色に溺れて僕になる

@totomaru08

色に溺れて…

ゆらゆら、ゆらゆら…

目の前に映る僕は、無色透明に揺れている。まるで海月のように、自分の意思を持たずに。

今の僕では何かが足りない。そうだ、かがみに色を入れよう。みどり、あお、きいろ…今日はどれにしようか。

今日はしろ。顔を覗いてみても、身体を浸かってみても、そこには何色にも染まらない、まっしろな世界が広がっていた。最初のうちは温かくて、すごく気持ちいい。辺りには仄かに甘く、優しい香りが漂う。ムスクの香りみたい。ずっとこのままでいれたら、そんな気持ちになってしまう。それでも、時間が経つにつれて、頭がクラクラし、意識が遠のいていく。この中に浸かりすぎると、気づけば目の前が真っ暗になる、自分を見失う、

_____それでも目を覚ました時には、目の前に君がいる。

ほら、いつもそうやってウサギのように赤くなった瞳を細めながら、頬を緩める。

「おかえり」

君はそうやって、あのかがみの中から僕を救ってくれる。ああ、またいつもの僕に戻ってしまったのか。それでも、君がそうやって無色透明の僕を抱きしめてくれるなら…無色透明の僕を認めてくれるなら…


あの日、目まぐるしい程のいろの中で、君は見知らぬ女の人と一緒にいた。滑らかで直線的な白い脚を大胆に覗かせ、腰まで伸ばした金色の髪を靡かせる彼女は、まるで僕とは大違いだ。僕は君のことを何も知らない。ああ、君はそんな顔をして笑えたのか。気づけば、君を困らせてばかりだった。不安にさせたばかりだった。そうやって奪えた君の心を愛だと思っていた。そして、気づけば君は僕の前からいなくなっていた。 


ねえ、どうしたら戻ってきてくれるの…?


僕は、お風呂場にお湯を溜めた。時間が経つごとに近づいてくる、歪んだ僕。結局、僕は何も変わらない。頭が悪いから。それが僕だから。

無色透明のかがみに、そっと足を入れる。久しぶりだった。無色透明でも、ちゃんと温かかった。気持ちよかった。そのままでも良かったのだ。

 それでも、無色の僕を君は助けてはくれない。僕の柔らかくなった肌にそっと、冷たく尖ったものを押し当てた。

 今日は、あかいろ。このまま僕はあかに浸かり続ける。






君が僕を救ってくれる、その時まで_____

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色に溺れて僕になる @totomaru08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る