第14話 不審者には気をつけよう!!

「お前には二度と栄養剤をやらない!!」

「いやー、ごめんごめん。許してよぉー」


 ドライアドの酔いが醒めた後。

 ルカたちは街へと帰ろうと、森を進んでいた。


 ドライアドはツタを伸ばして、ルカの頭をよしよしと撫でてくる。


「ちゃんと君の領地に行って働くから。報酬として栄養剤を頂戴♪」


 ドライアドは、無事にランフォード領へと来てくれることになった。

 農業改革は一歩前進。

 それは良いのだが、この酒乱が酔っぱらったときの被害が心配になる。


「言っとくけど、酔って領民に迷惑をかけるなよ?」

「りょーかーい」


 ドライアドは軽い調子で笑っていた。

 本当に大丈夫なのだろうか?

 ドライアドは軽すぎて、ルカとしては信用しきれない。

 悪い奴じゃないのは確かなのだが。


「本当に分かってるんだろうな……ところでお前に名前はあるのか?」

「うーん? 特にないよ?」

「じゃあ、今後は『オリビア』と呼んで良いか?」

「うんうん。それで良いよぉ」


 ドライアド改めてオリビアだ。

 これもゲームの時に使っていた名前なので、すぐに思いついた。


 そうして、新しい仲間と共に進んでいた時だった。

 前を歩いていたヴァローナが立ち止まる。

 

「ルカ様。お待ちください」

「うん? どうした?」

「貴様!! なぜ姿を現さない!!」


 ヴァローナが叫ぶと、木の影から人が出てきた。

 黒いローブで身を包んでいるため、顔も見えない。


「……悪いな。驚かせるつもりは無かった」


 声からすると男だろう。

 見るからに怪しい姿をしているが、何者だろうか。

 

 ヴァローナは剣を構えた。

 鋭い目つきで男を睨みつける。


「嘘をつくな。息を殺して潜んでいただろう。何が狙いだ?」

「……俺はドライアドを捕まえに来ただけだ」


 男の視線がオリビアに向いた気がした。

 ルカはオリビアへの視線を遮るように立ちふさがる。


 彼女は幻獣だが、キノコたちにやられて体力が回復しきっていない。

 現状で戦わせるのは難しい。

 もしもの時には、ルカたちが守るしかない。


「お前は幻獣狩りか?」


 幻獣狩りとは、各地に出現する幻獣を捕縛する奴らのことだ。捕縛された幻獣は商人に売られて、貴族がペットとして購入する。

 幻獣狩りは犯罪者まがいの者たちも多い。

 ゲームでも敵対的なNPCとして出現していた。この場で戦闘になる可能性もある。


「こいつはもう俺の仲間だ。奪うつもりなら容赦はしない」

「わー。ルカくん、それはお姉さんへの告白かにゃー?」

「違う」

「つれないねぇ」


 ルカが剣を抜くと、男はうろたえたように後ずさった。


「いやいや、勘違いしないでくれ。別に奪い取ろうなんてしない」

「どうして身を隠していた? 隙を見て襲うつもりだったんじゃないか?」

「身を隠して動くのが癖になってるだけだ。本当に敵対の意思はない。見逃してくれ」


 男は両手を上げる。

 たしかに、戦う意思はないようだ。

 ルカはひそひそと声を上げた。


「ヴァローナはどう思う?」

「幻獣狩りは組織だって動く場合が多いです。奴の背後にも何らかの集団があるはず。いたずらに敵を増やすべきでは無いでしょう」

「分かった。たしかに下手に争いを起こす必要は無いな」


 ルカは剣を収める。


「分かった。ここは見逃してやろう。今後は勘違いさせるような行動は慎むんだな」

「あ、ありがとよ」


 男はダッと走り出した。

 あっという間に、木々の向こう側へと消えていった。


 とりあえず脅威は去った。

 ルカは緊張と共に息を吐く。

 その肩に手が乗せられた。振り向くとコハクが居た。


「ルカ様、先ほどのを私にも言って欲しいです」

「先ほどのって?」

「お前は俺のモノだと言って欲しいです」

「……そんなこと言ってないんだが?」


 オリビアのことを、俺の仲間だとは言った。

 俺のモノだとは言ってない。


 しかし、オリビアがニヤニヤしながらツタを伸ばしてきた。

 ルカのあごを撫でようとしてきたので、ぱしりと叩いておく。


「えー? 言ってたよぉ。お姉さんもちゃんと聞いてたけどなぁ」

「言ってねぇよ!! 俺はお前らを一人の仲間として尊重してるから、モノ扱いはしないの!! 俺なりの気遣いなの!!」


 コハクがぽっと顔を赤くして、腰をひねった。


「時には強引なのが良い時もあるのです」

「ま、まぁ、分からなくはない……」

「そうそう、男を見せろぉ?」


 コハクに同意するヴァローナ。

 茶化すオリビア。

 ルカは額に筋を浮かべながら叫んだ。


「お前らの好みは知らねぇよ!!」

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