃の玉の数を数えて安心なことを確認すると固い背びれをしっかり掴んでOKの合図を送るため、ポケットの中にあるボタンを押した。


 押すと、すぐに偽物の怪物のロボットが狭ってきた。冬雪が声をかけると、シャークは素早く動き、怪物ロボットを次々と倒していく。冬雪も銃で迫ってくる怪物を命中させた。


(よし。今日も調子がいい)


 と思っていると他のところから来た偽物怪物のロボットが体あたりをし、尾鰭から手を離してしまった。


(まずい! ミスった)


 そう思っていると、シャークはすぐに冬雪の腕を掴んで自分に寄せて残りの偽物怪物ロボットを粉々にした。


「ありがとう。シャーク。助かったよ」


 あまりの速さに冬雪は唖然としてしまったが、すぐに助けてくれたシャークにお礼を言った。


 シャークは冬雪の体を見ると、安堵したのかまた再び自分の背中に乗せた。


 冬雪はしばらくドキドキしながらも、訓練を終えて再び元の場所に戻った。帽子を脱ぎ、一息を付いて先に置いていた水のペットボトルを飲んだ。


「ふぅ。シャークさっきは本当にありがとうね。おかげで変に落ちなくて済んだわ」


 冬雪はシャークの頭を撫でながら褒めた。シャークはその行動に少しだけ顔を伏せた。


(あれ? 嫌だったかな?)


 冬雪はそう思い、撫でる手を止める再び手首を掴んで自分の頭の上にのせた。


「えっ。あっ、撫でられるの好きなの?」


 冬雪はそう言うとうんうんと言う感じで頷いた。その行動に再び胸がキュンとした。


「ふふ、わかった。しばらくは撫でてあげるわ」


 そう言って、昼食が始まるまでシャークの頭を撫で続けた。撫で続けているとシャークは心地がいいのか徐々に眠りかけている。


 昼食を終えると再び部屋に戻ると。


「シャーク。こっちに来て。体を洗うわよ」


 冬雪はそばにあるシャワーを出して声を掛けた。海関係の人外は週に2回は彼を洗わなければならないという主義があった。それは主に海の成分にある寄生虫などを洗う義務があったからだ。


 洗う時は水を使うため水を飲むことをしなくても大丈夫。装備を脱ぎ、ウェストスーツ姿になるとボディソープを泡立て、シャークを座らせると体につけるとゴシゴシと洗う。


(それにしても、すごい傷だなぁ)


 何回見てもどれほどの傷を負っているのかがとても気になってしまう。


(やっぱ何回も見ても気にな、あれ?)


 冬雪は体を洗っていると脇腹の下に見たことがない銃の傷があった。


(洗っていることに夢中で気が付かなかったかな?)

「ねぇ、シャーク。この、脇腹の下にある傷」


 冬雪は言いながら触ろうとすると見たことないほどの怖い顔をしながら腕を強く掴んだ。掴んだせいか爪が肉に食い込まれる感触と痛みが走った。


「いたっ! シャーク! 痛い!」


 冬雪の声を聞いて我を帰ったシャークは腕を離した。腕からは少しだけ血が出ていた。


(いたた。うわぁ、私何か気に触ることしちゃったかな?)


 冬雪はそう思いながら顔を上げると、シャークは水を浴びて水の中に入ろうとした。


「あっ。待って! シャーク。大丈夫。私は大丈夫だから安心して」


 冬雪は必死に言うと、シャークは悲しそうな表情をしていた。自分が酷いことをしたのだと思っているんだろう。


「大丈夫よ。私がむやみに傷に触ろうとしたから本当に気にしないで」


 冬雪は傷口を抑えながら言うと、シャークは近づいて冬雪を優しく抱きしめた。


 冬雪はその行動に優しく背中を摩った。


 数時間後、食堂室に行ったが脇腹の下にある傷口に冬雪は横に座ったリュウとヨウに彼の傷に付いて質問をした。


 言うと、ヨウは「あぁ」と言いながら説明をした。


「あいつ昔、幼い頃テロから両親が庇ってくれたんだけどさ。ショットガンだったけ? 弾が1発だけあいつの脇腹の下に当たっちまったんだよ。その傷を触ったり、見られたりするのが嫌なことを一度だけ聞いたことがあるよー」


 その事を聞いた冬雪は自分がとても悪いことをしてしまったと感じると胸が痛んだ。むしろ先程の行動は彼にとっては過去の記憶が再びフラッシュバックをしてしまったと感じると胸が苦しく感じた。


「でも、資料に関することには傷のことは書かれていなかったんだろ。だったら尚更自分を責めるな」


 翔太は慰めてくれたが、冬雪はどうしても胸の痛みが止まらないでいた。


 その後、シャークは冬雪の腕を見たら落ち込むようになった。冬雪は自分のせいだと何回も言っても彼は落ち込んでいた。


「シャーク。別に私はこの傷ぐらいは慣れっこよ。時々戦闘の時だってミスしてこうゆう傷負うことだってあるんだからさ」


 その言葉にシャークは本当かという顔色をした。


「えぇ。あっ、前やった傷見せようか? あなたも見られたくない傷を見たからさ」


 冬雪はそう言って前を開き自分の首元近くにある傷を見せた。


「ほらここ。少しだけ擦り傷があるでしょ。これ。1ヶ月前だったかな。戦っている時にギリギリね」


 微笑みながら言うと、シャークはその傷口にそっと触れた。


 鋭い爪がゆっくりとなぞられる感触が伝わって思わず体がビクついてしまった。


「うっ。ちょっ、くすぐったいよ!」


 笑いながら言い、シャークはなぞるのをやめるとそばにあるノートに「ごめん」と書くと早々と水の中に入って顔だけを見せた。その様子に冬雪はなんだかキュンとしてしまった。


(なんだろう。この気持ち)


 冬雪はそんなことを思いながら服を整えた。


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