第3話 また
成長期の俺は、美沙よりずっと多く食べてしまった。美味しすぎて全て2人で平らげた。手料理ってのはどれだけ美味いレストランでも敵わない。愛のこもった手料理だった。
「あ〜うまかった!」
「さすが成長期だね。わたしもお腹いっぱい」
「お前はもっと食べた方がいい。痩せてるし」
「ダイエット頑張ってるの。大きなお世話です〜」
「そうですか。無理なダイエットは不健康だぞ」
「そこまでしてませ〜ん」
俺達は1時間程座って話した。それから2人で並んで歩く。俺より小さな美沙と歩幅を合わせる。
「祐也ってさ、彼女いるの?」
「は? いるわけねえだろ」
「わかんないじゃん! 好きな人は?」
「うーんどうだろ。恋なんてした事ないし」
嘘をついた。お前のことが好きだって言いたいけど、言えないだろ。それなら、いないって言った方がいい。
「そっか」
「お前は?」
「え、私?!」
「人に聞いたんだからお前も言わないと可笑しいだろ?」
「確かに。私は彼氏いないけど、気になってる人がいるの」
一瞬足が
は? 嘘だろ。嘘だと言ってくれ……俺の他に誰かとつるんでるとしたら? 頭の中が真っ白になる。俺は、なんて言ったらいいんだ?
「その人はね、口下手で不器用だけど優しいの」
もうやめてくれ……聞きたくない。そんなやつの事なんて考えないでくれ……。俺の前で、他のやつの話をしないでくれ。
「ふーん……」
「なーんて……興味無いよね!」
「なんでそう思うんだよ」
「私の事女として見てないじゃーん」
「は?! 見てるし」
「え?! は、はは、この話やめよ!」
そんなに嫌なのかよ。俺がお前のことを女として見てたら。気持ち悪いか?
その後は恋愛の話に触れることはなく、沈黙が続いた。
「じゃあ……今日はもう帰る?」
「まだ2時だぞ」
「うん……気まずくなっちゃったし」
「気分を変えて映画かカラオケか……ゲーセンでも行くか?」
「そうだね。ありがとう。カラオケ、行きたいな」
「じゃあ行くか。近くにあるだろ」
「そうなの?」
あ。下調べしすぎたかも。急に恥ずかしくなって、そっぽを向く。
「調べててくれたんだね」
「ちょっとだけだし」
「はいはい。じゃあ案内して」
向かう間、美沙は鼻歌を歌っていた。楽しそうなお前の姿に口角が上がる。今、気持ち悪い顔してるよな……そう思って、俺は見えないようにニヤニヤした。
「いらっしゃいませ」
機械に人数を入力して、時間は……
「何時間にする?」
「フリータイム!」
「そんなに歌うのか? 2時間とかでもそっちの方が安くない?」
「確かに。カラオケ好きか?」
「好きだよ! 友達と行ったら大体フリータイム」
「そうか。ならよかった」
ジュースを入れ、部屋に入る。座る場所はもちろん離れて。近くに座るなんて、できない。
「どっちが先に歌う?」
「じゃんけんだな。勝った方が先」
「じゃんっけんっぽん!……勝った! 私が先ね」
「どうぞ」
美沙は歌もうまかった。バラードは美沙の優しい声に合っていた。
「絵も歌もうまいとは」
「へへ。でしょ〜。祐也はどうかな?」
「正直自信ない。下手だと思っておいてくれ」
「そんなそんな〜。まあ聞かせてよ」
俺は1人でしかカラオケに行ったことがないから、上手いか下手かなんて判断できなかった。採点も好きじゃないから、よくわからない。
美沙は俺が歌っている間、手拍子をして横にユラユラ揺れていた。歌い終わると拍手をしてくれた。お前とならカラオケが楽しめる。無反応だと寂しいからな。
「まあまあだね。可もなく不可もなく!」
「辛辣……」
「お世辞なんて言われたくないでしょ?」
「よくわかってらっしゃる」
「私ですから! さあどんどん歌うよ〜!」
美沙はあの気まずい時間が無かったかのように楽しんでいた。2人で色んな歌を歌い、時には2人で一緒に歌ったりして何時間もそこで過ごした。あっという間に時間は過ぎていき、夕方になった。
「あ〜楽しい!」
「俺も」
「このまま夜ご飯もいっちゃう?」
「ありだな。でも予約してない……」
「そんなのいいのいいの〜! 歳上のお姉さんが奢ったげる!」
「いやいや、俺バイト代あるし」
「断らないの! じゃあカラオケ代は任せた」
「まあそれなら……」
「はい決まり!」
「何が食べたいんだ?」
「うーん高いのは舌に合わないからね。男子高校生もそうでしょ? チェーン店とかでいいんじゃない?」
「珍しいな。大人の女性は高ければいいもんだと」
「失礼ね! 私は私。もしかして高い方がよかった?」
「いや、俺も安舌なもんで」
「よかった〜!」
俺達はあの有名イタリアチェーン店で食事を済ませた。デザートまでいただいたのに、とても安かった。庶民の味方。ありがたい。安くていっぱい食べれると、得した気分になる。
「今日はありがとね」
「こちらこそ。楽しかった」
「私も! 次は私が誘うね」
「よろしく」
「じゃあ、またね」
「送ろうか?」
「いや、いい! そういうの要らない」
「冷てえな」
「まだ19時だよ? 1人で帰れる」
「そっか。とにかく帰ったらLINEして」
「うん! じゃあ、またね」「また」
1日ずっと一緒にいられた。幸せだった。アイツに好きな人がいても関係ないくらい、ただ横にいられればいいと思った。この気持ちは胸にしまって、今まで通り接せばいい。
「お疲れ」
「やっほー! 祐也! 一昨日はありがとね」
「こちらこそ。今日の絵は?」
「今日は海をメインに描くよ」
「同じ景色でよく色々描けるな」
「想像力が豊かなので!」
「すげえな」
またいつものワンピース。休日にしか見れない違う姿が、また見たいと思った。次はいつデートできるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます