第15話 魔剣

「ちょっと買い物でもしてから帰るか」


 ランフォード領への帰り道。

 ゲドーン領で最も大きな街に、ルカたちは立ち寄っていた。

 

 ランフォード領にはまともな店もないし、山脈に囲まれているせいで行商も来ない。

 大きな買い物は、ここで済ませておこうと寄ったのだ。


「はーい。栄養剤を買って欲しいでーす」

「分かった。分かった。それも買いこんどくよ」


 ルカたちは街を歩きながら、買い物の予定を立てる。


「ただ、俺も武器を見たい。効率のためにも分かれて行動しよう」

「じゃあ、お姉さんは薬屋に行ってくるね」


 ふらふらとルカたちから離れようとするオリビア。

 ルカはツタを引っ張った。


「ひゃん⁉ なにすんのさー」

「一人で動こうとするな。周りを見ろ」


 チラチラと周りからの視線を感じる。

 幻獣であるオリビアを気にしている視線だ。


「なんか、私ってば目立ってる?」

「お前だけは見るからに幻獣だからな」


 小動物と見た目は変わらないルビー。デカい以外は人間と変わらないコハク。

 それに対して、オリビアは葉っぱやツタが生えている。

 見るからに幻獣だ。


「無用な争いに巻き込まれたくなかったら、一人で行動しないことだ」

「はーい」

「オリビアにはコハクを付けてやる。コハク、そのアホを守ってやってくれ」

「かしこまりました」

「アホってひどくなーい?」


 ぶーぶーと不満を垂れるオリビア。

 それを無視して、ルカはヴァローナを見た。


「ヴァローナは俺の武器選びに付き合ってくれ。この辺りで一番デカい武具店に案内して欲しい」

「承知しました」


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ルカたちは大通りに面した武具店に向かった。

 こじんまりした個人経営の店ではない。

 三階建ての大きな建物。デパートなんかのイメージが近いだろう。


「ルカ様、良い武器であれば三階に……」

「いや、一階で良い」


 ルカが向かったのは、店の隅っこ。

 そこには古ぼけた武器が、乱雑に樽に投げ込まれている。

 値札を見ると、投げ売り状態だ。


「ダンジョンから出土した武器ですか?」


 この世界にはダンジョンが存在する。

 ダンジョンとは外から切り離された異空間。

 入り口は洞窟のような形を取ることが多いが、外からは想像がつかないほどに広い。

 

 そして内部には、冒険者が落とした武器などが落ちていることがある。

 冒険者たちは落ちている武器を持ち帰り、こうして店に卸している。


「そんな古ぼけた物を使わなくても……」


 ダンジョンから持ち替えられた武器は、言ってしまえば中古品。

 刃こぼれが酷く。そのままでは使えない。

 ここで売られているのは、安いだけが取り柄の不良品。

 それでも良いという、駆け出し冒険者たちが手に取るような武器である。


「同じダンジョンから出土した武器でも、上ならエンチャントが付いたものが売っていますよ?」


 ダンジョンから出土した武器の中には、『エンチャント』が付いている物がる。

 ダンジョンの高濃度の魔力にさらされ続け、その魔力が刀身に染み込んだ結果。特殊な能力が発現したのだ。

 エンチャントが付いた武器は、ここには売られていない。

 しっかりとメンテナンスされて、上階で売られている。


「まぁ、試してみたいことがあるんだ。ルビー、この武器の中で一番強そうなのを選んでくれ」

「きゅん!」


 ルビーの宝石が輝いた。

 樽に詰め込まれた武器たちが薄っすらと光を帯びる。

 その中で、ひときわ大きく光っている武器があった。


「きゅんきゅん!」

「そうだな。これが良いな」


 ルカは一本の剣を手に取った。なんてこともないショートソード。

 しかし、他と比べて刃こぼれが少ない。

 ヴァローナは不思議そうに剣を見つめた。


「……妙に状態が良いですね?」

「会計が終わったら、詳しく説明してやる」


 ルカはその剣を購入。

 中古品ということで格安で買い取れた。

 剣を持って、ルカたちは人目の付かない路地裏へと入った。

 

「ルビー、この剣に回復魔法だ」

「きゅん!」


 ルビーが剣に回復魔法をかける。

 みるみるうちに、刃こぼれが修復されていった。

 回復魔法が効くのは生物だけ。普通は武器の修復はできない。


「な⁉ これは……もしかして魔剣ですか?」

「そうだ」


 魔剣とは、武器がモンスターと化したものである。

 変化条件は武器が高濃度の魔力にさらされ続け、魔力が刀身に染み込むこと。

 ただし、確実に変化するわけではない。


 魔力が刀身に染み込むことで生まれるのは、エンチャントも同じ。

 そしてエンチャントが発現してしまえば、もう魔剣にはならない。

 

 確率的には魔力が上手く染み込むのが千本に百本

 その百本の内、九十九本はエンチャントが発現してしまう。


 つまり、魔剣が生まれる可能性は千本に一本程度の割合だ。


「しかも……こんなに未熟な状態の魔剣は初めて見ました」


 魔剣とは生きている武器だ。

 使われ続けることで進化していく。

 長年の時を経た魔剣などは、文字通りに国宝とされるほど強くなる。

 しかし、目の前にある剣はただのショートソードだ。


「おそらくは生まれたばかりだからな」

「う、生まれたばかりですか?」

「カーバンクルは秘められた力を引き出すと言われている。ルビーなら魔剣のなりそこないでもあれば、魔剣に進化させれれるんじゃないかと思ったんだ」

「そ、そんなことがあるのですね……」

「思いついたから試してみたら上手くいった。運が良かっただけだ」


 ゲームで似たような事象があったから思いついた方法だ。

 ゲームではイベントで入手できた宝石を使って、一部の武器を魔剣へと強化できた。


「ま、コイツをじっくりと育ててやるか」


 ルカは満足そうにショートソードを見つめると、鞘にしまった。

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悪役貴族に転生したけど、シナリオ無視して最強の幻獣軍団を作りたい~もふもふカーバンクルが才能と記憶を引き出してくれました!~ こがれ @kogare771

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