カッコウになったモズ

花野井あす

カッコウになったモズ


 この街では、カセットコンロとヤカンが良く売れる。


 なぜか?

 その答えは、近所の小学校にある。


 子どもが大人の手伝いをする――これは実に素晴らしいことだ。子どもは自律性を養い――大人は楽が出来る。ある小学校の教諭はこのように考え、これを実践させるための授業を組んだ。


 内容としてはこうだ。

 道具の使い方を教え、それを使った掃除や料理を学ばせる。そして同じことを家でさせ、家族から感想をもらう。この実践は複数日行われるのが望ましい。実行した日には必ず父母どちらかから何かしらのレスポンスをもらうよう、子どもたちに伝えようではないか!


 冬の休みの間に教諭は綿密な教育計画を練り、春うららかな季節を迎えると、とうとう実行へ移すこととなった。


「手始めに、茶の入れ方を覚えよう。疲れた親御さんを労わるのだ。」


 労わる、ということが何かもよく理解していない’子どもたちは実に素直に従った。


 滅多に触らないガス焜炉へどきまぎしながら、子どもたちは湯を沸かし、湯を少し冷ましたのち茶葉を入れた茶こしに湯を注ぐ。数分待って、茶をカップに分ける。均等な濃度になるよう、少しずつ小分けに茶を淹れてゆく。


 子どもたちはきゃあきゃあ、楽し気に声を上げながら茶を淹れるのを楽しんだ。中にはごっこ遊びに興じる子もおり、「お茶をいれましてよ、あなた」と母親の真似をする。教諭は満足であった。


「みな、これを家で実践して親御さんから感想を貰いなさい。何回やっても良い。毎日やっても良い。きっと親御さんはお喜びになる!」


「先生、僕の家はオール電化で、ガスがありません。」

 ある生徒が手を上げて言った。

「風呂くらい、ガスであろう。」

 教諭は答えた。

 

「先生、僕のお母さんはキッチンに入られるのを嫌います。なんでも、の邪魔になるだとか。」

 するとまたほかの生徒が手を上げて言った。

「手伝いをしたいと言って嫌がる母親はいない。」

 教諭は言い切った。


「感想を貰わなかった者は、宿題をしなかったとみなして減点する!」


 するとなんと驚いたことだろう。

 ホームセンターの店員たちは驚きを隠せないでいた。街中の奥方が、カセットコンロとヤカンを買い占めたのである。なんでも、家事の邪魔にならぬように課題を遂行させるために必要なのだという。中には、ガスが必要だから、という奥方もいた。一体何事か。


 何れの感想も「とても助かりました。」の一文。

 きっとこれは家族の成長を促したに違いない。教諭は確信した。


 こういうわけで、この教育計画は他の教諭からも大絶賛され、そしてカセットコンロとヤカンのメーカーも大盛況になったわけである。

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カッコウになったモズ 花野井あす @asu_hana

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