第6話 前世の相棒/最強の魔剣

 俺はカルマ・イーグルの攻撃からナギを守るために彼女を抱き抱え、その場から走り出した。


 相手がどれだけの実力を持っているかは未知数だ。もし目にも止まらぬ速さで攻撃しようものなら、見てから回避するのは難しい。


 だから常に動く。イーグルの姿だけは目視できるようには木々が入り組んでいない場所を選びながらジーク・フォレストの出口の方へと向かう。


 イーグルは上空から俺たちのことを追ってきてはいるが、警戒しているのか中々攻撃に移ってこない。


 それならそれで好都合だ。火事を心配していた身からすれば嬉しい誤算ではある。


「ナギ、宝箱を探してくれないか?俺におぶられてる間は暇だろ?」


「こんな速さで動いてる中で探せなんて無茶ぶりですよ!ただでさえ配信でおんぶされてるところ晒されて恥ずかしいのに!」


「そうやって怒ってるナギを見て、視聴者も喜んでるぞ?」

 

『ナギちゃんかわいい!』


『怒ってる姿も様になる』


『なんでユーリさんは2層のモンスターに追われてるのにそんな冷静なんだ…?』


 コメントからは好評の声を頂いている。ナギの人気が増えれば、俺のチャンネルに登録する人間も増える。


 今回はドグマに挑戦ということで完全にお荷物になっているナギだが、ダンジョン内で彼女が活躍している姿を見せれば、更に人気は高くなるだろう。


 ドグマの次は難易度低めのダンジョンでナギにスポットを当てる配信をしてもいいなと思った。


「なんだあの色は?」


 あれこれ考えながら走っていると、視界の端に赤黒金の煌びやかな装飾が成された豪華な宝箱を見つけた。


 しかし、ジーク・フォレストに登場する宝箱は白銀の装飾がされているはずだが、なぜこんな特殊な宝箱が現れたのだろうか。


「あんな色の宝箱は見たことない…」


 ナギが驚嘆の声を漏らすと同時に、配信コメントたちがざわつき始めた。


『今までに見たことない宝箱!』


『最前線の探索者たちの動画でもこんな宝箱は見たことない』


『はよ開けてくれ!中身気になる!』


 確かに、俺も参考にするために有名な配信者たちの動画を漁ってきたが、動画内でこんな宝箱は見たことない。


 だが、この宝箱の色合いを見て、前世の自分が使っていた魔剣のことを思い出した。


 赤と黒を基調としたデザインの中に金色の線が入っている唯一無二にして俺の愛剣、アヴァロン・デューク。


 それを彷彿とさせる宝箱に「まさかな…」と思いながらも近づいた。


 すると宝箱から魔力が溢れ出し、俺の体に馴染むようにして入り込んでいった。


 俺が直接開けるまでもなく宝箱は勝手に開いた。


 そして、中にあったのはーーーーー


「まさかまたお前と出会うことになるとはな…」


「この圧倒的な存在感…!レアリティは間違いなくレジェンドに分類されますよ!」


 ナギが興奮気味に語ったと同時に、俺は魔剣を手に取った。前世で何千、何万と握ってきた愛剣なので、非常に手に馴染む。


 なぜ前世で使っていた魔剣が突如現れたのかは知らないが、こんな状況だし使わない手はないだろう。


 アヴァロン・デュークに近づいたと同時に体の中に魔力が入り込んだ。


 こちらが承認をしていないのに勝手に契約したことになっているのは癪だがまあいい。


 存分に使わせてもらうとしよう。


「下がってろ、ナギ」


 ナギを背にして、魔剣に魔力を貯める。前世で死んで、魔力というものを無くして18年もの年月が経過しているというのに、意外と魔力を操る感覚を覚えている。


 俺の体から魔剣に注がれる魔力は赤黒く変化し、禍々しくうごめく。カルマ・イーグルが霞んで見えるほどのそのドス黒さを見て、ナギが後ろで息を呑んだのを感じた。


 カルマ・イーグルも、ただ事ではないと肌で感じたのか背中を見せて逃げ出した。


「もう遅い。カラミティ・ノヴァ」


 そう唱えると同時に、俺はその魔力を斬擊波に変えてカルマ・イーグルに向けて放った。


 斬擊波はカルマ・イーグルの逃げるスピードすらも超過し、命中すると同時にその体を一瞬にして灰に変えてしまった。


「魔力の加減を見違えたか…それにしても、破壊力がありすぎだな?」


 そのあまりの威力にナギはおろか、配信のコメントも止まってしまっている。


 どうこの場を収めようかと考えていると、ジーク・フォレストの安置の方向から急激なスピードでいくつかの馬車がやってきた。


 移動用にいつか使えたらいいなと思っていると、その馬車からギルドの職員らしき姿をした人間たちが出てきた。


 その中には先日絡んできた大人気配信者、朝霧メアもいる。とりあえず一段落ということで、彼女に声をかけてみることにした。


「なんだ、意外とギルドは仕事が早いな?」


「それほどの異常事態が起こっているということよ。そっちこそ、ずいぶん派手なことしたみたいじゃない?」


「まあな」


「メアさん…また会えるなんて…!」


 ナギは羨望の眼差しで朝霧メアを見つめながら過呼吸になっていた。面倒なので放っておくことにした。


「あたしがギルドに召集されるなんて結構珍しいんだけど…そこをあなたに説明しても分からないでしょうね」


「まあな。そんじゃ俺たちは配信切って帰ることにするわ。またな」


「あ、ちょっと」


「それじゃみんな、また次の動画でな」


 朝霧メアの制止を振り切って配信を切り、ナギを引っ張ってジーク・フォレストの安置へと向かった。


 動画の最大同接人数は最初の配信にしてまさかの10万超え。


 チャンネル登録者も7万人とかなりいいスタートを切れた。ダンジョンに起こる異変や前世の愛剣との再開。


 気になることはあるが、ひとまずは初配信の成功を喜んだ。

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逆転生者のダンジョン配信 ~現代日本に転生した異世界人は、前世の知識を使ってダンジョンで無双する~ 馬鹿侍 @makenn

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