四足駆動給水機と憤怒族

1時間程歩き、湖の畔ヘ着いた。


道中、緑色の蜥蜴の尾を持つ小鳥や手のひらサイズのバッタ等を見つけて異世界を感じていた。


湖はかなり大きく、陸の中の海といえる程に大きい。


ズン…ズン…ズン…


突然、低く鈍い音と共に小さい揺れを等間隔で感じ

る。


「なんだ?」


音の方へ目を向けると、湖の西側。

周りの風景と変わり、植林されているかのように生えている高木の林。その木々の隙間から、動く明るい茶色の巨体を見つけた。


行ってみよう。


すぐに逃げられるように身を引き締めて、向かう。


目標の動く物体は近づくに連れて林の外へ出てきている。


湖に目的があるのだろうか?


1分程度だろうか歩いて近づくと、その巨体の全貌が見えてきた。


「これは…ロボット…いや、ゴーレム?といったほうが良いかな?」


それは人の手を模した6本の脚を持ち、背中に2つの巨大な円柱を横にして背負っている。頭部のような部位は太い一本の筒が出っ張っていて、首部にはポンプのような物が付いている。


「凄いな。魔法というのはこんなものまで作れるのか。」


感心して少し離れた位置で、ゴーレムが湖へ向かうのを見ていると、突然声を掛けられた。


「お前、人間か?」


声の方向へ視線を向けるとそこには、人型ではあるが明らかに人間ではない見た目の存在が立っていた。


その存在は痩せ型…というよりも細マッチョというのが正しいか。細マッチョの胴に鋭い爪と大きな鰭の生えた四肢を持ち、腰からは尾びれの付いた細長い尾が生えている。

服のない場所から見える肌は全体的に真っ黒で、内側…いや、腹部という方がわかりやすいか。腹部は白色になっている。

あぁ、もっとわかりやすい説明を見つけた。

細マッチョで人型のシャチだ。目の前の存在は。


とりあえず返事をしよう。


「はじめまして、夜爪といいます。人間です。」


軽く自己紹介を混ぜて答えた。


「そうか。人間か。………なんでここに人間がいるんだ?どうやって来た。」


数拍空いた後、少し怖い雰囲気を醸しながら追加の質問が来た。


「私は異世界から来ました。目的は観光です。異世界から特別な力を使ってこの世界に来ました。何故この場所に来ているのかは私もわかりません。」


少しの間沈黙したまま、こちらを見ている瞳は黄色く淡い光を帯びている。


「嘘はないな。そうか。観光できてここに着ちまったのか。そりゃ災難だな。」


目の前の存在から怖い雰囲気は無くなり、目の前の存在も軽く力を抜いた状態で返事をした。


「ところで、貴方は誰ですか?」


「ん?あぁ、もしかしてこの世界に来るのは初めてか?」


「はい。初めてです。」


「そうか。じゃあちっと教えてやるよ。俺はシーチャ。憤怒族の悪魔だ。ほら、爪とか腰の羽が赤いだろ?コレが憤怒族の証だ。」


言われてみれば、体の一部が赤い。


「確かに赤いですね。それより悪魔なんですか?」


「あぁ、そうだ。あ、あれだぞ。異世界の宗教にあるっていう神様の敵とか人間の欲を増やすと悪いやつとかそういうのじゃないからな。あくまで悪魔という生き物の種族だ。」


「ほう。」


「でだな。ここは悪魔の帝国イーヴィルへヴンの憤怒王国だ。憤怒族の悪魔が住んでる国だ。王様はサタン12世だ。」


サタン。地球の七つの大罪の悪魔も同じ名前だ。そして12世。襲名制なのだろう。


「そしてコレが1番お前が知ってなきゃいけないことだ。この世界は今、悪魔が殆どを支配している。だが、一部は人間を含めた人族が支配している。そして、人族は俺達を勝手に敵にして世界の支配を目論んでる。つまり、悪魔からは人間は嫌われているってことだ。」


「そうなんですか。つまりもしさっき逃げたりしたら…」


「追い掛けて殺してたな。人族のスパイかもしれないやつを好きにさせるわけ無いだろう?」


「じゃあ、なんで今は好きにさせてもらっているんですか?」


「そりゃ、俺は悪魔帝国運営の給水屋だ。それなりに大事にされてるってことよ。傲慢族の『我に嘘など許されない《ミトオスヒトミ》』が貰えてるんだよ。俺は。何かあったらイケないからな。」


「ミトオスヒトミ。嘘を見破る…みたいな能力ですか?」


「そうそう。正確には能力を再現した道具だな。俺の目には薄い魔道具が入ってるんだよ。それがミトオスヒトミ。」


「なるほど。」


「説明はこんぐらいでいいな。それでだ。お前。行く宛はあるのか?」


「無いですね。人を探してここまで歩いてきました。」


「なるほどなぁ。そうだな。アイツが水を汲み終わったら加工所に行くんだ。ついてくるか?他のやつには俺が説明するからよ。」


「良いんですか?」


「おうよ。悪魔の領域で何も知らねぇ人間が一人。助けない義理はねぇ。」


「ありがとうございます!!」


こうして私は、シーチャさんのご厚意により憤怒王国の飲水を作っているという加工所、イーヴィルヘブン帝国コレーロ加工所に向かうことになった。

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一般人が異世界を旅行するだけ Hr4d @Hrad

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