第2話 シャーク
翌日の朝、冬雪はいつもよりも早く起きて身支度を整え、秀雄の所に向かった。向かうと早々と話を済ませてその子が収監されている部屋に向かった。長い廊下を渡ると一つの扉を開けた。
「ここだ」
中に入ると大きい水族館のような水槽が見えた。その周りには研究の白衣を着た人たちが数人いた。
「どうだね。彼の調子は」
秀雄は目の前にいる長い髪を一つに束ねた白衣を着た女性に話しかけた。
「健康自体には問題ないのですが、言葉の発達は今だに進歩はなんですけど、警戒をしています。隣にいる女性は今日からのお世話係の方?」
「あぁ、あっ。冬雪さん。こちらにいる方はここの健康管理などをしている榊原新菜さんだ」
冬雪は自分が潜水士ということも言いながら頭を下げて挨拶をした。新菜は冬雪を見るとニカっと笑った。
「よろしく冬雪さん。初めてだろうから色々と頼ってちょうだいね!」
「あっ、はい。ありがとうございます」
冬雪は頭を下げながらお礼を言った。
「あっ、大将さん。ここからは私が案内をしますから、他の仕事に移っても大丈夫ですよ」
「本当かい。それじゃあ頼むよ。冬雪さん、頑張ってね」
秀雄は肩を軽く3回叩くとその場を去った。
「それでは、部屋に行きますか?」
「えっ! 部屋にですか? 大丈夫なんですか? だって、警戒をしているのでは」
「あぁ、そこは大丈夫ですよ。彼、人は襲わないだけでただ警戒をするだけしだし」
新菜はニコニコとしながらその部屋らしきところに向かった。
冬雪はドキドキしながらも新菜の後を着いて行った。
「ちなみになんだけど、彼、元はシャークって名前じゃないんだ」
突然のことに冬雪は「やっぱり」と言った。
「じゃあ、なぜ」
「彼が死ぬ前に名前を変える契約書に書いたからよ。親族とか親がいない人の中にはそう言った人もいるのよね。それで、あの子メガドロンのDNAを入れているから私が名付け親としてシャークにしたんだ。どう、かっこいいだろ」
新菜はニヤッと微笑んで言った。
エレベーターに乗り、2階に着くとあるのは目の前にある一つの扉のみ。新菜はポケットから鍵を開けた。
「あっ。これは今度から冬雪さんが開けるための鍵よ。後で預けるからね」
新菜はそう言うと扉を開けた。入ると、白い壁と天井と広い浴槽。横にはシャワーとカーテンとシャンプーとリンス、ボディーソープが置かれている。
左の壁には一台の防犯カメラが置かれていた。
「あそこにはこの今、水の中に入っている子のためのやつなの。というかライトがついている時は撮っていて、ついていない時は録画されていない状態。2時間は録画されなくて、2時間経つと再び録画される仕組みよ」
「えっ。それじゃあやばくないですか? 脱走とか」
「あぁ、大丈夫。録画されていない時は厳重に鍵をかけているからさ。それにあの子は怪物以外は襲わないだけなのよ。主に、変に怒らせたら襲うけどね。ちょっと待ってて」
新菜は右に行くと、一台の赤いボタンを押した。
「あなたのお世話係が来たわよー。顔だけでも見してあげなざい!」
新菜はそう声をかけると、聞こえたのか徐々に水面が動き始めた。
その光景にドキドキしながら見ていると、灰色の頭が見えた。それがすぐに髪だということも察した。
そしてついに水面の半分から顔が見えた。
白いところまで真っ黒に染まりながら真ん中の水色の目がこちらを見ている。目の周りには傷が二、三個だけあり、その視線になぜだかドキッとしてしまった。
「シャーク。こっちに来て。新しい世話係さんがいるからさ」
新菜が声をかけると、シャークという人外は少しだけ近づいた。
「えっと、彼ですか?」
「えぇ。彼が今日からあなたの世話係よ。さぁ、冬雪さん」
新菜は冬雪の名前を叫ぶと箱の渡した。突然のことに冬雪は戸惑った。
「あぁ、私は他のことがあるから軽く彼と交友を深めてちょうだいってこと」
「えぇぇ! 私、今さっき会ったばっかりなのに?」
「まぁまぁ。大丈夫大丈夫。彼は人は襲わないだけでただ威嚇をしてくるだけなのよ。それじゃあ、交友を深めてね。あっ、あとこれ遊べる奴色々と入っているからこれでもね」
新菜はにこやかに言うと、箱を渡して部屋を早々と出ていった。冬雪はこの状況にとても戸惑ってしまったが、せっかく大将が任命してくれたことだ。それを早々と拒否してしまったら失礼しかない。
冬雪はゴクリと唾を飲み込むとシャークの方を見た。シャークはずっと水面から半分の顔を覗かせているだけだった。
やはり写真で見た通りの傷跡だ。灰色の髪から覗かれる傷ものの顔にすごい目つきだなと薄々感じてしまっていたが、先に交友を深めるようにしたほうがいいなと思った。
「えっと。まず自己紹介からだね。私は冬雪っていうの。冬と雪と書いてユキって言うんだ。これから貴方の世話係になるからよろしくね。それからすごいね。水を二時間以内に飲むめば地上に出るなんて」
微笑みながら本当のことを言ったがシャークは何も警戒もしていない。ただ見つめているだけ。
冬雪は何かまずいこと言ったかなと思いながら思わず資料を見た。資料に思わず目を通すと水の音が聞こえた。
顔を上げるとシャークが少しだけ近づいたかのように見えた。
「あれ? 君、今近づいた?」
冬雪がそう言うと、シャークは小さく頷いた。冬雪は思わない進捗に何故だか笑みが溢れた。
「わぁ。ちょっと嬉しいわ。ねぇ、ちょっともう少し近づいていいかな?」
思わずそう言ってしまった。自分の発言に急すぎてしまったなと思い、すぐに誤った。
「ごっ、ごめんね。あなた人見知りが激しいことをすっかり忘れてたわ。本当にごめんね」
冬雪はすぐにシャークに謝罪をした。この後どう話そうかと慌てながら考えていると水から這い上がる音が聞こえた。なんだろうと顔を上げるとシャークが水から這い上がっていた。
(えっ! えっ! 人見知り激しいんじゃあない? それにしても本当に背がでかいな)
冬雪はそう思いながらもシャークの身長の大きさにも驚いていた。首にある三つの傷のような線がある。シャークが息をすることに小さく開いたり閉じたりしている。
何をするのだろうかと考えていると、シャークは箱の中に手を入れた。何をする気なんだと思っていると、出したのはノートとペンだった。
何をするんだろうかと思っていると、何か書いてそれを冬雪に見せた。
『おれのかこのことでこわがっていろんなひとが、おれのせわがかりにならない』
人外になってから漢字を忘れたのか全てひらがなで書かれいる。なる人がいないと言うことはきっと資料の内容を見て断る人がいるんだろう。
「何人か、貴方とあったの? 私と会う前に」
質問をするとまた書き始めた。
『あったひともいる。だが、けっきょくはおれのかこをみてかかりになるのをいやがった。たださめとがったいさせたじんがいなだけに、おれがあくまというなをつけられているせいで』
長く書いている彼の目は少しだけ悲しそうに思えた。
冬雪はそれを思っているとシャークは早く書くと、ノートを渡して再び水槽に向かった。
なんだろと思い、ノートを見た。
『けっきょくはおまえもおれをこわがっているんだろ』
その内容を見ている間にシャークは水槽の深い所に行こうとしていた。
「怖くなんてない!!」
冬雪は思わず叫んだ。その声にシャークは水槽の深い所に入るのをやめて振り返った。
冬雪は思わず持っていた資料を見せながら言った。
「貴方は確かにテロの人を無言で逃げられないように骨を折る行動などをして仲間に恐れられた。でも、それをするのは過去の貴方が合ってしまったテロでのことでやってしまっていた。本来ならばそうゆう過激なことは違反になることだけど、でも貴方はテロの人物を一人も殺してなんかいない! だから、怖くなんてないし、むしろ、そんな過去を背負いながらも皆のために動いていることに、尊敬しているよ」
冬雪は自分でもびっくりするぐらいの大声で言った。その後に気がついた途端に体が熱くなることが感じられた。
(やばい。予想以上に声を出してしまった)
冬雪は自分の失態に気がつきながら、シャークを見た。彼は何も言わずただ少しだけ驚いた様子の表情を見せた。
「ごっ、ごめん。シャーク。変に大声を出しちゃて」
冬雪はすぐに謝った。変に怒られるかなと思っているとシャークは水面からおいでと言う感じで手まねきした。
「ん? きてってことかな?」
そう言うと、シャークは頷いた。
冬雪はノートとペンを持ってギリギリのところまで近づいた。
座ると、シャークは何か喋ろうとしたが、うぅという声を発するだけ。
「ん? ちょっと待って。今ノート渡すから」
冬雪はノートとペンを渡すとシャークは書いた。見てみると、「ほんとうか?」と書かれていた。
「えぇ。本当よ。もし殺していたらちょっとだけ怖がっていたけど、たとえ重症な怪我を負わせても貴方は決して人を殺してはいないでしょ。そこがあなたのいいところよ。もしも私だったら、過去のことを思い出して殺しちゃうかもね」
少し笑みを浮かばせながら言うと、冬雪は「さて」と言って箱の中を確認した。箱の中にはパズルとボードゲーム関係がごそっと入っていた。
(結構入ってるわね)
冬雪はそれを一個ずつ出し、何がいいか聞いてみた。
「どれか遊ぶ? それとも、お話しにする?」
冬雪の言葉にシャークは再び水面から上がると冬雪の横に座ってそばにあるゲームを眺めた。だが、すぐにペンでノートに何か書いた。見ると話がしたいだそうだ。
「いいわ。どんな話からしようかなぁ。じゃあ、私から話すね」
そう言ってそのまま冬雪とシャークは何が好きなのか、どんなことが得意なのかや趣味なことなどを色々と話した。
話している間、シャークは先ほどとは違ってとても穏やかな感じになっていることに気が付く。
(少しだけ穏やかになったな)
そんなことを思いながら数時間後。
「おーい。冬雪ちゃーん、どう、シャークとの進捗は」
新菜が笑顔で部屋に入ってきた。2人の光景を見ると驚愕の顔をした。
「えっ! めっちゃ仲良く話しとる。なんで???」
「あぁ、あれ? でもカメラで」
「今動いていないんだ。休憩なんだけど、えっ?」
新菜の驚きの姿にそれほど仲良くなった人がいなかったんだなと心の中で思った。
「マジか。あんたマットサイエンティスト?」
「いや、違いますよ」
冬雪は思わず新菜の言葉にツッコンだ。
「まぁいいや。それじゃあ、そろそろ上がってください。食事の時間帯にはなると思うので。それから貴方、午後に訓練できるようにしたんでしょ」
新菜の言葉に冬雪は腕時計を見た。いつの間にか時刻は昼頃になっていた。
「確かにそうですね。じゃあシャーク。また来るからね」
冬雪は笑顔で手を振り、駆け足でその場を去った。
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