第12話 キノコ狩り

 天を貫くように伸びる木々。

 そこから伸びる太い根っこによって、地面はうねる。


「なかなか歩きづらいな……」

「抱っこしましょうか?」

「いらない!!」


 コハクの提案をルカは突っぱねる。

 ただでさえ、幻獣をぺろぺろしていると誤解されたのだ。

 あまり甘えすぎていると、不本意な噂が流れそうだ。


「きゅーん?」

「俺もルビーみたいに可愛かったら、楽できたけどなぁ」


 ちなみに、ルビーはルカの頭の上。

 きょとんとしている姿が可愛らしい。


 ルカたちは森林地帯にやって来ていた。

 目指すはナイフぺろぺろ男の言っていた湖。

 そこにドライアドが出現しやすいはずだ。


 歩きづらそうにしているルカやコハク。

 それに対して、ヴァローナはひょいひょいと軽い歩調だ。

 冒険者をしていただけあって、悪路には慣れているのだろう。


「……無事にドライアドは見つかるでしょうか?」

「分からんな。ただ、ドライアドは特定の地に居付くことが多い。会える可能性は低くないはずだ」


 馬車も合わせて、そこそこ遠くまで来たのだ。

 無駄足は踏みたくない。

 なんとか勧誘して見せると、ルカはやる気に満ちていた。


 ルカたちはずんずんと森を進んで行く。

 やがて開けた場所に出た。


「ここが例の湖か……」


 そこは巨大な湖。

 向こう岸はずっと遠い。

 ビルほどの巨木が小指サイズに見える。


 大きな湖を見て。コハクは眉を寄せる。


「これだけ広いと周辺を歩くだけでも大変ですね」

「まぁ、とりあえず歩き回ってみるしかないな」


 骨は折れるが、現状では湖周辺と言うことしか手がかりが無い。

 しらみつぶしに歩き回るしか――。


「いや、待てよ。毒キノコのモンスターが出現するとか言ってたな……」


 ペロ男の言っていたことだ。

 対策のために、毒を治療するポーションも買ってきた。


「なら、毒キノコが出現しそうな場所を見つけられれば……ルビー俺の視力を強化してくれ」

「きゅん!」


 ルビーが鳴くと、額の宝石が光る。

 それに合わせてルカの視界がグッと鮮明になる。


「キノコ系のモンスターは湿気が多い場所。あるいは倒木なんかがある場所に出現しやすいはず……あそこが怪しいな」


 巨木が横たわり、大きな切り株が佇んでいるのが見える。


「よし、あそこに行ってみよう」


 倒れた巨木に近づくと、心なしか空気がジメっとしていた。

 

「うぇ。木の下にキノコがウヨウヨしてるな……」


 虫の背中に大きなキノコが生えたようなモンスター。

 それが倒れた巨木の下で、うごめいていた。


 ルカは幻獣よりは劣るが、虫も好きだ。

 しかし大量に集まっているのを見ると、肌がぞわぞわする。

 あまり関わりたくはない。


「場所はこの辺りで合ってそうだし、ドライアドの出現を待つか……」

「いえ、その必要は無さそうです」


 ヴァローナが鋭い目つきでキノコたちを睨んでいた。

 その目線を追って見ると。


「あそこに倒れてるの……ドライアドか⁉」


 うごめくキノコたちの下に、白い肌が見えた。

 人型の何かが倒れている。

 色は悪くなっているが、頭のあたりからは葉っぱも生えている。

 ドライアドの特徴と一致している。


「すぐに救い出します」

「いや、ここは俺に任せてくれ。腕試しがしたい」


 ルカは飛び出そうとしたヴァローナを止めると、腰の剣を抜いた。


「しかし、ルカ様だけではあの数は……」

「心配するな。一人じゃない」


 ルカは剣術を習い始めたとはいえ、まだ未熟。

 あの大群を相手にするのは難しい。

 しかし、ルカは一人で挑むつもりじゃない。 


 ルカは頭の上のルビーをぽんぽんと撫でた。


「行けるな?」

「きゅん!」


 ルカはダッと走り出す。

 それに合わせて、ルビーの宝石が輝いた。

 共鳴するようにルカの体が光ると、走る速度が上がる。


「そのまま毒耐性も付与してくれ!」

「きゅん!!」


 カーバンクルであるルビーのサポート。

 それがあれば、ルカは何倍にも強くなる。


 ズバン!!

 一太刀でキノコを切り裂く。

 それを見て慌てたキノコは、紫色の煙を吐き出したが。


「残念。ルビーのおかげでただの煙幕だ」


 キノコたちによって不運だったのは、ルカにルビーが付いていたこと。

 ルビーによってルカは毒耐性を付与されている。

 キノコたちの毒は全く効いていない。


 ズバン!! ズバン!! ズバン!!

 次々と切り裂かれるキノコたち。 

 うごめいていたキノコたちは順調に数を減らしていく。


「キシャー!!」


 毒煙に隠れて、上手くルカの背後を取ったキノコ。

 毒が効かないならばと、虫のような足を振り上げて襲い掛かるが。


「きゅーん!」


 バキン!!

 その足はルカに届かない。

 ルカの周りに貼られてた透明な壁に阻まれる。

 ルビーによる障壁魔法だ。


「これで終わりだ!」


 最後の一匹も切り裂くと、あとに残されたのはキノコたちの死体の山。

 ルカとルビーに怪我は無し。

 完全勝利だった。


「ナイスサポートだったぞ」

「きゅーん!」


 頭の上のルビーと、ルカは勝利を分かち合った。

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