第10話 ナイフぺろぺろ

 ガタンガタン。

 ルカたちは馬車に揺られていた。


 向かっている先は、ランフォード領隣のゲドーン領。

 そこにある、大きな森林地帯でドライアドが目撃されたらしい。

 そのドライアドをランフォード家に迎えるため、ルカたちは現地に向かっていた。


(なんか、気まずいな……)


 にこにこと笑みを浮かべたヴァローナ。その膝の上にルカは座っていた。

 ルカの膝の上には、さらにルビーが乗っている。

 そんあヴァローナのことを、対面の座席からコハクが睨みつけていた。

 

 その状況はまるで火薬庫。

 僅かでも火花が散れば、爆発四散しそうな緊張感が漂っていた。


「いかがですかルカ様。私の座り心地は?」

「あぁ、うん」


 柔らかい太もも。背中にも二つのクッションが当たっている。

 座り心地は悪くない。

 だが、こんなに微妙な空気になるなら、普通の椅子に座りたかった。


(ルビーだけが俺の癒しだよ……)

「きゅーん?」


 膝の上のルビーを撫でる。

 『どうした?』とルビーは顔を上げていた。


「ヴァローナ様。本来であればそう言った業務は、メイドである私の仕事のはずです」

(いや、そんな仕事は頼んでないんだが……)

「なに、たまにはコハクも休みたいだろうと思ってな。今日くらいはルカ様のことを私に任せると良い」


 びりびりと、二人の間に火花が散る。


(わー、お外キレイ)

「きゅーん……」


 気まずい雰囲気に耐えられず、ルカは外を眺めて過ごした。


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 その後、ルカたちは途中の宿で一泊。

 次の日のお昼過ぎに、森林地帯に近い街へと着いた。


 馬車や馬は宿に預け、ルカたちは街を歩いていた。


(うーん。やっぱりファンタジーって感じの街は良いなぁ)


 中世ヨーロッパ風。

 なんて表現されるような街並みだ。

 もっとも、実際の中世ヨーロッパの街並みなどルカは知らないのだが。

 あくまでもイメージである


「ランフォード領にも街を作りたいな」


 ランフォード領は限界集落も真っ青のド田舎だ。

 本当に小さな村が点在しているだけである。

 自分の領が貧相なのは嫌なので、しっかりとした街も作りたい。


「そのためにも、ドライアドを迎えなければなりませんね」


 コハクの言う通りだ。

 まずはドライアドを迎え入れて、食糧問題を解決しなければならない。

 食べ物が無ければ人も幻獣も生きていけないのだから。


「まずはドライアドの情報が欲しいな。森林地帯に居ると言っても範囲が広すぎる」

「それならば、冒険者ギルドに向かうと良いでしょう。あそこならば情報が集まりやすいはずです」


 ヴァローナが進言してきた。

 たしかに、ゲームでも情報収集と言えばギルドだった。

 ルカはうなずく。


「そうだな。ヴァローナ、案内してくれるか?」

「承知しました」


 そうして一行は冒険者ギルドへと向かった。

 他よりも一回り大きな建物。その建物こそが冒険者ギルドだ。

 両開きの扉を開くと、中にはいかつい男たちがうろついていた。

 荒くれ者たちの巣窟だ。


(うわぁ、居づらいなぁ……)


 冒険者たちは、場違いなルカを部外者とみなしたのだろう。

 鋭い目つきでギロギロと睨む。

 しかし、後からヴァローナが入ってくるとサッと目をそらした。


「ヴァローナは有名人なのか?」

「私はA級冒険者の称号を所持していますから、知っている者は多いでしょう」

「A級か、凄いな!」


 ルカが褒めると、ヴァローナは照れたように微笑んでいた。


 ルカが褒めたのはお世辞ではない。

 ゲームでもA級冒険者と言えば、実力者の称号だった。


「まずはカウンターに向かいましょう。そこからドライアドに関する情報提供の依頼が出せます」

「なるほど、依頼の形で冒険者たちに情報提供を求めるのか」

「ええ、依頼料は酒を一杯買える程度で大丈夫でしょう。有益な情報にはさらに追加報酬を払うとしましょう」

「分かった」


 ヴァローナを先頭にして、ルカたちはギルドのカウンターに向かった。

 キレイな受付嬢が、ニコニコと笑みを浮かべている。


(……いや、ちょっと目の下に隈があるな)


 意外と激務なのかもしれない。

 冒険者なんて話を聞かない人間も多そうだ。

 ルカは心の中で接客業をしている人々に感謝の念を送った。


 その後は、ヴァローナが依頼を発注してくれた。

 依頼の書かれた紙が、ギルドの掲示板に張り出されると――。


「ひゃっはー!! アンタ等、ドライアドの情報が知りたいんだってなぁ!?」


 ナイフをぺろぺろしている男が、上機嫌に話しかけてきた。 

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