2023年、3月、台北

こと野

2023年、3月、台北

これまでに切り落とされた舌たちのことおもい話すはなしことばを


おはじきのひかりのようだ 北門をいちめんに突き刺していた西日は


ずかずかと来た「日本人」の中には初めて椰子を見る人もいただろう


台南のすなはらに耳くっつけて聞いたあれは歌だったの まそさま


椰子の葉がそよいで歌っていたけれどあれは念仏だっただろうか


いまそこでもんどりをうっているうみをお城の床を見るよに見てた


教室で遠い星のこと話すように故郷を話した 彼のロシア


この名前はベトナムに茂る植物のことと彼女の目はみどりの火


単語帳抱える朝は紙という紙が砂風を含んだようで


発音をただされながら幸運にもまだ婚姻もさせられていない


燃やされた本が煉瓦の向こうからこちらを向いてほほ笑む 今も


話すとき背中のほうで光っているこの星座 焼かれた図書館座


文字なんてしらずにしんだころされたやさしいうでがわたしをだいた


殺されてゆきながら歌う歌のこと きっとお城に響いていたの


喋るため天国に舌を連れてきて そしたらずっと楽しいだろう


大学にいけたら彼女はふねにのり故郷の言葉を星と呼ぶだろう


船底に隠れるあいだ握っていた石は火打ちの小石 許してない


涙はお湯のようだった ここから出られなかったひとの沸かした


舌があり私は私の話をする 波打ち際になる 文字が読める


粘土板から顔を上げ見てごらん あれが空港 化学の光

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2023年、3月、台北 こと野 @ye_q_

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