愚者の楽園 第1回短歌・俳句コンテスト短歌の部二十首連作部門参加作品

平 健一郎 (たいらけんいちろう)

愚者の楽園

見つめ合うことではなくて同じ海見つめて言葉忘れし少女


ためらわず命ふれたる向日葵にゴッホの真夏果てなくうねり


千の風吹く湖に恋せしもひとつの海に染まり息づく


人形の世界を許し抱きしめる惜しげもなしに身を投げ出して


詠まれたる約束の地はまぼろしの花野の果てに来しが海


初恋と最後の恋のオペラとはソプラノアルト双子の姉妹


響きあう蝶の羽音をひそませて博物館の微笑む埴輪


崩れゆく白き形代なめらかにひらかれてゆく水なめらかに


吹き抜けて愛せなければ耳朶透かしピカソの青の時代の風よ


古書店に折り目の残る一頁記憶に沈む愚者の楽園


恋猫の月夜負けざる声告げし花粉を散らす革命前夜


瑠璃色の風また新しき空が石の煙突パリの鴎に


夜桜と星の記憶の重なりて許しあうこと骨があること


諍いの恋の更新日の期限知らす葉書にミロのヴィーナス


抱擁の息のつまりに産毛立つ金色こんじき溢れクリムトの接吻キス


手花火に恋の今昔物語ひとつ言葉に生かされている


愛されていないと信じこまされて身を丸めれば柔らかき石


消え残る流燈の火と声はまた遠のいてミレーのオフィーリア


五線譜に水の記憶のセレナーデ紅茶に銀の匙ひんやりと


喪失の季節に天使漂わせ眠らず煙草ふかしているか


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愚者の楽園 第1回短歌・俳句コンテスト短歌の部二十首連作部門参加作品 平 健一郎 (たいらけんいちろう) @7070ks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ