第2話 初デート

 遂にデートに誘ってしまった。行くってことは、彼氏がいないと思っていいんだよな……? 女とデートなんて初めてで、どうすればいいのか分からない。とりあえず下調べは大事だよな。服も、ちゃんと選んでおこう。



 俺は帰るとすぐピクニックにいい場所を探し、美沙にメッセージを送る。返事が来た! メッセージってこんなに緊張するもんだったか? 『いいね! ここにしよ!』よかった。場所は決まったな。あとは服……出掛けることが少ないから服も少ないな。


 デートに着るべきなのは? 駄目だ。わからん。調べよう。こういう時こそ検索だ。……なるほど。シンプルな方がいいのか。脚長効果? 結構色々載ってるな。


 俺はストリートファッションが好きだから、大抵ダボダボの服だ。シンプルなら、白に……下はベージュとかで行くか。ネックレスとかのアクセサリーは付けないでおこう。チャラいと思われたら終わりだ。帽子は髪が崩れるからやめだ。バッグと靴は黒で行くか。よし、決まった。



 念入りに身体を洗って、早めに寝る。明日が待ち遠しくて、早く朝が来ればいいと思った。こんなに心が浮き立つのはいつぶりだろうか。










 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……

 うるせえ。目覚ましが鳴り響く。いつもより音量を上げたせいか、耳にくる。

 目覚ましを止める。時間は8時。待ち合わせは11時だから、時間はたっぷりある。

 メッセージを開いてみると、美沙からLINEが来ていた。

『おはよ! 楽しみすぎてもう起きた』


 可愛いやつ。俺より早く起きてやがる。美沙はどんな服を着てくるだろうか? いつもワンピースばかり着ているが、他の姿も見てみたい。


『おはよ。俺も今起きた』これでいいか。


 顔を洗って、お風呂に入る。髪を乾かしながらケータイをいじる。ピクニックが楽しみすぎて、何も頭に入ってこなかった。意味もなく動画をひたすらスワイプしていく。

 出るまでの2時間をそわそわしながら過ごした。






ーーーーーーーーーーーーーーーー



 10分前に集合場所に着くと、もう先に美沙が待っていた。

ノースリーブにジーパン。いつもと違うカジュアルな服装。長い黒髪を上でお団子にしている。

 くそ、可愛いじゃねえか。ドキドキと胸が高まる。このまま話しかけずにずっと見ていたいと思った。



 じっとしている俺に気付いてしまい、駆け寄ってきた。


「ちょっと祐也! 気付いてるなら話しかけてよ」

「すまん。その服……似合ってる」

「ふふ、ありがとう。祐也の私服初めて見たけど、カッコイイね! ストリートファッションってやつ?」

「ああ、こういうのばっかだな」

「いいじゃん。似合ってるよ」

「おう。じゃあ行くか」




 近くで見ると、いつもよりキラキラしている目の周りやユラユラ揺れるピアス、ぷるんと潤う唇に目がいってしまった。俺のものにしたいと、いけない感情が押し寄せる。




 手と手が触れ合う。そのまま俺は美沙の手を握った。さほど暑くもないのに、手が汗ばむ。美沙も汗をかいていて、俺だけじゃないのだと安心した。




「結構人少ないね」

「穴場らしいからな」

「だね〜。自然いっぱいって感じ。ここにする? 日陰だし」

「そうするか」

「シート敷くから手伝って」



 大きめのシートに2人で座る。少し距離が空いていて、どこか余所余所しい。


「いつも休みなにしてんの?」

「そうだね〜……たまに友達とご飯行ったりするけど、ほとんど家にいるよ。おばあちゃんがいるから」

「ばあちゃんは病気なのか?」

「違う。ただ、一緒に居たいの。あと何年一緒にいられるか分からないでしょう?」

「そうか。確かにそうだよな」

「祐也は? いつも何してるの?」

「1人でカラオケに行ったり、家でゲームするくらい。あと長期休暇はバイト三昧」

「1人が好きなの?」

「そうだな。楽なんだ。気を遣うのは疲れるしな」

「私と一緒にいる時は? 疲れる?」

「な訳ねーだろ。楽だから一緒にいるんだ」

「ふーん。楽、ね……」



 ああ、やってしまった。言葉ってのは難しいもので、伝えたいことが上手く伝えられなかったりする。俺は特にそう言うのが多いから、もどかしい。


「いや、なんつーか。俺ってさ、学校で自分らしく振る舞えてないっつーか。お前といると自然でいられるってこと」

「そういう事ね! 嬉しいな。私もそうだよ。一緒にいて楽しい」

「そうか。奇遇だな」

「ふふ、そうだね! ……ちょっと早いけど、お弁当持ってきたから食べない?」

「丁度腹減ってたんだ」

「ならよかった。……ジャーン! どう?」




 パカッと開けられた大きなお弁当箱。中身はおにぎりに、タコさんウインナー、唐揚げに、肉団子、ポテトサラダ、ちくわのきゅうり詰め。見てるだけで涎が大量に生成される。



「やば、美味そう。早く食いてぇ」

「ふふ、やったー! はい、お箸」

「さんきゅ。頂きます」「頂きます!」



 誰もが好きな唐揚げを口に放り込む。時間が経ったせいか、カリッとはしなかったが柔らかくて美味しい。醤油ベースの味が最高だ。美沙は料理が上手いのか。いい嫁さんになるだろうな。


「お前天才」

「ふふ、美味しいでしょ! 頑張って作ってきたからね〜」

「ありがとな。これ全部手作り?」

「あー……肉団子だけ市販の」

「そうか。じゃあ卵焼きいただき」



 俺が食べているのをまじまじと見られる。色素の薄い茶色い眼が光に反射して、明るく輝いている。

 卵焼きはだし巻き玉子だった。甘いのも好きだが、やはりこっちの方が美味い。俺の好みを熟知しているかのように、全て俺好みの味だった。



「だし巻きじゃん! 俺が1番好きな味。なんでわかんの?! こえーよ」

「怖くないわ! 大体わかるの〜お姉さんだから」

「関係ねぇだろ!」

「ふふ、いいからもっと食べて」

「お前は俺の母親かよ」



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