Evil Eyeballs

博学者思索

Gaze

何があっても会いたくない奴が、一人だけいたんだけど。




そいつとは、小学校から高校までずっと仲良くてさ。

家も近くて、家族ぐるみで付き合いもあったんだよな。


ノリも良かったし、ウマも合ったし。

俺は仲良くしてたつもりだけど、多分あいつ自身もそう思ってたんじゃねぇかな。




なんだけど、ある時。

そいつから突然電話かかってきたんだよ。


しかも日曜の朝5時とかで。

仲良いつっても限度があるだろ、とか思って半ギレで出たんだけど。


何かそいつ、本当に電話口でも分かるくらいに興奮してて。


もうマジで何言ってるのか聞き取れないレベルで、捲し立てるみたいに喋ってくんの。

しかも言ってる内容が滅茶苦茶でさ。






「なぁ、前々から相談してただろ。

 実家に帰省した時、天井裏から見られてる気がするって。


 ずっと前から、布団で寝ると

 上から見てくるの感じるんだ、って。


 昨日、ちょっと用事で実家の方行く機会があったんだけどよ。

 ついでにと思って、梯子引っ張り出して屋根裏見てみたんだわ。


 そしたら、何があったと思う?


 なぁんもねぇの。

 なぁんも無くて、がらんとしてんの。


 でも、何か感じるんだよ。

 見られてんの。

 分かるんだよな。


 なぁ。

 お前さ。

 これ、どういう意味があるんだろうな」






……確かそんな感じのことを、ベラッベラ何度も繰り返してくんの。 


いやでもさぁ、そんな事言われても困るじゃん。


言ってる事も意味分かんねぇしさ。

時間帯も何で今? って思うじゃん。

もうちょっと後で言えよそんなこと、みたいな。




それよりおかしいのがさ。


俺とそいつ、その前日カラオケでオールしてんだわ。


休みだけどやることもねぇし、じゃあカラオケで歌いまくるか〜って話になって。

正午ちょっと前から深夜まで、ずっとカラオケで遊んでて。


じゃあお疲れ〜、つって別れてさ。

その3時間後くらいに電話かかって来た訳よ。


だから、そいつが昨日実家に行ってる訳ねぇの。




それだけでもおかしい話なんだけどさぁ。


そもそも。

そもそもの話なんだけど。


そいつ、実家ねぇんだよ。


結構大きめの一軒家、三世代住宅って言うの?

あいつ、そういう家に住んでてさ。


両親と、あと父方の爺ちゃん婆ちゃんと一緒だったんだっけ。

そんで母方の方はどっちも亡くなってるらしいから、マジで実家とかある訳ねぇの。


だから、そいつが言った相談みたいな?

そんなもん、それまで一度もされてねぇんだよ。

当たり前だよな、そもそも実家が無いんだから。


だから全部有り得ねぇの。

そいつが言ってる話、何もかも起こるはずない話なの。 




いや、もちろんそう言ったよ。


語り口調がマジだったし、嘘とかじゃないとは思ったんだけど。

まぁ寝惚けて夢と現実ごっちゃになったとかじゃねぇかな、と思ってさ。


だから「ある訳ねぇじゃんそんな事。お前んち帰省とかしねぇじゃん。つか “今年の夏休み、一回も遠出できなくて萎えたわ〜” とかこの前自分で言ってただろ。馬鹿言ってねぇでさっさと寝ろよ」、みたいなこと言ったんだよ。




そしたら、そいつ黙っちゃって。


もうダンマリ。

5分くらいそんな感じだったから、なんか頭冷えて気まずくなったんじゃねぇかと思って。


もう切っちまっていいかな、と思って

終了ボタン押そうとしたらさ。 



そいつが。

さっきとは別人みたいに。



ゆっくり。

静かに、こんな事言うんだよ。






「あのさぁ。

 貝ひもって、知ってるだろ。


 コンビニとかに売ってるやつで。

 黒いぶつぶつとかが、表面にある。


 あのぶつぶつって、

 実は全部、目玉らしいんだよ。


 それで。

 屋根裏行って、思ったんだけどさ。


 一回、あそこで全部。




 ほどけちゃったんだろうなぁ」






そう言って、ブツッて電話切られたの。

いやもう意味分かんねぇし、滅茶苦茶気味悪いじゃん。


だから何回も掛け直したんだけど全然繋がんねぇし。


もう当然心配になる訳じゃんか。

だからダッシュでそいつん家行って、インターホン鳴らして。

すいませーん、○○くんいますかー、つって。


そしたら、家ん中からそいつが出てきたんだけどさ。




なんか、普通だったんだよな。

それまでと何も変わらない感じ。


「こんな早くにどしたの?」みたいな、すっとぼけた顔までしててさぁ。


こっちが電話の話しても「いや、そんな事してねぇけど?」みたいなリアクションだし。

「そもそも実家ってどこだよ(笑)」みたいな事まで言われて。


いやそんなのこっちも承知だっつーの、って話なんだけど……

まぁとにかく何も無いなら良かったわ、俺の方が寝惚けてたかもな、またカラオケ行こうな、とか何とかちょっと話して帰ったんだわ。






 


それで、その日は終わったんだけど。


それから、そいつがさ……

段々……


何つうかな、こう……表現が難しいんだけどさ。




ズレ始めてさ。




なんか普段はそれまでと変わんねぇんだけど、ふとした時、

ボーッとしてる時とかにさぁ。


目がさ。

ズレるんだよな。


焦点が合わないのともまた違うっていうか、

なんか、むしろ別々の焦点に合わせてるっていうか?


左目と右目、両方がしっかりと「何か」を見据えながら全然違う動きをするんだけど。


それが、本当に気持ち悪くて。


なんか妄想じみてるんだけど、あのズレた目。

その焦点になったらヤバいんじゃねぇか、ってずっと思ってて。












だから、もうあんまり関わらないようにして。


参列の誘いも無視して、上京に合わせて完全に関係も絶って。


紙袋の底とか、カーテンの裏側も無視するようにしてたんだけどさ。


でも、今更あんま意味なかったのかもしんねぇわ。
















だって。

もう見られることしか出来ないみたいで。

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