第11話 幻獣ぺろぺろ同好会

 ヴァローナがサッとルカの前に出た。

 ナイフぺろぺろ男から守るようなポジションだ。

 ルカはヴァローナの影から、ナイフぺろぺろ男――ぺろ男に声をかける。


「そうだが、貴様らは何か情報を持っているのか?」

「ちょっと待てよ。その前に俺たちにも自己紹介をさせてくれ」


 ぺろ男の後ろには、大柄な男と小柄な男。

 三人が並ぶと、丁度いい階段が作れそうな組み合わせだ。


 ぺろ男が、空中にナイフを投げる。

 それをくるりとキャッチすると決めポーズ。

 後ろの二人もそれに合わせてポーズを取った。


「俺たちは『幻獣ぺろぺろ同好会』!! 略して幻ぺろ会だ!!」

「いや、お前が舐めてるのはナイフなんだが⁉」


 ルカの突っ込みが炸裂。

 しかしぺろ男は、気にすることもなくナイフをぺろぺろ。


「くくく。俺は溢れるぺろぺろ魂が抑えられなくてな……つい、ナイフをぺろぺろしちまうんだ」

「ナイフで抑えられるなら、幻獣じゃなくても良いだろ……」

「そうはいかねぇよ。やっぱ幻獣が最高なんだ。あの舌触りが忘れられねぇんだよ。ケヒヒヒ……」


 なんか、ヤバい薬でもやってるだろコイツ。


 ぺろ男はコハクをちらりと見る。

 コハクは『ヒッ』と小さな悲鳴を上げていた。

 どうやら、コハクが幻獣だと気づいているようだ。


「あー、家のメイドを変な目で見ないでくれるか? 怯えてるから……」

「ぐひゃひゃ。すまねぇな。幻獣を見ると、ついぺろぺろした時の感触を想像しちまってよ」


 こいつ、さっきから笑い方安定しないな。

 ただでさえキャラが渋滞してるんだから、一個にまとめろよ……。


「同意なくぺろぺろはしねぇから安心しな。強引なぺろぺろはペロリストのプライドが許さねぇ」

「なんだよペロリストって……」

「ここここ。知らねぇフリするなよ。アンタもペロリストなんだろ」

「違うんだが!!!?」


 周りの冒険者から、ルカに冷たい視線が向けれる。

 こんなのと同族扱いされたくない……!!


「もうお前らのことは分かったから、早く本題に入ってくれ!! ドライアドのことを教えてくれるのか!?」

「ああ、同じペロリストのよしみで教えてやるよ」

「だから同じじゃねぇよ!!」


 同類には見られたくない。

 見られたくはないが、情報を教えてくれるなら仕方がない。

 早く話して、どこかに行って欲しい。


「ドライアドは森林地帯南西のデカい湖のあたりによく出現する。だが、ドコかの馬鹿がやらかしたのか、人を警戒しているみたいだ。接触するなら何か手土産を持って行った方が良いぜ」


 ペロ男は舌を休ませるように、ナイフをひと舐め。

 ……いや、ナイフ舐めても休ませたことにはならんか。なんで舐めたんだ。


「それと、あの辺には毒をばらまくキノコのモンスターが生息している。しっかりと対策をしておくことだな」

「……ふざけた奴なのに情報がしっかりしてるのがムカつくんだが」

「おいおい、ペロリストを舐めちゃいけないぜ?」

「ドヤ顔止めろ」


 ともかく、ペロ男のおかげでドライアドの情報が手に入った。

 本人の人格はともかく、良い情報をくれたのだから報酬は弾んでやるべきだろう。

 ルカは懐から金を取り出そうとしたのだが。


「ああ、報酬はいらねぇぜ。あくまでもペロリスト仲間を助けてやっただけだ」

「仲間じゃないから報酬を支払わせてくれ!」

「俺の報酬は、そのカーバンクルのおやつ代にでもするんだな」

「仲間じゃないから、報酬を受け取れ!! 他の冒険者から変な目で見られるだろ!!」

「じゃあな」

「話を聞けよ⁉」


 ペロ男たち幻ぺろ会は、冒険者ギルドを去っていく。

 残されたルカに、周囲の冷たい目線が突き刺さった。

 完全にアイツらの仲間扱いである。


 コハクは顔を赤くしながら、ソッとルカに寄り添った。


「あの、宿ででしたらいくらでも……」

「ぺろぺろはしねぇよ⁉」

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