幼馴染
昼休み以降、みちるとは会うことがなく下校時間となった。一人で下校を済まして軽く勉強をしていると外から小さく俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
俺はベランダから外を見てみるが、そこには誰もいない。
気のせいだったのか?
確かに聞こえた気がするのだが。
もう一度、シャーペンを握るが勉強に対するモチベーションが失われてしまった。一度ベッドに腰かけて休憩を行っているとリビングから来客を知らせるインターホンの音が鳴っていた。
俺は立ち上がり玄関へ向かった。
扉を開くと、そこには巡さんが立っており神妙な面持ちだった。
「とりあえず、中に入るか?」
何の用事なのかも分からなかったため俺は家に招き入れることにした。
「あ、うん」
「それで、どうしたのか?」
「い、いや、そんな大したことじゃないの」
話している間にリビングに着いたため椅子に座ることを勧めると、巡さんはロングスカートを前に落としてから座った。
俺が出したお茶を一口飲んでから口を開いた。
「聞きたいことがあって来たの。今日、二組に転校生が来たのは知っているはずだけど君は彼女と知り合いなの?」
「ああ、知り合いだけど」
俺はなぜそんな事を聞いてきたのか気になるがまた巡さんは言葉を発しようとしていたため待つことにする。
「私は彼女の幼馴染なの」
「みちるの幼馴染?」
「うん。家が近くで幼いころから一緒に遊んだりしていて、仲が良かったと思う」
「それがどうしたんだ?」
「みちるちゃんが変わった理由を知らない?」
「おかしく? あいつは俺と出会った頃からみちるだったけど」
「みちるちゃんはもっと大人しい子だったの。何をするにも私の後ろを着いてきて、可愛い子だった。でも今のみちるちゃんはその面影すら見えない。別に悪く言っているわけじゃなくて何があってあの子が変わったのか知りたいの」
早口で言われたが活舌の良さからすんなりと頭の中に入ってきた。そう変わったと言われても元々あんな感じだったからな。
変化なんて感じたことがない。
「その様子だと知らないみたいだね。そうだ、あのハンカチ、もしかするとみちるちゃんから貰ったもの?」
「うん。俺の誕生日の日に貰ったはず」
「みちるちゃんらしいものをあげたと思う」
みちるはこういう色の可愛らしいハンカチが好きなのだろうか。俺の勝手なイメージだともっと控え目な色のハンカチを渡してきそうなのだが。
「みちるが可愛かった……か、にわかに信じられないな」
言葉遣いは男っぽいし、身長も高く、どちらかと言うとかっこいいタイプだと思う。
まぁでも、幼馴染の巡さんが言うのであればそうなのだろう。
「……裏切られた」
「え?」
俺のつぶやきに巡さんは反応を示した。
親友に裏切られた、みちるはそんなことを言っていたような気がする。
「みちるはそう言っていたが何か心当たりはある?」
「分からない」
親友というのが誰かは知らないが裏切られたなんてそうそう言わないだろう。でも嘘をつく理由は見当たらないし。
少し混乱してくる。
「これって考える必要あるのか? 変わった理由なんて色々あるじゃん。裏切られたにしても、そうでないにしても。幼馴染が変わって気になるのは分かるが、それを俺に相談したところでだよ。本人に直接聞いた方が効率的だと思う」
「そうだよね。でも、みちるちゃん、私と話してくれるかな」
どういう意味だろうか。
「俺も聞いておくから」
「うん。ありがとう」
二人の間には何かありそうだ。当人たちで解決してほしいが俺も無関係というわけでもなさそう。なにより巡さんに期待が混じった視線を向けられているため応えてあげたい。
「どうする? もう帰るか」
「まだ居てもいいの?」
「どちらでも」
「家に帰っても一人だしここに居る」
「その方がいいかもしれないな。また雨だ。しかもかなり強い」
窓から外を見ると風で雨が吹き荒れている。梅雨だとは言え、少しは勘弁してほしいものだ。
好奇心で、窓を開けてみると、雨水が中に入ってきてしまい、服が濡れてしまった。
後からくすっと笑う声が聞こえたため振り返る。
「何やっているの」
「強いのはわかっていたけど気になって」
窓を閉めようとした、空がピカっと白色に光った。
その数秒後にごろごろと低い音が鳴り響く。
「雷だね」
「そうみたいだな」
その後も何回か雷は鳴って気づいたことがある。近づいてきているみたいだ。
スマホでお天気アプリを眺めているとかなりまぶしい光が窓の外から差し込んでくる。その瞬間、部屋の電気は消えスマホのディスプレイの光だけが俺の目に映っていた。
「停電……か」
停電なんて、久しぶりな気がする。ここ数年はそんなことなかった。
俺はスマホのライトをつけ、玄関にあるブレーカーに向かう。
「暗いのはいや」
巡さんがそう呟いた。果たして俺に言ったのだろうか。
「ちょっとブレーカー上げてくる。スマホのライトをつけるといいよ」
「忘れたから、スマホ持っていない」
外から明かりが差し込んでいるため、前が見えないほど真っ暗というわけでは無い。
「これ持っておいて」
少し怯え、震えているように見えたので、俺は自分のスマホを巡さんの手に、握らせ、ブレーカーへと向かった。
ブレーカーを何度か上げ下げしたが付かない。
いちど、巡さんのもとに戻った。
「つかないの?」
「うん。一旦スマホ返してもらっていい?」
「あ、うん。いいよ」
スマホを返してもらい母に電話をかける。
電話に出て今の状況話したが、大丈夫大丈夫、そのうち付くわ。と気休めの心配しかしてくれなかった。何なら笑っていたような気もする。
「電話を切る前に忠告よ。暗いからって巡さんの体触っちゃっだめだからね」
俺は実の母親にそんなことをする人間だと思われているのか。
心外、そんなことを思っているうちにスマホには着信終了と出ていた。
この天気の中、巡さんは帰れそうにない。、 どうやら電気がつくまでの間、俺は巡さんと二人っきりらしい。
俺の家の近くを散歩するクラスメイトが凄くかわいい話。 雲川ちらちら @Ran1125
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