第13話 酔っ払い

 キノコたちによって築かれた死体の山。

 ルカはそこから倒れていた人型を掘り返した。


 白い肌。体から生えている葉っぱや、絡まっているツタ。

 その特徴はドライアドに一致している。

 間違いないようだ。


「おい、大丈夫か?」

「うぅぅー」

「大丈夫じゃなさそうだな……」


 しかし、ずいぶんと体調が悪そうだ。

 顔は青白く、生えている葉っぱは枯れ葉のように茶色く変色している。


 キノコたちがばらまく毒は、麻痺毒だった。

 ドライアドの体力には影響が無いはず。


 おそらくドライアドはキノコたちの養分にでもされていたのだろう。

 それで異常なほどに繁殖していたのかもしれない。


「ルビー。回復してやれるか?」

「きゅん!」


 ルビーの宝石が輝き、ドライアドが光に包まれる。

 少しだけ顔色が良くなった。


「あ、ありがとー」

「無理して喋るな。今から空気の良い所に連れて行ってやるからな」


 この辺りには、まだ毒煙が残っていて空気が悪い。

 ルカはドライアドを背負うと――。


「ダメだ。俺だと背が足りない……」


 背負って動かそうとしたのだが、背丈が足りなくて引きずってしまう。


「コハク! 手伝ってくれ!」

「かしこまりました」


 ドライアドを動かすのはコハクにやってもらった。

 ルカたちは倒木から離れて、湖に近寄る。

 ドライアドは足湯をするように湖に足を浸けた。


「うわぇぇぇ。生き返るぅぅぅ」


 ドライアドは気が抜けるように声を出した。

 風呂に入るときのおっさんを美少女化したら、こんな感じだろう。


「体調はマシになったか?」

「いやぁ。助かったよぉー」


 ドライアドは気だるい目でルカを見た。

 かすかな微笑みを浮かべている。

 なんとなく、掴みどころのないお姉さんのような雰囲気だ。


「キノコの奴ら、栄養が豊富な倒木の下を占拠しちゃってさぁ。ちょっと追っ払ってやろうとしたら、返り討ちにされちゃってぇ」


 ドライアドはえへへと笑っている。

 危うく死にかけただろうに、なんとも能天気である。


「君たちが通りすがってくれて助かったよぉ」

「いや、通りすがりではないな」

「んー? どういうこと?」

「俺はお前を探しに来たんだ」


 ルカは事情を説明した。

 ルカが納めている領地の土地がやせ細っており、それを改善するためにドライアドの力を借りたいことを。

 聞き終わったドライアドは、困ったように首を傾けた。


「うーん。どうしようかなぁ。私はこの場所が気にいってるんだよねぇ」

「来てくれるなら礼をする。これでどうだ?」


 ルカはバックの中から酒瓶を取り出した。

 しかし、中に入っているのは酒じゃない。


「うーん? なにこれ?」

「栄養剤だ」


 ゲームでは幻獣にプレゼントをすることで仲間に出来た。

 しかし、幻獣によって有効なプレゼントの種類は違っている。


 ドライアドの場合は、花や果物なんかの植物系。

 あるいは肥料や植物用栄養剤が効果的だ。

 その経験に基づいて、栄養剤を持参したのだが。


「栄養剤かぁ!!」

「おぉ、食いつきが良いな……」


 ドライアドののんびりした態度は一変。

 動向を開いて迫って来た。


「前に旅人が落としたのを貰ったことがあるんだよねぇ……貰って良いの?」

「ああ、ぜひ受け取ってくれ」


 ドライアドは栄養剤を受け取る。

 きゅぽん!

 コルクを抜くと――ぐびぐびと飲み始めた。


「え、それって飲むのか!?」


 ゲームでは受け取った栄養剤をどうするという描写は無かった。

 ルカもドライアドが直飲みするとは思わなかった。


「ぷはぁぁぁぁぁ!!」


 ドライアドは仕事終わりのビールを飲んだように息を吐いた。

 満足そうだ。


「らははは!! 君は話が分かるねぇ!! わざわざ手土産を持ってきてくれるなんて!! お姉さん、君のこと気に入ったよ!!」


 バシバシ!!

 ドライアドは上機嫌にルカの背中を叩く。

 さっきまでのダウナーな感じが嘘のようだ。

 これではまるで――。


「なんだこの酔っ払い……⁉」

「えぇ、おっぱい⁉ 私のおっぱいが揉みたいのか? このむっつりめぇ!!」

「言ってない!? そんなこと全然言ってない!!」


 ルカはシュルシュルとツタを巻かれる。

 ひょいと持ち上げられると、ドライアドの胸元に抱かれた。

 ふよふよと柔らかい物が顔に当たる。


「どうだぁ!? これで満足かぁ⁉」

「バカ野郎⁉ 正気に戻れ!! おい、追加で栄養剤を飲むな!!」

「らははは!! テンション上がって来たぁぁぁ!!」

「上げるなバカ!!」


 その様子を、コハクとヴァローナは困惑した目で眺めていた。


「これは、助けたほうが良いのだろうか?」

「しかしドライアドにへそを曲げられると、連れて帰るのが難しくなります。ルカ様もそう考えて耐えているのではないでしょうか?」

「……パニックになっているだけのようにも見えるが?」


 ドライアドの酔いが醒めるまで、約一時間かかった。


「君はチューしたことある? お姉さんと初めてのチューしようか!!」

「いいから放せ!! バカ、顔を近づけるな⁉」

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